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開催報告

中国社会科学院-ジェトロ・アジア経済研究所 共催 国際学術シンポジウム「ポストコロナ時代の日中経済協力」

国際学術シンポジウム「ポストコロナ時代の日中経済協力」

開催趣旨

2018年に始まった関税合戦に端を発する米中両国の摩擦は、貿易分野にとどまらず先端技術の覇権争いにまで拡大、デカップリングの荒波に晒された世界経済は国際産業ネットワークの再編を余儀なくされた。同時に、WTO等国際協調枠組みの機能低下も叫ばれ、その混乱に一層の拍車を掛けるに至った。さらに2020年に入り世界中を震撼させた新型コロナウイルス感染拡大は、世界規模での生産活動の停滞とヒト・モノの移動の制限をもたらし、世界経済の行く末は、これまで以上に不透明さ、不確実性に覆われることとなった。

一方で、新型コロナウイルス感染拡大に収束の兆しが見えない中においても、「ポストコロナ」の国際経済の行く末が議論され始めている。米中摩擦は、そして新型コロナウイルス感染拡大は世界経済にどのような影響を及ぼし、国際的な産業構造はいかなる変容を遂げようとしているのか?そして、世界経済がその不確実性からの脱却を図ろうとする中、東アジアの二大経済大国である日本と中国はいかなるポジションをとり、また隣国である両国の経済協力はいかにあるべきか?それらの課題に何らかの道筋を見出すことができれば、我が国政府の掲げる「自由で開かれた国際経済秩序」の形成にも大いに示唆を与えるものとなる。

中国政府国務院の直属で総職員数4200名という規模を誇る中国社会科学院(CASS)は、社会科学分野で中国最大の研究機関である。同院とアジア経済研究所とは長期にわたり交流関係にあったが、2019年5月に同院のアジア太平洋グローバル戦略研究院と包括的学術連携協定(MOU)を締結、同年10月には深尾所長が中国社会科学院を訪問し講演会を開催、副院長他幹部らと面談を行うなど、両機関の協力関係はより強固なものとなっている。

「ポストコロナ」を見据えた国際経済に関する議論の機運が高まりを見せる中、“リアル”な国際的学術交流が困難な状況下に於いて、社会科学系では日中両国それぞれ最大規模を誇る学術研究機関同士がオンラインツールを活用して繰り広げる議論はたいへん意義深く、またその議論のエッセンスを広く公開することは大きな知的貢献となるはずである。

全体テーマ

「ポストコロナ時代の日中経済協力」

開催日時

2020年10月27日(火曜)
14時00分~18時00分(日本時間)
13時00分~17時00分(北京時間)

場所

(日本側)ジェトロ本部5階BCD会議室
(中国側)北京国際飯店

次第
  • オープニング・スピーチ:(司会)劉玉宏 氏【中国社会科学院 日本研究所 副所長】
    (来賓)戴秉国 氏【元 中国国務院 国務委員】
    (来賓)福田康夫 氏【元 内閣総理大臣】
    (主催者)謝伏瞻 氏【中国社会科学院 院長】
    (主催者)深尾京司【アジア経済研究所 所長】
  • 基調講演:(司会)王暁峰 氏【中国社会科学院 日本研究所 副所長】
    張宇燕 氏【中国社会科学院 世界政治・経済研究所 所長】
    宮本雄二 氏【元 駐中国特命全権大使】
    楊伯江 氏【中国社会科学院 日本研究所 所長】
    丸川知雄 氏【東京大学 社会科学研究所 教授】
  • セッション1:「コロナ後の世界経済と変容するグローバル・バリューチェーン(GVC)」
    (モデレーター)
    深尾京司【アジア経済研究所 所長】
    (パネリスト)
    江瑞平 氏【中国外交学院 副院長】
    姜躍春 氏【中国国際問題研究院 世界経済研究所 所長】
    早川和伸【アジア経済研究所開発研究センター経済地理研究グループ 主任研究員】
    孟渤【アジア経済研究所 新領域研究センター 主任調査研究員】
  • セッション2:「日中イノベーション協力の可能性」
    (モデレーター)
    唐永亮 氏【中国社会科学院 日本研究所 日本学刊編集部 主任】
    (パネリスト)
    張季風 氏【中国社会科学院 日本研究所 前副所長】
    趙鋼 氏【中国科学技術部 中国科学技術発展戦略研究院 研究員】
    丁可【アジア経済研究所開発研究センター企業産業研究グループ 研究員】
    伊藤亜聖 氏【東京大学 社会科学研究所 准教授】
  • セッション3:「社会開発分野における日中協力」
    (モデレーター)
    佐藤寛 【アジア経済研究所研究推進部 上席主任調査研究員】
    (パネリスト)
    馮文猛 氏【国務院発展研究中心 社会発展研究部 研究員】
    李国慶 氏【中央民族大学 民族学・社会学学院 教授】
    大塚健司【アジア経済研究所 新領域研究センター 環境・資源研究グループ長】
    浜本篤史 氏【早稲田大学 社会科学総合学術院 教授】
  • セッション講評:(司会)呂輝東 氏【中国社会科学院 日本研究所 外交研究室 主任】
    呉懐中 氏【中国社会科学院 日本研究所 副所長】
    田中修【アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員】
  • 閉会挨拶:(司会)呂輝東 氏【中国社会科学院 日本研究所 外交研究室 主任】
    北川浩伸【日本貿易振興機構(ジェトロ) 理事】
    楊伯江 氏【中国社会科学院 日本研究所 所長】

