レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.248 経済連携協定の利用状況──2024年における日本の輸出
早川 和伸, Nuttawut Laksanapanyakul, Francis Mark Quimba
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- 2023年と2024年の間で、日本の輸出における経済連携協定(EPA)の利用状況に大きな変化は確認されなかった。
- EPA利用による輸出シェアは、タイ向けで5割弱、フィリピン向けで7割弱で推移している。
- 韓国向けでは地域的な包括的経済連携(RCEP)が唯一のEPAであり、特恵対象品目におけるRCEP利用シェアは約3割にとどまる。
本ポリシーブリーフでは、日本の輸出における経済連携協定(EPA)の利用状況について紹介する。筆者はこれまで本シリーズにおいて、2022年(No. 181)および 2023年(No. 194)の利用状況を報告してきたが、今回は2024年の状況を取り上げる。一般的に、EPAの利用状況は輸入国側の統計を用いてのみ把握することが可能である。そのため、日本のEPAパートナー、とくにEPA利用統計が公開されていないアジア諸国向けの輸出について、毎年その利用状況を紹介する意義は大きい。
データの紹介
本稿では、とくにタイ、フィリピン、韓国向け輸出におけるEPAの利用状況を取り上げる。前年からの変化を明らかにするため、2023年と2024年の2カ年を対象に報告する。3カ国の日本からの関税率別輸入額は、タイ税関局、フィリピン税関局、韓国貿易統計振興院からそれぞれ入手した。関税率データについては、タイはWTOのTariff Analysis Online、フィリピンはフィリピン税関局、韓国はWorld Integrated Trade Solutionから取得している。
分析にあたっては、以下の点に留意する必要がある。第1に、データ制約により、タイおよび韓国の関税率データについては2023年のデータを2024年の輸入統計にも適用している。第2に、フィリピンにおいて地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効したのは2023年6月2日であるため、2023年のフィリピンに関する分析は同年6月以降の期間に限定している。
関税率別の輸入額シェア
各EPAの利用状況を把握するため、本稿では関税率別の輸入額シェアを算出する。具体的には、日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定、二国間EPA(日・タイEPA、日・フィリピンEPA)、およびRCEPの3種類のEPAを利用した輸入額が、それぞれ全体に占めるシェアを検討する。
表1.MFN有税品目における関税率別輸入額シェア(%)
(出所)タイ税関局、フィリピン税関局、韓国貿易統計振興院のデータを基に筆者作成。
まず、EPA税率を用いるメリットがある、最恵国待遇(MFN)税率が有税となっている品目に限定した場合の輸入額シェアを表1に示す。なお、「その他」にはMFN税率を適用した輸入に加え、EPA以外の特別制度を利用した輸入が含まれている。具体的には、タイでは関税還付制度など、フィリピンでは投資委員会(BOI)スキーム、韓国では国際協力税率などを用いた輸入がこれに該当する。
タイ、フィリピンともに二国間EPAの利用が多く、タイでは輸入全体の約4割、フィリピンでは6割強が二国間EPA税率を用いた輸入となっている。一方、AJCEPやRCEPといった広域EPAの利用は極めて限定的である。AJCEPはRCEPよりもやや高いシェアを示すものの、それでも数パーセントにとどまる。
日本と韓国の間では、RCEPが唯一のEPAであるため、タイやフィリピンに比べるとRCEPの利用シェアは高い。しかしながら、その水準は全体の2割程度にすぎず、積極的に利用されているとは言い難い。なお、これらの傾向については、2023年と2024年の間で大きな変化は確認されなかった。
RCEPは発効からすでに3年が経過しているものの、その利用は依然として低調である。ただし、この低いシェアは、RCEPの特恵対象外の品目が含まれていることが一因である可能性がある。そこで、RCEPの特恵対象品目に限定して関税率別の輸入額シェアを算出した結果を表2に示す。
表2.RCEP特恵対象品目における関税率別輸入額シェア(%)
(出所)タイ税関局、フィリピン税関局、韓国貿易統計振興院のデータを基に筆者作成。
タイおよびフィリピンでは、RCEPの輸入シェアがわずかに上昇したものの、その変化は極めて小さい。なお、フィリピンにおいて二国間EPAのシェアが半減している点については、要因を明らかにするための追加的な分析が必要である。韓国では、RCEPの輸入シェアが2割から3割へと上昇した。しかし、タイでは全EPAの輸入シェアが約5割、フィリピンでは約7割であることを踏まえると、韓国におけるEPA利用シェアは相対的に低いと評価できる。これらの傾向については、2023年と2024年の間に顕著な変化は確認されなかった。
終わりに
以上のとおり、2023年と2024年の間で、日本の輸出におけるEPA利用状況に大きな変化は見られなかった。タイおよびフィリピンでは、二国間EPAやAJCEPによる関税削減が進んでいることから、EPAを利用した輸入シェアはタイで5割弱、フィリピンで7割弱で推移している。一方、日本と韓国の間ではRCEPが唯一のEPAであり、RCEPの特恵対象品目における輸入シェアは3割程度にとどまる。
日本の輸出におけるEPA利用水準の低さに関しては、ポリシーブリーフNo. 247を、またRCEPの利用メリットやその利用が限定的である理由についてはポリシーブリーフNo. 199を参照されたい。なお、RCEPの利用が少ないこと自体を問題視しているわけではない。二国間EPAやAJCEPの方が関税率や原産地規則の面でより有利である場合、RCEPの利用が限定的になるのは自然な結果である。
タイおよびフィリピン向け輸出については、今後RCEP税率が段階的に引き下げられ、その水準が既存EPAの税率に追いついた段階で、RCEPの追加的メリット(累積規定、継続的な原産地証明、自己申告制度など)を活用したい企業は、既存EPAではなくRCEPを選択するようになると考えられる。
韓国向け輸出においてはRCEPが唯一のEPAであるため、RCEP税率の低下に伴って今後もEPA利用シェアが拡大する余地がある。加えて、2025年から韓国とのRCEPを用いた貿易において自己申告制度が利用可能となったことを踏まえると、2025年の韓国向け輸出ではRCEPのシェアに大きな変化が生じる可能性もある。
謝辞
韓国の輸入統計の入手にあたり、李海昌氏(JETROソウル事務所)、中村敏久氏(アジア経済研究所)に大変お世話になった。ここに記して感謝の意を表したい。
(はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター、なたうっと らくさなぱんやかる/フリーランス、
ふらんしす まーく きんば/フィリピン開発研究所)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
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