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開催報告

国際シンポジウム「アジアにおける海洋プラスチック汚染と対策:生態系への影響と国際協力の取組み」

パネルディスカッションの様子

アジア経済研究所では、例年、世界銀行、朝日新聞と共催で国際シンポジウムを開催しています。2022年度は会場とオンラインのハイブリッド形式で、2023年2月6日(月曜)に開催しました。このページでは、講演の要旨を公開しています。

シンポジウムの概要

開催日時:2023年2月6日(月曜)13:30~16:00
会場:ハイブリッド形式(世界銀行東京開発ラーニングセンター(東京都千代田区内幸町2-2-2富国生命ビル14階)およびオンライン(Zoomウェビナー))
主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞社

プログラム

時間

講演内容・講師

13:30~13:40 開会挨拶
  • 米山 泰揚(世界銀行駐日特別代表)
  • 野村 周(朝日新聞 ゼネラルエディター兼東京本社編集局長)
  • 深尾 京司(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)
13:40~14:00

基調講演I 「アジアにおける海洋プラスチック問題と対策」

  • 小島 道一(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター上席主任調査研究員/ERIA支援室長)
14:00~14:15

基調講演II 「東アジア・太平洋地域における海洋プラスチック汚染軽減のための世界銀行の取組み」

  • ベノワ・ボスケ(世界銀行 東アジア・太平洋地域総局 持続可能な開発局長)
14:15~14:25

休憩

14:25~15:55

パネル・ディスカッション および 質疑応答
モデレーター:小島 道一
【パネリスト】

  • ベノワ・ボスケ
  • 「プラスチックが食料システムの将来的な持続可能性にもたらす脅威―世界最大の群島地域、東南アジアの場合―」
    ムハマド・レザ・コルドヴァ氏(インドネシア国立研究革新庁海洋学研究センター上級研究員)
  • 「ごみの自然界流出をゼロにする挑戦」
    小嶌 不二夫氏(株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ代表)
  • 「廃棄物を監視する」
    アナ・オポサ氏(セイブ・フィリピン・シー エグゼクティブ・ディレクター)
  • 「海洋プラスチックごみ汚染の現状とその対策について」
    大井 通博氏(環境省 水・大気環境局 水環境課長)
15:55~16:00

閉会挨拶

  • 村山 真弓(ジェトロ・アジア経済研究所 理事)

基調講演I 「アジアにおける海洋プラスチック問題と対策」

小島 道一(ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター上席主任調査研究員/ERIA支援室長)

講演資料 日本語/ 英語

世界各国の海洋プラスチックの寄与量を推計した論文が2015年に雑誌Scienceに掲載され、海洋プラスチックごみへの国際社会の注目が高まった。この論文は、総量800万トンの廃プラスチックが海洋へ流出していると推計し、流出上位国にアジア諸国を挙げた。その後、2021年に発表された別の論文では、廃プラスチックの海洋への流出総量は2015年の論文よりもはるかに少ないとの推計が出ており、どれぐらいの量の廃プラスチックが海洋へ流出しているか、現在のところ正確にはわかっていない。しかし、海岸に打ち上げられて死亡しているクジラやジュゴンなどの海洋生物を解剖したところ、プラスチック製品が胃腸内部に溢れていたり、亀などに漁網が絡まったりしている事例が東南アジア各国でも近年、数多く報道されている。生態系への悪影響は明らかであり、何らかの対策が必要である。

対策は3つに分けられる。第一が、プラスチックの使用量を減らすことである。中国、インド、タイ、インドネシアなどのアジア諸国でも、レジ袋などの使い捨て製品の有料化や禁止など、プラスチック製品の使用を減らすための規制が導入されている。第二が、プラスチックのリサイクルを拡大することである。主に拡大生産者責任を適用することで実施されており、日本や韓国では1990年代から生産者に対して回収率を上げ、リサイクル費用の負担などの経済的な責任を課すための法律が整備されてきた。こういった取組みをアジア諸国へ拡げていく可能性について検討していかなければならない。第三が、廃プラスチックの適正処分を進めることである。ポイ捨ての抑制といった個人の意識改革に加えて、プラスチックの流出量が多い発展途上国の特に農村部において廃棄物を収集し、適正に処分するための行政的な仕組みと施設を整えていくことが喫緊の課題である。

基調講演II 「東アジア・太平洋地域における海洋プラスチック汚染軽減のための世界銀行の取組み」

ベノワ・ボスケ(世界銀行 東アジア・太平洋地域総局 持続可能な開発局長)

