調査研究
研究会一覧2025年度
タイの地方統治システムと市民社会の変容-コンケン・モデルの分析
概要
1980年代後半に活動の萌芽が生まれたタイの市民社会は、2006年9月クーデタから2023年の権威主義時代に始まった新自由主義的な地方統治のなかで、新たな役割を獲得しつつある。本研究では、2010年代以降のタイ研究が取り上げてこなかった市民社会の新たな類型と役割について、タイ東北部コンケン市の事例から分析する。「コンケン・モデル」と称されるコンケン市民社会(市民団体、経済団体、大学研究者等)と自治体連合の活動は、1990年代の民主化時代に地方開発計画への意見表明が制度化された機会をとらえ、そのネットワークを徐々に拡大してきた。コンケン市民社会は、地方自治体の役割を補佐するなかで徐々に中央-地方関係の制度改変に働きかけを強め、2017年以降は特に「スマートシティ」計画と市街電車計画を先導する強力な役割を担おうとしている。
成長力のある地方都市に中央政府が支援を行う「スマートシティ」の枠組みのもと、国際機関の支援や海外・国内の民間投資を自治体の権限で呼び込むコンケン市独自のLRT事業体(Light Rail Transit;軽量軌道交通)は、コンケン市の15企業からの資金によって設立された。こうしたコンケン市の試みは、地方の大規模インフラ事業を統制してきたタイ官僚制における地方統治の基盤を、民間と自治体主導の新たな地方ガバナンスへと変える可能性をもつものである。こうした地方都市開発の現実は、1990年代までの”国家に対抗する主体”を軸にした市民社会論とその基盤が変わり、ビジネスを中心に市民社会が地方公共サービス決定に加わるNew Public GovernanceやCollaborative Govenanceが論じられ始めている。ただしASEANの例では、外資による自治体資源の「乗っ取り」や民間・自治体間のリスク分担など数多くの課題が未解決のまま残されている。本研究は、こうした新たな地方都市開発制度にみる革新的側面とその問題点を分析し、タイの地方統治基盤の変化について、考察するものである。
期間
2024年4月~2026年3月
研究会メンバー
| 役割 | メンバー |
|---|---|
| [ 主査 ] | 船津 鶴代 |
※所属は研究会発足時のものです。
予定する研究成果
- アジア経済