レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.237 プラスチック汚染対策──東南アジア諸国の取り組みから
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- プラスチックの流出量を推計した研究では、発展途上国、特に、所得が上昇しプラスチックの使用量が増えた中国や東南アジア諸国からの流出が多いと推計されている。
- 途上国では、廃棄物収集が一部地域に限定され、廃棄物の処分、適正処理が十分でない。
- 使い捨てプラスチックの抑制、生分解性プラスチックの利用、拡大生産者責任の提供、特定施設からの流出の防止、廃棄物の収集・適正処分を進めるべきである。
2015年、Science誌にプラスチックの海洋への流出量が480万トンから1270万トンと推計されるとの論文が発表された(Jambeck et. al. 2015)。中国の流出量が113~253万トンと一番多く、インドネシア(48~129万トン)、フィリピン(28~75万トン)、ベトナム(28~73万トン)が続く。上位10位以内に、タイ、マレーシアも入っており、東南アジア諸国の流出量をあわせると、中国を上回ると推計されている。途上国での対策が欠かせない。
東南アジア諸国では、プラスチック汚染対策のアクション・プランやロードマップを策定するとともに、世界銀行、GIZ(ドイツ国際協力公社)、日本の環境省などの支援を受け、プラスチック汚染対策が進めてきている。
プラスチック汚染の特徴
プラスチック汚染の特徴の一つとして、発展途上国からの流出が多く、発展途上国での取り組みが欠かせないという点が重要である。温室効果ガスの排出やフロンによるオゾン層破壊では、排出量が多い先進国がまず取り組むかたちで、対策が始まった。
プラスチック汚染については、先進国では、廃棄物の収集・処分が、ほぼ全国で実施されているのに対して、発展途上国では、都市部に限定されている。埋立処分場からのプラスチックの流出も多い。先進国の取り組みだけでは効果が十分でない。
また、プラスチックは、さまざまな種類があり、その用途も多岐にわたっており、他の物質に代替するのが難しい場合も少なくない。プラスチック汚染対策では、プラスチックの代替素材を活用することが先決であるが、代替する素材がなければ、廃棄されたプラスチック製品をリサイクル、あるいは、適切に処分する必要がある。プラスチックの使い方や使う場所、等に応じて対策を考える必要がある。
対策1──使い捨てプラスチックの抑制
使い捨てレジ袋の使用の抑制は、東南アジアの多くの国で、取り組まれている。中央政府や地方政府が、レジ袋の無料配布を禁止し、有料化するといった取り組みが広がってきている。ストローについては、紙や茎(中が空洞のもの)を使ったものが、提供され始めている。また、綿棒の軸にプラスチック製の軸が使われていた国もあるが、紙製、木製の軸も使われるようになってきている。
さらに、お客さんに容器を持ってきてもらい、洗剤や油などを販売するといったリフィル・ビジネスも東南アジアで少しずつ広がってきている。
対策2──生分解性プラスチックの利用
生分解性プラスチックは、長期的に利用することは難しいが、環境中に流出しやすいプラスチック製品に使うことが望ましい。具体的には緩効性肥料のカプセルである。日本では、JA全農が緩効性肥料のカプセルに、生分解性プラスチックを使う方針を2022年に発表した。また、パーム農園やバナナ農園では、実をプラスチックのシートでカバーしている。バナナの場合は日光があたることでバナナの色が緑色から黄色になりやすくなるため、プラスチックで覆っているという。野外で利用されるプラスチックは、環境中に流出しやすいため、生分解性プラスチックを活用し環境中への流出を防ぐ取り組みが必要である。
対策3──リサイクル、拡大生産者責任の導入
東南アジア諸国でも、拡大生産者責任に則った制度の導入が徐々に進んでいる。
フィリピンは、2022年にプラスチック容器包装を対象に含む拡大生産者責任法を制定した。同法は2023年から適用されているが、同年のリサイクル率は、目標のリサイクル率20%を上回ったと報告されている(目標とするリサイクル率は、徐々に引き上げる予定となっている)。
ベトナムは、2024年から、容器包装、タイヤなど、拡大生産者責任を広汎に適用し始めた。生産者は、自ら(生産者責任団体を含む)収集・リサイクルする、あるいは、環境保護基金にリサイクル料を払えば、責任を果たしたことになる。
シンガポールは、デポジット・リファンドを飲料容器に適用する予定となっている。2026年4月~6月はデポジット・リファンド対象のボトルと対象外のボトルが混在する期間となっており、同年7月から対象の飲料容器のみが使われる予定となっている。
対策4──屋外の特定施設からの流出防止
東南アジア諸国では、プラスチック製品の製造工場やリサイクル工場からプラスチックが流出している。プラスチック・ペレットの色や品質を確認する際に袋から流出する場合や、屋外に置かれた廃プラスチックが風や雨により環境中に流出する場合もある。また、廃プラスチックを破砕し、洗浄するプロセスでプラスチックが環境中に流出する場合もある。
また、廃棄物処分場からも、風や雨でプラスチックが流出していることが明らかになっている。プラスチックの製造工場やリサイクル工場を含め、プラスチックが環境中に流出する可能性がある施設にはついては、環境アセスメントや水質汚濁、大気汚染に関する法令を改正し、特定施設からのプラスチックの流出を防止することが望まれる。
対策5──廃棄物の収集、適正処分
環境中への流出量を推計している研究では、廃棄物の収集サービスを受けている人口の割合が重要な変数となっている。たとえば、東・東南アジア全体では、3分の1、中央・南アジアでは、8割近い廃棄物が収集されていないと報告されている(UNEP 2024)。廃棄物の焼却施設の建設コスト等が高いため、所得水準が低い国では焼却施設は限定的であり、廃棄物が野焼きされている場合が多い。収集された廃棄物が、埋立処分場に送られている割合も高い。処分場からもプラスチックが流出していることが報告されており、覆土、排水処理などが必要となる。
まとめ
実際に、使い捨てプラスチックの使用抑制、生分解性プラスチックの利用、拡大生産者責任の適用が徐々に広がってきている。しかし、プラスチックのリサイクル工場など、特定施設からの流出防止や廃棄物の適正処分については、不十分なところも残っている。日本の過去の経験を含め、さまざまな対策を発展途上国に伝えていくとともに、必要に応じて技術移転などを進めていく必要がある。
(こじま みちかず/新領域研究センター)
参考文献
- Jambeck et. al. (2015) “Plastic Waste Inputs from Land into the Ocean.” Science, 347, 768-781.
- UNEP (2024) Global Waste Management Outlook 2024.
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
©2025 小島道一