講演資料 日本語/ 英語

プラスチックは長い間開発の推進力だったが、海洋プラスチック汚染を機に急速に問題として浮上してきた。プラスチック汚染への解決策として、世界銀行はプラスチックの生産から取引、消費、処分へと至るライフサイクルアプローチを提唱している。アジア太平洋地域の各国において、どの国がどれだけの量のプラスチック廃棄物を排出しているか、それはどのような種類のプラスチックかといったデータを収集し、これらのデータをもとに各国政府に対してエビデンスに基づくプラスチック政策立案のための助言をしている。アジア諸国ではプラスチックのリサイクルが進んでおらず、廃棄物の適正処分やリサイクル過程に潜在するビジネスや投資の機会が失われている。この分野での投資の促進を支援するとともに、拡大生産者責任などプラスチック政策に関する知識の普及の取組みなども行っている。

パネル・ディスカッションおよび質疑応答

報告1 「プラスチックが食料システムの将来的な持続可能性にもたらす脅威―世界最大の群島地域、東南アジアの場合―」

ムハマド・レザ・コルドヴァ氏(インドネシア国立研究革新庁海洋学研究センター上級研究員)

講演資料 日本語/ 英語

東南アジアでは廃棄物の適正処分が進んでいない。インドネシアのジャカルタでは河川沿いの空き地などにごみがあふれている。これらのごみが河川を通じて海洋に流出している。海洋プラスチック汚染の排出源は8割が陸域、2割が海域である。我々がインドネシアで実施した調査では、雨量と海洋に流出するプラスチック量に関係性があること、雨期に大量のプラスチックごみが海洋へ流出していることがわかった。海洋に流出したプラスチックの7割が使い捨て製品であることや、我々のサンプル調査地域に漂着したごみの65%は地元からのものであったことも判明している。それぞれの地域の実施能力にばらつきはあるが、水環境へのごみの流出のペースを可能な限り効果的に抑制することが極めて重要だ。プラスチックは細かく分解されてマイクロプラスチックとなり、海洋生物に悪影響を与えているほか、大気中にも浮遊している。人間も呼吸を通じて体内に取り込んでいることになる。他の汚染物質と結びついて健康被害を起こす可能性も懸念されている。

報告2「ごみの自然界流出をゼロにする挑戦 アジアにおける海洋プラスチック汚染と対策:生態系への影響と国際協力の取組み」

小嶌 不二夫氏(株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ代表)

講演資料 日本語/ 英語

ごみの流出問題の解決に直結するような3つのサービスを提供している。第一が、元の製品と流出経路特定のためのマイクロプラスチック調査(「アルバトロス」)である。既製品を組み合わせ、低コストでどこでも調査が可能な装置と調査手法を開発した。採取したサンプルを分析した結果、日本では国内水域における流出プラスチックの20%以上が人工芝であることや、北陸地方の肥料に使用されているプラスチックの皮が河川に大量に流出していることを突き止めた。この調査結果が報道された後、全農が被覆肥料の撤廃を宣言するに至っている。第二が、自動車、スマホ、AIを利用して、道路沿いのごみの数量を計測し、地図上でごみの分布を見える化するサービス(「タカノメ」)である。これにより、自治体内部のどの地域に予算をかけるべきか、ごみの回収やポイ捨て防止にはどういった取組みが有効かをエビデンスにより示すことができる。第三が、SNSを利用していつでも、どこでも気軽にごみ拾いに参加できるプラットフォーム(「ピリカ」)で、現在、世界116の国と地域で利用され、3億個近いゴミの回収実績がある。

報告3「廃棄物を監視する」

アナ・オポサ氏(セイブ・フィリピン・シー エグゼクティブ・ディレクター)

講演資料 日本語/ 英語

フィリピンで海洋資源保全のための活動をしている。フィリピンは海洋生物の多様性がとても豊かな一方で、海洋に大量のプラスチックごみを流出している国でもある。問題の背景には、使い捨て用品への依存、低いリサイクル率、廃棄物の適正処分のための施設や政治的意思の欠如がある。セーブ・フィリピン・シーズは、研究者の調査結果やデータをかみ砕いて人びとに伝えるために、SNSを駆使し、多数のインフォグラフィックや教材を作成することで、啓発活動を行い、対応策の選択肢を提示している。特に力を入れているのが若者との協同で、これまで数多くの環境教育やリーダーシップ育成ワークショップを開催してきており、使い捨てプラスチックの削減に向けた若者主導の取り組みも支援している。そういったキャンペーンの例が、「廃棄物監視人」、「ストロー戦争」、「プラスチック・バトル」などである。さらに、パーソナル・ケア製品のリフィルを認めるよう、法改正を求めるアドボカシーも行っている。

報告4「海洋プラスチックごみ汚染の現状とその対策について」

大井 通博氏(環境省 水・大気環境局 水環境課長)

