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移民の社会的保護――南アフリカ・モザンビーク・マラウイの制度と実態――

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研究会成果

学術書

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移民の社会的保護――南アフリカ・モザンビーク・マラウイの制度と実態――

著者/編者

出版年月

2024年12月

ISBNコード

978-4-258-04665-2

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内容紹介

内容紹介

本書では、モザンビークとマラウイから南アフリカへと国境を越えて移動し、移民労働者として就労する/した人びとの社会的保護をめぐる問題が考察されている。具体的には、(1)国際移民の社会的保護に関する研究のレビュー、(2)南部アフリカにおける国境を越えた移民労働の歴史、(3)民主化後の南アフリカの移民政策と社会的保護政策、(4)モザンビーク人移民鉱山労働者の職業性疾患をめぐる問題と給付金制度へのアクセス、(5)マラウイ北部農村出身移民にとっての「社会的保護としての移民労働」戦略が論じられる。グローバルサウスのなかでは例外的に公的な社会的保護の制度が整っている南アフリカでは、移民であっても鉱山労働者は拠出制年金/退職金への加入権を持ち、永住者や難民など一部の移民には社会手当の受給権が存在する。だが、移民労働者が出身国に帰国した後には、たとえその権利があっても、鉱山での健康被害に対する給付金を申請するのは極めて難しく、送り出し国政府や地域機構を含め、南部アフリカ地域全体で域内の移民労働者の社会的保護の実現に取り組む必要性があることが示される。

目次

まえがき

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第1章 国境を越えて移動する人びとの社会的保護――序論――

筆者:佐藤 千鶴子

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第2章 南部アフリカにおける国際人口移動――歴史――

筆者:佐藤 千鶴子

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第3章 南アフリカの国際移民政策と社会的保護政策の連関

筆者:牧野 久美子

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第4章 移民労働者の社会的保護とグローバル企業――モザンビーク人鉱山労働者の職業性疾患――

筆者:網中 昭世

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第5章 マラウイ北部から南アフリカへの移民労働と社会的保護

筆者:佐藤 千鶴子

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終章 南部アフリカにおける移民労働者の社会的保護

筆者:佐藤 千鶴子

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まえがき

まえがき

本書は、2022~2023年度にアジア経済研究所で実施した共同研究会「南部アフリカにおける国境を越える人びとの社会的保護」の最終成果である。サハラ以南アフリカで最も多くの移民を受け入れている南アフリカ、そして同国に多くの移民労働者を送り出してきた近隣のモザンビークとマラウイという3カ国の事例をもとに、移民の社会的保護にかかわる制度、実態、課題について論じている。日本語では馴染みが薄い社会的保護(social protection)という言葉は極めて包括的な概念で、社会保障や社会福祉のみならず、雇用、ヘルスケア、教育、住宅、貧困削減のための政策や制度を含んでいる。さらに移民研究の文脈では、移民自身が社会的保護を実現するために行使するさまざまな戦略、そして移民が利用可能な公式・非公式の資源も重要な研究対象であり、本書でも制度と実践の両方を取り上げている。  

私自身が「移民の社会的保護」という研究主題に興味をもったきっかけは、2014年10月に南アフリカのジョハネスバーグ市で開催された国際会議に参加したことだった。ザンビアに事務所をおく「南部アフリカ社会的保護専門家ネットワーク(Southern Africa Social Protection Experts Network: SASPEN)」という非営利団体が移民とその家族の社会的保護をテーマに国際会議を開催していて、南部アフリカ諸国の社会保障にかかわる省庁、国際機関、研究者、市民社会組織の代表が登壇した。同会議では国際的・地域的な枠組みや社会保障の権利のポータビリティの事例などが報告された。私は当時、非正規移民の研究を開始したところだったが、非正規移民を対象とする社会的保護の制度について議論することは難しいように思われた。そのときに感じたのは、近隣諸国から南アフリカの鉱山へ協定を通じて送り出された移民労働者の社会的保護の制度をまず調べるべきであるということだった。  

この問題意識をもとに、以前から南アフリカの社会保障制度について研究を行っていた同僚の牧野久美子さん、そしてモザンビークの鉱山労働者について研究してきた網中昭世さんをお誘いし、本研究会が実現した。2021 年度はコロナ禍に伴う海外への渡航制限があったため、所内で準備研究会「南部アフリカにおける国際移動と社会的保護」を組織し、月に2 回のペースで半年ほど関連文献を輪読する勉強会を続けた。また、アルゼンチンにおける女性移民労働者の社会保障について研究を進められていた宇佐見耕一さん(同志社大学教授)を講師にお迎えし、ラテンアメリカにおける移民と社会保障の制度についてご報告いただいた。アフリカとの相違点や共通点に関する有意義な意見交換を行うこともでき、忙しいなか興味深いご報告を準備してくださった宇佐見さんに改めて感謝申し上げる。2022年度には渡航制限が解除され、マラウイ、モザンビーク、南アフリカで現地調査を実施することができた。現地調査でお世話になった方々については各章で言及されているのでここでは繰り返さないが、とくに第4章と第5章は、現地でインタビュー調査ができなければ書き上げられなかっただろうと思うと、コロナ禍がとりあえずは収束して、以前のような調査研究活動が可能となったことに改めて感謝せずにはいられない。  

本書は、南アフリカ、モザンビーク、マラウイという南部アフリカにおける移民の移動先国(受け入れ国)と出身国(送り出し国)の社会的保護の制度と実態について論じたものである。だが、国境を越えた人の移動はもちろん南部アフリカ地域に限られたものではないし、移民の社会的保護や社会的権利をどう実現するかという課題は、日本を含めて、多くの移民受け入れ国が直面しているものである。本書は、オンラインで無料公開され、誰でもダウンロードが可能な電子書籍/eBookとして出版されることから、南部アフリカという地域に対して強い興味をもつわけではない方々にも、ぜひ気軽にダウンロードいただき、一読いただければ幸いである。また、有料ではあるものの、アマゾン、楽天ブックス、三省堂書店オンデマンドでプリント・オン・デマンド(POD)として注文し、冊子体を入手することも可能であるので、ご関心のある方にはぜひそちらもおすすめしたい。

2024年8月 編者