レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.192 RCEPの利用状況──2023年における日本の輸入

2024年5月21日発行

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  • 2022年から2023年にかけて、ほとんどの国からの輸入において、RCEPを用いた輸入額シェアは上昇したものの、依然として極めて低いままである。
  • 中国および韓国からのRCEP特恵対象品目における輸入のうち、RCEPを利用した輸入額は7割程度となり、2022年に比べ、10%ポイント以上、上昇した。

2022年1月1日、東アジア、東南アジア、オセアニアをカバーした地域貿易協定(RTA)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。我が国にとっては中国と韓国との初のRTAでもある。アジ研ポリシー・ブリーフNo.178で紹介したように、2022年はRCEP元年ということもあり、日本の輸入におけるRCEPの利用度は高くなかった。発効後2年目となる2023年では、RCEPの利用度は高まったのであろうか。

RCEPの概要

RCEPは、日中韓にASEAN10カ国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国の間で、2020年11月に署名された。2022年1月1日、日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国、ニュージーランドの10カ国においてRCEPは発効した。その後、韓国では2022年2月1日に、マレーシアでは同年3月18日に、インドネシアでは2023年1月2日に、フィリピンでは同年6月2日に発効している。ミャンマーも批准はしているものの、政情不安から日本はミャンマーに対してRCEP税率を適用していない。

日本のRCEP署名国からの輸入において、関税率別の輸入額シェアを概観する。最恵国待遇(MFN)税率、各種RTA税率、そして一般特恵関税率(GSP)を対象とする。総輸入額からRTAやGSPによる輸入額を引いた差分を、MFNによる輸入額と見なす。分母を総輸入額、分子をこれら税率別の輸入額としたシェアを計算する。対象は2023年とし、輸入額データは日本の税関から、関税率のデータは世界貿易機関(WTO)によるTariff Analysis Onlineから入手する。フィリピンからの輸入では、6月以降に限定する。

関税率別輸入額シェア

表1では、MFN税率が有税の品目に限定したうえで、各税率の輸入額シェアを計算している。RTA/GSPは、RTA税率もしくはGSP税率を用いた輸入額の総額を分子にしたシェアを示す。オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ニュージーランド、フィリピン、タイ、ベトナムからの輸入の90%以上が、何らかの特恵税率を用いたものになっている。

表1 MFN有税品目における輸入額シェア(%)

表1 MFN有税品目における輸入額シェア(%)

  1. (出所)税関データを用いた筆者による計算

RCEP税率による輸入シェアについては、2022年実績も掲載している。中国と韓国からの輸入ではRCEPのみが利用可能であるが、中国からの輸入の半分、韓国からの輸入の4分の1がRCEP税率を用いたものとなっている。中国からの輸入ではRCEP輸入額のシェアが上昇しているが、韓国からの輸入では僅かながら減少している。

中韓からの輸入を除くと、RCEPを用いた輸入は少ない。ベトナムからの輸入で14%、インドネシアからの輸入で7%、それ以外からの輸入では数%程度である。ただし、総じてほとんどの国からの輸入でRCEPのシェアは上昇している。

ASEANのうち、日本と二国間RTAを結んでいる国の場合、ベトナムとシンガポールを除くと二国間RTAの利用が多い。ベトナムでは、唯一、二国間RTAよりも日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)のほうが先に発効したため、二国間RTAや環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)よりも、AJCEPのRTAを用いた輸入が多い。後発開発途上国(LDC)向けのGSPが利用可能なカンボジア、ミャンマー、ラオスからの輸入では、GSPの利用が多い。

表1では、MFN有税品目に限定したが、必ずしも低いRCEP税率が利用できるとは限らない。そこで表2では、MFN税率より低いRCEP税率が利用可能な品目(RCEP特恵対象品目と呼ぶ)に限定し、改めて輸入シェアを計算した。

表2 RCEP特恵対象品目における輸入額シェア(%)

表2 RCEP特恵対象品目における輸入額シェア(%)

  1. (出所)税関データを用いた筆者による計算

表1に比べ、中国および韓国からのRCEP輸入シェアは、それぞれ76%と68%まで上昇している。2022年実績に比べ、ともに10%ポイント以上、上昇しており、利用が進んでいると言えよう。表1同様、総じてほとんどの国からの輸入でRCEPのシェアは上昇している。

最後に、RCEP特恵対象品目における輸入額シェアを産業別に調べる(表3)。RCEP輸入シェアが高い最大の原因は、全RCEP署名国からの輸入額を集計しているため、輸入額が相対的に大きい中国からの輸入の影響を受け、かつ中国とのRTAはRCEPのみであるためである。化学産業と縫製業において50%を超える高いシェアを示している。中国と韓国を除外したときの結果が表4に示されているが、この場合、相対的に高いRCEP輸入シェアを示すのは食品と縫製業であり、15%程度となっている。

表3 RCEP特恵対象品目における産業別輸入額シェア(%)

表3 RCEP特恵対象品目における産業別輸入額シェア(%)

表4 RCEP特恵対象品目における産業別輸入額シェア(%)
(中国および韓国からの輸入を除く)

表4 RCEP特恵対象品目における産業別輸入額シェア(%)(中国および韓国からの輸入を除く)

  1. (出所)両表とも税関データを用いた筆者による計算
まとめ

2023年における日本の輸入において、RCEPをはじめとする特恵関税率の利用状況を概観してきた。2022年から2023年にかけて、ほとんどの国でRCEPの利用度は上昇しているものの、依然として他のRTAに比べて極めて低いままである。RCEP利用を推し進めていくうえで、現状の低い利用度が、関税率の水準や原産地規則の厳しさに起因するものなのか、分析が必要である。

はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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