レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.181 RCEP の利用状況──2022年における日本の輸出
早川 和伸、Nuttawut Laksanapanyakul、Ju-Hyun Pyun
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- 2022年におけるRCEP利用率は、日本の韓国向け輸出で15%、タイ向け輸出で0.2%であった
2022年1月1日、東アジア、東南アジア、オセアニアをカバーした地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。同日に10カ国で発効した後、韓国で2022年2月1日に、マレーシアで同年3月18日に、インドネシアでは2023年1月2日に、フィリピンで2023年6月2日に発効している。2024年1月現在、残る未発効国はミャンマーのみとなっている。
アジ研ポリシー・ブリーフNo.178では、日本の輸入を対象に、このRCEPが2022年にどの程度利用されたのかを紹介した。これに対して本ポリシー・ブリーフでは、2022年の日本の輸出において、RCEPがどの程度活用されていたのかを紹介する。必要なデータの利用可能性から、韓国とタイのRCEPメンバー国からの輸入を分析対象とする。RCEPは日本と韓国の間で初めての自由貿易協定(FTA)である一方、日本とタイの間には既に複数のFTAが存在している。
韓国の輸入における関税率別輸入額シェア
韓国における2022年の関税率別輸入額を、貿易商品分類であるHSの10桁レベルで「韓国貿易統計振興院」から入手する。今回入手したデータは、2022年の関税率別、輸出国別、商品別の輸入総額である。韓国でRCEPが発効したのが同年の2月1日であるため、RCEPが発効する前である1月分の輸入を含んでいることに注意が必要である。また、RCEPメンバー国からの輸入では、RCEP以外にも、二国間FTA(Bi)など、いくつかの特恵関税率が利用可能である。
表1は、MFN税率が有税の品目に限定したうえで、関税率別の輸入額シェアを示している。韓国の2022年における最恵国待遇(MFN)税率は、Tariff Analysis Online(WTO)から入手した。Otherは国際協力税率などでの輸入を含んでいるが、大半はMFN税率による輸入である。有税品目における日本からの韓国向け輸出額のうち、RCEP税率が用いられているのは11%だけである。
表1 韓国の輸入における関税率別シェア(%)
(出所)筆者作成
続いて表2では、RCEP税率での輸入額シェアを産業別に調べる。ここではRCEP税率での輸入額シェアに限定するため、RCEP特恵対象品目に限定し、さらに1月の輸入総額をシェアの分母から差し引く。1月の輸入総額のデータは、Global Trade Atlasより入手した。
2022年の貿易データはHS2022版で報告されているが、韓国のRCEP税率をHS2022版の10桁レベルで入手することができなかった。そのため、RCEP協定書に掲載されているHS2012版のRCEP税率をHS6桁レベルで単純平均を取り、それをHS2022版のHS6桁コードに接続した。そのHS6桁レベルで定義されたRCEP税率とHS10桁レベルで定義されたMFN税率を比較し、RCEP特恵対象かどうかを識別している。
表2に示されているように、日本からの輸入では、Mineral productsにおいて35%と最大になっており、それにChemical productsの23%、Food productsの21%が続く。それ以外の産業では20%以下である。
表2 韓国の輸入におけるRCEP税率による輸入額シェア(%)
(出所)筆者作成
タイの輸入における関税率別輸入額シェア
次にタイの輸入における関税率別輸入額シェアを調べる。関税率別輸入額データはタイ税関から、HS8桁レベルにおけるMFN税率やRCEP税率はTariff Analysis Online(WTO)から入手する。
表3 タイの輸入における関税率別シェア(%)
(出所)筆者作成
表3では、MFN税率が有税の品目に限定し、関税率別の輸入額シェアを示したものである。RCEPの他、ASEAN+1 FTA(AANZ、AC、AHK、AI、AJ、AK)、ATIGA、二国間FTA(Bi)などが含まれている。またタイの輸入では、OtherからMFNを抜き出し、MFNとそれ以外(関税還付制度等)を分けている。日本からの輸入では、二国間FTA(JTEPA)とOtherがそれぞれ4割を占め、RCEPはわずか0.2%である。
次に表4では、日本からの輸入、そしてRCEP特恵対象品目に限定し、関税率別輸入額シェアを示している。RCEP利用率は、動植物製品で最大の2%を示す程度であり、産業別で見てもほとんど利用されていないことが分かる。
表4 タイの日本からの輸入における関税率別輸入額シェア(%)
(出所)筆者作成
おわりに
RCEP発効1年目となる2022年では、日本の韓国向け、タイ向け輸出におけるRCEP利用率はそれぞれ15%、0.2%と、非常に低い水準であった。すでに複数のFTAが利用可能であったタイ向けはともかく、RCEPが唯一のFTAとなる韓国向け輸出において、15%とは低い水準である。例えば、逆に2022年における韓国から日本への輸出で、RCEP利用率は55%であった(ポリシー・ブリーフNo.178)。よりRCEPに関する情報が行き渡る発効2年目において、利用が進んでいることが期待される。
(はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター、ナタウット ラクサナパンヤカル/フリーランス、ジュ ヒュン ピュン/韓国大学)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
©2024年 執筆者