日本側集合写真:ジェトロ本部5階

(日本側集合写真:ジェトロ本部5階)

中国側集合写真:北京国際飯店

(中国側集合写真:北京国際飯店)
開会挨拶
【開会挨拶】 戴 秉国 氏(中国国務院 元・国務委員)

写真: 戴 秉国 氏(中国国務院 元・国務委員)


新型コロナ蔓延や米中関係の急変は日中関係に試練を与えているが、日中両国の友好協力の方針は不変であり、日中関係の正しい方向性を堅持することが日本の戦略的利益とも一致している。菅義偉新首相による「中国を含む近隣諸国との安定した外交関係を築きたい」との方針にも期待したい。

中国は現在「第14次五ヵ年規画」策定段階にあるが、同期間の中国の新たな開放と更なる発展は、日本経済界にとってもチャンスであり、ぜひ日本企業ともその利益を共有したい。それが日本企業の更なる発展にも繋がると信じている。

中国と日本はアジア文明の重要な一員として、相互理解と友好関係のみならず、人類の文明の進歩と発展のために「東洋の知恵」を提供しなければならない。「永遠の友情」の精神が、中国と日本それぞれの目標達成のために段階的に実行されることを期待したい。

【開会挨拶】 福田 康夫 氏(元・内閣総理大臣)

写真:福田 康夫 氏(元・内閣総理大臣)


新型コロナは人類に多くの試練を与える一方、デジタル技術を活用した新しい交流手法が社会慣行となった。コロナの制約を乗り超え日中間で開催される今回の国際学術交流からも新しい時代の到来を感じる。

中国は米国との間で解決すべき課題を抱えているが米中二国間だけでなく他の多くの国々と協調し、より安定した国際社会を目指す協力関係を築くためのテーマ、枠組み、組織を考えるべき段階が来ている。環境問題、少子高齢化、社会保障、格差など社会開発分野の問題も世界共通の課題であり、協力が不可欠だ。新しい国際経済、社会秩序の形成が国際社会の当面の問題だが、「イノベーション」や「デジタル技術」も課題解決に大きな役割を果たすだろう。

新しい国際秩序構築に向け日本と中国とが果たすべき役割は大きく、さらに「学問」は極めて重要だ。この会議での研究者どうしの議論が、先行き不透明な世界経済・社会の未来に一筋の光明を灯し、日中協力の新たなステージへの道標を示すものとなるよう期待する。

【開会挨拶】 謝 伏瞻 氏(中国社会科学院 院長)

写真:謝 伏瞻 氏(中国社会科学院 院長)


隣国である日中両国は相互の利益が絡み合っており、地域の主要経済大国として、急変する国際情勢において、世界の平和、安定、繁栄、発展の堅持のために共同で建設的な役割を担う責務がある。習近平国家主席は先日、深圳における講話で「いかなる国際情勢の変化があろうとも中国は更に高レベルの対外開放政策を堅持する」と述べている。

