アフリカの政治・社会変動とイスラーム

調査研究報告書

佐藤 章 編

2019年3月発行

第1章

本稿では、アジア経済研究所で実施されている「アフリカの政治・社会変動とイスラーム」研究会について簡単な紹介を行ったのち、主査である佐藤章が実施している研究内容について、今年度末時点での簡単な紹介を行う。第二次世界大戦後のフランス領西アフリカにおいてイスラームが政治情勢とどのように関係していたかを、主要な先行研究を見ながら整理し、次年度に向けた研究の方向性を示すことがここでの主眼である。

第2章
本章では、ケニアにおけるイスラーム政党の動きと沿岸部における分離独立運動の研究に向けた準備作業として、後に「コースト」「プワニ」(Pwani)などと呼ばれ、分離運動の核とされるようになる領域が析出される過程に留意しつつ、分離独立論の中でしばしば言及されてきたオマーン系アラブ人による支配とその後の19世紀のヨーロッパ諸国による植民地分割について、その経緯を跡づける。
第3章
本章では、クワズールー・ナタール州とハウテン州に暮らすインド系ムスリムについて、先行研究をもとに、19世紀後半に始まる南アフリカへの歴史的な移住過程から政治への関わり、そして主な社会的・宗教的活動について概要を整理する。本章での考察を通じて、南アフリカのインド系ムスリムが内部に多様性を含んだ集団であること、特に20世紀前半までの時期においては、インド系ムスリムの中でも、グジャラート商人を中心とする商人/ビジネスマンたちが政治・社会・宗教的な活動全般において中心的な役割を果たしてきたこと、そして彼らの南アフリカ政治への関わりが一貫して保守的な姿勢を持っていたことを示す。