講演資料 日本語/ 英語

海洋へのプラスチック流出が現在のレベルで持続すると、2050年には海洋へ流出したプラスチックの累積量が海洋中の魚の量より多くなるとの試算が出されている。科学の警鐘に対して国際社会はどう対応しようとしているのか。国連環境計画(UNEP)の推計では、全世界におけるプラスチックの環境への排出量は約828万トン、その6割強がマクロプラスチック、4割弱がマイクロプラスチックである。最大の排出源は廃棄物の不適正管理にある。アジアは世界最大のプラスチック製造・使用地域であり、マクロプラスチックの5割、マイクロプラスチックの4割を排出している。新興国・途上国からの流出が多いため、これらの国々を含む世界全体での取組みが重要である。2019年、G20で「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(Osaka Blue Ocean Vision)」が共有された。「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加な汚染をゼロにまで削減すること(we aim to reduce additional pollution by marine plastic litter to zero by 2050)」を掲げた、2023年2月時点で87の国と地域が共有するビジョンである。2022年11月の政府間交渉委員会(INC)では、海洋に限らず、空気中のプラスチックも含めたプラスチック汚染に関する条約交渉が始まった。2024年末までの作業完了を目指し、交渉会合が重ねられる予定である。

ディスカッションおよび質疑応答

Q:プラスチック汚染の原因特定と対策にはどこまで関連性があるのか?
A:日本とインドネシアを比べてみても、流出源が異なることや、流出しているプラスチックの種類が異なることがわかっている。流出源の特定は対策の有効性を高めるために重要である。(小島氏、レザ氏)

Q:生分解性プラスチックは普及するか?
A:生分解性プラスチックは普及するかどうかだけではなく、普及すべきかどうかの議論も必要である。生分解性プラスチックは土のなかで分解するが、川や海では分解されない。土で分解する肥料カプセルにはいいかもしれないが、耐久性が必要な人工芝には向かない。普及するかどうかには価格や経済合理性が関わってくる。(小嶌氏)

Q:解決策について、産業界のコンセンサスはあるのか?
A:条約交渉においては、各国政府のみならず、産業界からの意見も取り入れるための仕組みがある。(大井氏)

Q:世界銀行が提唱するブルー・エコノミーとはどのような概念か?
A:世界銀行は海洋プラスチック汚染を「ブルー・エコノミー」という大きな枠組みで捉えている。これは持続性に基づくコンセプト。プラスチック汚染はブルー・エコノミーのネガティブな側面だが、リサイクルなどを通じたビジネス機会や雇用の創出や持続可能な観光というポジティブな側面もある。たとえばフィリピンでは、世界銀行とエネルギー省が共同で海上風力発電の開発に取り組んでいる。世界銀行が行った調査を基に地域別の海上風力発電の投資機会を特定し、産業界の参画を得るため、海洋や沿岸部で利益の上がるビジネス機会を提供した。プラスチック汚染についても同様に汚染の実態の理解を深めつつ、それらを投資機会としてとらえ直して産業界を呼び込み環境保全対策を図ることも世界銀行の役割の一つである。(ボスケ氏)

Q:この点についてアナ氏はどう思うか?
A:政府や産業界との協同は重要である。対話を通じて、共通理解が生まれていく。誰もがきれいな海を欲しているのは事実なのだから。(オポサ氏)

Q:最後に皆さんからひと言。

  • プラスチック汚染をやめるための科学的な知識はまだまだ不十分だと感じる。この問題への取組みにおいては、政府、産業界、アカデミア、メディアなどさまざまな業種間での協同が必要である。(レザ氏)
  • 最初の質問について考え続けている。プラスチック汚染の原因はいまだに解明されていない。しかし、実態を理解しない限り解決に進めないかというとそうではない。原因が特定されていなくても解決策を模索する必要がある。(小嶌氏)
  • 人びとの行動変容への投資が必要だと考えている。行動変容のためにオリンピックを待つ必要などない(日本では東京オリンピックがごみ回収の契機となったことを受けての発言)。ただし、行動変容には時間がかかるため、長期的な視野で行っていく必要がある。(オポサ氏)
  • 3点述べたい。最初の質問について、原因がわからないなかでどうしていくかを考える必要がある。不適切な廃棄物廃棄を抑制する、使い捨てプラスチックの利用をやめるなど、できることから着手して積み重ねていくことが重要である。産業界の懸念については、プラスチックをやめるのではなく、プラスチック汚染や不必要なプラスチックをやめることが重要であるとのメッセージを伝える必要がある。生分解性プラスチックなど新たなイノベーションもある。最後に、地域ごとの状況を把握している基礎自治体の取組みの重要性を強調したい。(大井氏)
  • 東京、ソウル、シンガポールも40年前はとても汚かった。これら都市の経験からマニラやジャカルタなどアジアの都市が学べることはたくさんある。プラスチック汚染は複雑な問題だが、プラスチックそのものを悪者とするのではなく、重要なのは不必要なプラスチックを減らすための努力である。現在進行中のプラスチック条約交渉においては、オゾンホール縮小に貢献したモントリオール条約の経験に学ぶべきところが多い。(ボスケ氏)

※解説はすべて講演時点のものです。

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ジェトロ・アジア経済研究所 研究推進部 研究イベント課
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