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アジアの障害者の政治的権利――選挙権と被選挙権の実質的平等を求めて――
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内容紹介
内容紹介
本書は、アジアにおける障害者の政治参加の現状を明らかにするとともに、政治的権利の実現に向けた法制度の課題について分析している。国連の障害者権利条約は、第29条「政治的及び公的活動への参加」において、締約国に対して、障害者の政治的権利を保障し、他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を求めている。障害者の政治参加についての国際的趨勢は、選挙権を制限しないよう国内法を改正する方向にある。しかしながら国際人権をリードするEUでさえ、いかなる状況においても個人の選挙権は剥奪されないと規定する加盟国は半数に満たない。分析の結果、アジアにおいても障害者の選挙権行使の制限解除の動きは遅いことが判明した。憲法や障害法で障害者の政治的権利は認められると謳いつつ、一方で政治的権利の行使については選挙法などで制約が加えられている。もちろんこの傾向はアジアだけでなく世界共通の問題であり、特に知的障害者と精神障害者の権利が侵害される傾向にある。障害者のアクセシビリティの改善も、実質的な政治的権利を享受するために不可欠な前提であるものの、アジアでは障害者権利条約の精神に違背して、この問題を代理投票の許容で解決しようと試みられることが多い。障害者が直接議員となり、議員として参加しやすい議会システムの構築などの取り組みが期待される。
まえがき
まえがき
本書は、アジア経済研究所が2020年度からの3年間で実施した「アジア諸国における障害者の政治的権利」研究会の最終成果である。本研究は、これまでに行ってきたアジアにおける障害者の教育、雇用、アクセシビリティなどの分野別の成果ならびに女性障害者の複合差別の研究成果などを踏まえて実施されたものである。とくに2019年度まで実施した障害者の法的能力の研究においては、障害を有するだけで行為能力が否定されたり、被後見人となった場合には選挙権・被選挙権がはく奪されたりするおそれがあることが明らかとなり、本研究ではそうした障害者の政治的権利の問題に焦点を当て考察することとした。本研究では、障害者権利条約に照らしつつ、アジア諸国における障害者の政治的権利の保障に焦点を当て、その現状と課題を明らかにする。研究では、各国固有の状況を明らかにするとともに、比較分析によりアジア地域の共通課題の発見につとめた。
研究会委員は、現地の法律と言葉に精通しているアジア法を専門とする研究者と「障害と開発」やアジアの障害当事者運動に造詣の深い研究者・実務家によって構成された。研究は両者が協働する形で進められ、研究会での議論と現地との意見交換をとおして、各章とも現地の法制度、法文化、障害当事者の動向を踏まえた論考とすることができた。この3年間はちょうどコロナ禍にあり、2カ国を除いて現地調査が叶わなかったものの、現地の障害当事者や障害法研究者とのオンラインでのインタビューや研究会開催によって研究を進めることができた。本書によって、わずかながらでもアジア各国の知見の共有が促進されることになれば幸いである。
研究会では、本書を執筆した委員のほか、外部の有識者からレクチャーをいただき、貴重なアドバイスをいただいた。2020年度は、名城大学法学部の植木淳氏から障害のある人の政治参加に関して、上智大学法学部の三浦まり氏からジェンダー・クォータの国際潮流と制度設計に関して、中部学院大学の福地潮人氏からスウェーデンにおける障害者の政治参加に関して、鹿児島県立短期大学の疋田京子氏からインドネシアにおける女性の政治参加の課題、とくにジェンダー・クォータをめぐる憲法裁判に関してレクチャーをいただいた。2021年度は、DPI日本会議議長の平野みどり氏から障害当事者の視点から見た政治参加の意義と課題に関して、タマサート大学法学部のラリン・ ゴーウッティクンランシー氏からタイにおける障害者の政治的権利に関してレクチャーをいただいた。2022年度は、障害者の自立と政治参加を進めるネットワーク事務局長の古庄和秀氏から障害当事者の視点から見た選挙権の行使および議員活動の課題に関して、武漢大学教授の張万洪氏から中国における障害者の政治参加に関してそれぞれ大変興味のあるレクチャーをいただき、有意義な意見交換を行うことができた。また、手話通訳者各氏には難解な議論の通訳をサポートしていただいた。ここに記して感謝の意を表したい。
最後に、研究所の内部の匿名の査読者からも的確なご批判と貴重なコメントを頂戴し、出版に向けたとりまとめに大いに参考にさせていただいた。また、現地調査に際しては多くの方々に貴重な時間を割いていただき、有用な情報をいただいた。この場を借りて感謝申し上げたい。
2023年12月
編 者