日中関係はいくつかの課題を抱えるものの、平和、友好、協力が主流である。日中両国政府は、現在の国際情勢から前進し、相互尊重に基づいて共通点を模索し、協力して困難を乗り越え、「新たな時代に求められる日中関係」の構 築のために手を取り合って前進してゆくべきである。そのために3つの点を提案したい。

1つは、コロナ禍に共同で立ち向かい、経済回復を促進するため日中経済協力の質の向上を促進すること。2つ目は、保護主義や自国第一主義の流れに対抗し、開かれた世界経済と国際協力の体系を維持すること。3つ目は、相互理解と相互学習を促進するため民間往来と世論改善を進めること。

【開会挨拶】 深尾 京司(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

写真: 深尾 京司(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)


人類は過去にも深刻な疫病と闘ってきたが、経済史を紐解けば人類は意外としぶとく数々の疫病を乗り越えてきた。新型コロナウイルスもやがて乗り越えるだろうが、深刻な疫病はしばしば経済社会を一変させた。今回のコロナも国家、都市、企業の命運を変える可能性がある。国際サプライチェーンの再構築、情報通信技術の急速な普及等を通じ、コロナ後の世界は一変する可能性がある。今回、この会議を共催する中国社会科学院とアジア経済研究所は共同でコロナ後の世界経済の変容について研究を進めたい。

長期的な視点で見れば、コロナ以上に今日の米中対立の方が世界にとってより深刻な問題だろう。日本の最大輸出先国かつ企業進出先である中国と、第二次大戦後安全保障面で依存してきた米国との間の対立、経済・技術面での分断の深刻化は日本の国運を左右するものだ。日中それぞれ最大級の社会科学系研究組織が共同で米中対立の世界経済への影響を冷静に分析し成果を社会に発信すること、また環境問題や人口減少など日中共通の問題を共に研究する意義は大きいと思う。

基調講演
【基調講演】 張 宇燕 氏(中国社会科学院 世界政治・経済研究所 所長)

写真:張 宇燕 氏(中国社会科学院 世界政治・経済研究所 所長)


コロナ禍は世界経済に多大な影響を及ぼした。その一つは、サプライチェーンの脆弱性だ。長すぎ、緊密すぎ、集中しすぎている。主要国がサプライチェーン再構築を主要政策課題としているが、大事なのは自由貿易の維持と改善である。国際分業によるサプライチェーンの有効性、合理性、予測可能性を維持し、各国利益の最大化と国際経済混乱の最小化との関係性を正しく把握する必要がある。製造業の逆流やデカップリングといった人為的な政策は市場メカニズムに反し他者にも悪影響を及ぼすだけである。

サプライチェーンのセキュリティ確保に必要なのは、RCEPやCPTPP、開かれた地域貿易・投資メカニズムなどグローバル経済ガバナンスシステムの改善と確立だ。世界2位と3位の経済大国である中日両国は、WTO改革、SDGs推進など、世界開発の軌道をコロナ禍から正常に戻す責務を負っている。

【基調講演】 宮本 雄二 氏(元・駐中国特命全権大使)

写真:宮本 雄二 氏(元・駐中国特命全権大使)


1991年、天安門事件後に主要先進国首相として初めて訪中した海部首相が提唱した「世界の中の日中関係」は、福田首相による「戦略的互恵関係」に結実した。しかし両国の約束の完全実施は途上にあり、日中共同声明の原理原則の実現のため具体的ルールとメカニズムが必要な時期に来ている。いま世界は、戦後国際秩序を主導した欧米の「リーダー疲れ」「グローバル疲れ」と呼ぶべき現象、新興経済諸国の台頭による「国際スタンダード」との矛盾・軋轢という2つの構造変化を迎えている。この「百年に一度」の変化に科学技術の加速度的な進歩とコロナ蔓延が事態をさらに複雑化させている。

