船津 鶴代
研究歴
1991年にアジア経済研究所に入所し、タイの社会・政治分野の地域研究を行ってきました。軍・官僚主導でタイの権威主義的体制を支えるネットワークである「官僚政体」(Bureaucratic Polity)への関心から、その維持・変容にかかわる2つの研究テーマを追ってきました。第1に、「官僚政体」に変容を迫る都市中間層の生成や環境運動の拡大、地方分権化の研究です。このテーマでは、量的サーベイに基づく実証を重視し、1994年「タイの環境意識に関する住民調査」、2013/14年科研プロジェクト「東南アジアにおける地方エリートサーベイ」などの分析を行っています。第2のテーマは、「官僚政体」の生成過程と制度の経路依存性に関する研究であり、環境政策に現れる局支配や行政の分節化の問題点や、「官僚政体」の歴史的な生成・再編の過程に関心を強めています。
現在取り組んでいるテーマ
いま注力しているテーマは、タイの「官僚政体」の基盤となった1932年立憲革命以後の官僚ネットワークが生成される過程の研究です。立憲革命を機に、タイの官僚・政治家と新興華人ビジネスが経済政策を立案するネットワークを構築し、議会の不在や反乱による政治的不安定のなかでも、政策を継続的に遂行する制度が成立していく過程を分析しています。並行して、グローバル化と空間再編に関する欧米発の社会理論「国家のリスケーリング論 (Rescaling of the State)」を、東南アジアに適用する比較研究にも取り組んでいます。
関連するリンク
<アジアとタイの中間層生成>
- 服部民夫・船津鶴代・鳥居高編(2002)『アジア中間層の生成と特質』アジア経済研究所。
- Tsuruyo FUNATSU and Kazuhiro KAGOYA. (2003) “The Middle Classes in Thailand: The Rise of the Urban Intellectual Elite and Their Social Consciousness.” The Developing Economies, 41(2): 243-263.
<タイの政治行政改革と教育>
- 玉田芳史・船津鶴代編(2008)『タイ政治・行政の変革1991-2006年』アジア経済研究所。
- 船津鶴代(2008)「国家と教育――タイの教育改革と「市民社会」」(竹中千春・高橋伸夫・山本信人編『市民社会』慶應義塾大学出版会所収)。
- 船津鶴代(2003)「タイの中等教育拡大――その「階層化」された普遍化」(米村明夫編『世界の教育開発――教育発展の社会科学的研究』明石書店所収)。
<東南アジアの地方自治と空間再編論>
- 船津鶴代(2019)「タイNCPO軍政下の地方統治政策:岐路に立つ農村の分権化政策と自治体の「下請け化」」(青木まき編『タイ2019年総選挙:軍事政権の統括と新政権の展望』アジア経済研究所所収)。
- 船津鶴代(2019)「タイの自治体首長の社会的背景――「地方行政」と「地方自治」の連続と非連続を問う」(永井史男・岡本正明・小林盾編『東南アジアにおける地方ガバナンスの計量分析』晃洋書房所収)。
<タイの環境政策と官僚政体>
- Tadayoshi TERAO and Tsuruyo FUNATSU. (2021) Origins and Evolution of Environmental Policies:State, Time and Regional Experiences. Edward and Elgar.
<タイ官僚政体の歴史的形成と華人>
- 船津鶴代(2017)「タイ立憲革命期の華人新興企業家と官僚――サイアム商業会議所創設メンバーの政治・経済活動の分析」『アジア経済』58巻1号、35〜72ページ。
- 船津鶴代(2002)「タイにおけるナショナリズム言説と華人」(加納弘勝・小倉充夫編『変貌する「第三世界」と国際社会』東京大学出版会所収)。