レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.194 RCEPの利用状況──2023年における日本の輸出
早川 和伸、Nuttawut Laksanapanyakul
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- 2023年におけるRCEP利用率は、日本の韓国向け輸出で22%、タイ向け輸出で1%であった
- 2022年にはそれぞれ15%、0.2%であったため、わずかに上昇しているものの、依然として低い水準にある
2022年1月1日、東アジア、東南アジア、オセアニアをカバーした自由貿易協定(FTA)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。アジアのメガFTAとして期待されているRCEPであるが、その利用状況は芳しくない。
アジ研ポリシー・ブリーフNo.192で紹介したように、日本の輸入では、2022年から2023年にかけて、ほとんどの国でRCEPの利用度は上昇しているものの、依然として他のFTAに比べて極めて低いままであった。同様に、アジ研ポリシー・ブリーフNo.181で紹介したように、2022年において、日本からの輸出におけるRCEPの利用度も高くなかった。
本ポリシー・ブリーフでは、発効後2年目となる2023年における、日本からの輸出でのRCEP利用度を紹介する。必要なデータが入手可能なRCEPメンバー国の韓国とタイを分析対象とする。
韓国の輸入における関税率別輸入額シェア
韓国における2023年の関税率別輸入額を、貿易商品分類であるHSの10桁レベルで「韓国貿易統計振興院」から入手した。今回入手したデータは、2023年の関税率別、輸出国別、商品別の輸入総額である。RCEPメンバー国からの輸入では、RCEP以外にも、二国間FTA(Bi)など、いくつかの特恵関税率が利用可能である。
表1は、MFN税率が有税の品目に限定したうえで、関税率別の輸入額シェアを示している。韓国の2023年における最恵国待遇(MFN)税率は、WTOのTariff Analysis Onlineから入手した。Otherは国際協力税率などでの輸入を含んでいるが、大半はMFN税率による輸入である。日本からの韓国向け輸出額のうち、RCEP税率が用いられているのは18%であり、2022年の11%からわずかに上昇している。
表1.韓国の輸入における関税率別シェア(%)
続いて表2では、RCEP税率での輸入額シェアを産業別に調べる。ここではRCEP特恵対象品目に限定する。2023年の貿易データはHS2022版で報告されているが、韓国のRCEP税率をHS2022版の10桁レベルで入手することができなかった。そのため、RCEP協定書に掲載されているHS2012版のRCEP税率をHS6桁レベルで単純平均を取り、それをHS2022版のHS6桁コードに接続した。そのHS6桁レベルで定義されたRCEP税率とHS10桁レベルで定義されたMFN税率を比較し、RCEP特恵対象かどうかを識別している。
表2が示すように、日本からの輸入では、2022年同様、Food products、Mineral products、Chemical productsにおいて、3割を超える相対的に高いシェアを示している。この表ではRCEP特恵対象品目に限定しているため、全産業では22%となり、表1よりもわずかに高い。
表2.韓国の輸入におけるRCEP税率による輸入額シェア(%)
タイの輸入における関税率別輸入額シェア
次にタイの輸入における関税率別輸入額シェアを調べる。輸入額データはタイ税関から、HS8桁レベルにおけるMFN税率やRCEP税率はWTOのTariff Analysis Onlineから入手した。
表3.タイの輸入における関税率別シェア(%)
表3では、MFN税率が有税の品目に限定し、関税率別の輸入額シェアを示した。RCEPの他、ATIGA、ASEAN+1 FTA(AANZ、AC、AI、AJ、AK)、二国間FTA(Bi)などが含まれている。また、MFNとそれ以外(関税還付制度等)を分けている。日本からの輸入では、二国間FTA(JTEPA)とOtherがそれぞれ4割を占め、RCEPはわずか0.8%である。2022年の0.2%からわずかに上昇しているものの、引き続き二国間FTAが主に用いられている。
次に表4では、日本からの輸入、そしてRCEP特恵対象品目に限定し、関税率別輸入額シェアを示している。RCEP利用率は、Footwearで最大の8%を示す程度であり、産業別で見てもほとんど利用されていないことが分かる。全産業では1%である。
表4.タイの日本からの輸入における関税率別輸入額シェア(%)
おわりに
RCEP発効2年目となる2023年では、日本の韓国向け、タイ向け輸出(RCEP特恵対象品目)におけるRCEP利用率はそれぞれ22%、1%であった。2022年にはそれぞれ15%、0.2%であったため、わずかに上昇しているものの、依然として低い水準にある。とくに、RCEPが唯一のFTAとなる韓国向け輸出において、22%は低すぎる。逆に、2023年における韓国から日本への輸出では、RCEP利用率は68%である(ポリシー・ブリーフNo.192)。つまり、韓国の企業の多くがRCEPを利用して日本市場への特恵アクセスを享受しているのに対して、日本の企業はRCEPによる特恵アクセスを韓国市場において享受できていない。RCEPも既に3年目に入るため、早急に原因の究明と対策が必要である。
(はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター、ナタウット ラクサナパンヤカル/フリーランス)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
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