日中両国は現在の国際秩序から最大の利益を享受した国として地球の将来に厳粛な責任を有している。WTOに代表される経済の自由主義と国連憲章に代表される政治の自由民主主義の護持、さらに人類が真剣に考えるべき「国境を超える問題」、つまり環境や感染症の問題とその背後にある人口問題など、この解決に向けた協力が「ポストコロナの日中協力」のミッションだ。そして日中協力は日中両国のためではなく地域と世界の発展に資するべきであり、これが「世界の中の日中関係」の今日的意義である。第三国における日中協力、特にASEANやアフリカでの協力も意義が大きい。日本の「情けは人のためならず」や『易経』の「利者,義之和也」という精神に則り、日中は「世界のために尽くす」という意思を強い決意と共に表明し、結果を出してゆかなければならない。

【基調講演】 楊 伯江 氏(中国社会科学院 日本研究所 所長)

写真:楊 伯江 氏(中国社会科学院 日本研究所 所長)


「コロナ前」と「コロナ後」は、断絶ではなく延長線上にある。発展途上国やアジア諸国は、公衆衛生状況や経済的社会的発展レベルと比して、欧米や先進諸国に先んじて新型コロナ蔓延抑制と経済復興を果たしつつある。これは、コロナ前からの継続性という意味では、“ミドルパワー国家”の数と範囲の増加を意味している。

同時に、グローバル化は「リバランス」「リンク再構築」に直面し不確実性が増大している。コロナは米中の競争を激化させたが、世界の問題を議論するのに「米中」のみを抽出するのはナンセンスだ。欧州も日本もロシアも重要だ。日中間には矛盾もあるが共通の利益も共通の課題もある。それは米中関係も日米関係も同様だ。

国際関係が不確実性を増す中、日中関係を可能な限り安定させることで不確実性の中に確実性の要因を提供し、コロナ後の世界秩序構築のために協力すべきである。さまざまな分野で二国間、多国間の実務的な協力を強化し、歴史的文化的観点から、日中関係とアジアの台頭という事象について、その概念を更新してゆくことが重要である。

【基調講演】 丸川 知雄 氏(東京大学 社会科学研究所 教授) 「輸出規制をめぐる日米中関係」

写真:丸川 知雄 氏(東京大学 社会科学研究所 教授)


2018年に始まった米中貿易戦争は、当初考えられていた二国間貿易不均衡の解消を目指したものから、華為に対する輸出管理規定(EAR)の適用に見られるように、技術覇権争いの色彩が強いものとなった。核や兵器の貿易制限を認めるGATT21条を民生品メーカーに適用できるか疑問である。米国の輸出制限は冷戦期のCOCOMから始まっている。当時は、西側同盟国が東側諸国への輸出を制限し、日本がハイテク製品の輸出国になるにつれ、この障壁にたびたびぶつかった。

冷戦期には、輸出規制の対象となる「戦略物資」の定義をめぐって米国と同盟国との間に対話と調整があったが、現在おこなわれている米国の措置は一方的で、その戦略がわかりにくい。さらに冷戦期と比して現在では貿易制限の代償ははるかに大きい。「安全保障」の笠を借りた産業政策はうまくいかない。EARの対象とすべき「戦略物資」の範囲を限定し、軍事関連技術をデカップリングするのはいいが、それが民用品における国際分業の発展を妨げることのないように知恵を絞るべきだと思う。

セッション1
「コロナ後の世界経済と変容するグローバル・バリューチェーン(GVC)」
  • モデレーター:深尾京司(アジア経済研究所 所長)
  • パネリスト:
    江瑞平 氏(中国外交学院 副院長)
    姜躍春 氏(中国国際問題研究院 世界経済発展研究所 所長)
    早川和伸(アジア経済研究所 開発研究センター 経済地理研究グループ 主任研究員)
    孟渤(アジア経済研究所 新領域研究センター 主任調査研究員)

【セッション概要】

コロナの世界経済への影響は、大国間パワーバランスの変化、多国間ガバナンスメカニズムの変革、地域協力パターンの再構築、グローバルサプライチェーンの再編、世界経済の中心のシフトをもたらす(江)。IMFが「世界経済は百年来の危機」と示すように、WTO機能低下、グローバル化の認識変容と一国主義の盛隆が指摘され、産業ネットワークの「フラット化」鈍化と「地域化」「多様化」が見られる。「脱中国」が可能な国は限定的である(姜)。

COVID-19が世界貿易に与えた影響は主にSupply-sideに感染が広がった場合に甚大であることが分析により示され(早川)、またGVCのスマイルカーブ分析でもCOVID-19と米中摩擦により地域化・多角化・デジタル化への再編が求められることが示された(孟)。影響が世界全体に及ぶコロナ禍では調達先の分散・多様化(Robustness強化)よりも産業ネットワーク全体のリスク評価と最適化(Resilience向上)が求められることが指摘できる(孟・早川)。

セッション全体では、コロナ後の世界経済においては国際分業やGVCが大きく変容するとの共通認識が得られ、国際産業構造の変化の方向性としてイデオロギーを排除し市場原理に基づくべきとの指摘、また分析手法として在庫保有率の有用性が指摘された。

写真1:コロナ後の世界経済と変容するグローバル・バリューチェーン(GVC)写真2:コロナ後の世界経済と変容するグローバル・バリューチェーン(GVC)

セッション2
「日中イノベーション協力の可能性」
  • モデレーター:唐永亮 氏(中国社会科学院 日本研究所 日本学刊編集部 主任)
  • パネリスト:
    張季風 氏(中国社会科学院 日本研究所 前副所長)
    趙鋼 氏(中国科学技術部 中国科学技術発展戦略研究院 研究員)
    丁可(アジア経済研究所 企業・産業研究グループ 研究員)
    伊藤亜聖 氏(東京大学 社会科学研究所 准教授)

【セッション概要】

中国側専門家からは、日中間の経済的相互依存関係の深さ、さらに日中の大学・研究機関間、企業間で醸成された信頼関係と産業技術の補完性を考慮すれば、米中摩擦も日中イノベーション協力の可能性にマイナスの影響を与えるものではない、一方、日中イノベーション協力はいまだプラットフォームが脆弱で、協力分野も広がりが不足するなど課題が多く、政府のサポートによる協力メカニズムの強化やチャネル多様化が必要だとの見方が示された。

日本側専門家からは、企業のイノベーションモデルや産業イノベーションシステムにおいて日中両国は高い補完性を有し、デジタルエコノミー分野や深圳のエコシステム等において既に多数の協力案件が形成され一定の実績を挙げており、相互の研究開発拠点設立など協力の段階に入りつつあることが指摘された。理念としては既に強固な東アジア生産ネットワークをイノベーションネットワークに深化させ、「アジア大」の“共創”環境を構築することが目指されるべきだが、機微技術や個人情報管理で課題を抱えている点(丁)、そして日本は日米同盟を前提に米中戦略的競争によって立案・施行されつつある技術・貿易管理措置に対応する必要や、軍民融合企業と日本企業は距離をとらざるを得ないといった明確な限界が存在すること(伊藤)が指摘された。

写真:日中イノベーション協力の可能性

セッション3
「社会開発分野における日中協力」
  • モデレーター:佐藤寛(アジア経済研究所 上席主任調査研究員)
  • パネリスト:
    李国慶 氏(中央民族大学 民族学・社会学学院 教授)
    馮文猛 氏(国務院発展研究中心 社会発展研究部 研究員)
    浜本篤史 氏(早稲田大学 社会科学総合学術院 教授)
    大塚健司(アジア経済研究所 新領域研究センター 環境・資源研究グループ長)

【セッション概要】

中国側専門家からは、まず日中共通課題である少子高齢化について、中国より30年早く直面した日本から中国は医療介護、高齢者健康保持システムについて多くを学んだことを振り返りつつ、技術革新で発達する養老サービスは既に複数の日本企業が中国市場に参入し、今後この分野での産業発展には日中協力が不可欠との見解が示された(馮)。また環境保護分野について、「環境経営」理念から法整備、企業責任の明確化により環境汚染を克服し産業発展と環境保護を両立させ、かつ環境保護の産業化を達成した日本の経験は中国にとって学ぶ価値が高く、近年も雄安新区スマートシティ建設や「東アジア一日交通貿易物流圏」整備で日中共同研究が進んでいる事例が示された(李)。

日本側専門家からは、まず環境保護分野に関して草の根レベルの日中協働が改善を生んでいる事例、および近年進む中国NGOによる海外協力の事例が紹介され、日本や欧米のNGOが先行するフィールドで中国NGOは”競合”ではなく”協調”すべきであり、本国・現地政府との関係の構築という世界中のNGOに共通する課題も踏まえ、NGO間協力が日中協力のフロンティアになり得る可能性が指摘された(大塚)。また社会開発分野の学術交流の事例として、日本の公害研究から誕生した環境社会学は成立当初からアジア交流を重視し、わずか10数年ながら日中の学会間の交流が極めて深化している点、その背景には欧米と異なるアジア固有の経験の存在がカギとなっている点が指摘され、今後は東アジア各国の研究蓄積共有から概念応用や理論的展開など具体的な成果創出への期待が示された(浜本)。

写真:社会開発分野における日中協力

講評と閉会
【講評】 呉 懐中 氏(中国社会科学院 日本研究所 副所長)

写真:呉 懐中 氏(中国社会科学院 日本研究所 副所長)


本日は日中が直面する課題について議論された。経済発展とGVC、イノベーションの課題、米中の戦略的な対立による世界的な危機感の拡大、環境問題はじめグローバルガバナンスの問題、である。これらは全て「コロナ」が状況を悪化させている。安定的な国際秩序の構築と新時代の日中関係のため、中米日三角関係の中で戦略的な選択により適切なバランスを維持すること、過剰にイデオロギー化せず合理的な調整を図ることが、日中間の戦略的な共通課題として求められる。
【講評】 田中 修(アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員)

写真:田中 修(アジア経済研究所 新領域研究センター 上席主任調査研究員)


国際経済の東アジアシフトとグローバル化の流れに逆転はあり得ない。サプライチェーン再構築は効率性の追求のみならず安全とのバランスが課題。米中対立の影響を注意深く見極め、デジタル化、地域化、多角化の議論を進めていくべき。イノベーション協力の可能性は非常に大きいが課題も提示された。重要なのは理念と姿勢だ。米中対立とコロナ危機に既存システムが対応できていないが、宮本元大使が指摘された通り戦後システムからの最大の受益者は世界2位と3位の経済大国である日中であり、主権や国家利益に囚われず国際公共財・サービスを提供するという視点から両国は新秩序形成に主導的役割を果たすべき。互恵・ウインウインだけではだめで、崇高な理念があってこそ米中対立の日中協力への制約を軽減できる。高齢化や環境問題で日本は「課題先進国」だが、中国はこの問題が短期的に集中している。この分野での日中協力は東アジアさらには世界への貢献度が大きい。スマートシティなど最新領域も含め多層レベルでの協力が期待される。
【閉会挨拶】 北川 浩伸(日本貿易振興機構(ジェトロ)理事)

写真:北川 浩伸(日本貿易振興機構(ジェトロ)理事)


世界経済が大きな変化の局面にある中、本日の議論により改めて、その変化の根底にあるものを解き明かすべき学術研究の重要性、そして日本と中国という2つの大国が果たすべき役割の重要性が認識できた。「コロナ」により学術研究の世界にもデジタルが浸透しつつあるが、「リアル」の良さも忘れてはいけない。アジ研の伝統的な地域研究の手法である“現地主義”は、画面越しでは達成できない。今後も、日中両国間の学術交流が、リアルとバーチャルを駆使しつつ進み、その共同成果が「ポストコロナ時代」の新しい日中関係、新しい国際秩序の形成、世界経済の安定と発展に資するものとなるよう期待する。
【閉会挨拶】 楊 伯江 氏(中国社会科学院 日本研究所 所長)

写真:楊 伯江 氏(中国社会科学院 日本研究所 所長)


本日の会議は、中国社会科学院の目玉の国際交流事業であるが、コロナ禍でも諦めることなく開催できたことを嬉しく思う。今年は習近平国家主席の訪日など日中関係の飛躍的発展の年と思われたがコロナ禍により正念場を迎えた。こういう時こそ交流が大切だ。日本で歴史ある、そして中国でも知名度の高いアジア経済研究所との協力により実現したこの国際会議は、コロナの副産物であるオンラインで開催し、成功裏に終わった。しかし、やはり対面に勝る交流は無い。対面での交流の復活を祈りつつ、日中学術協力を維持ではなく強化させていきたい。

写真:国際学術シンポジウム「ポストコロナ時代の日中経済協力」