フィリピンにおける就労状況・労働市場と経済発展(基礎理論研究会)

調査研究報告書

柏原千英

2019年3月発行

第1章

本章では、フィリピン統計庁が3カ月ごとに実施する労働力調査のミクロデータを集計し、労働力人口の最終学歴と就業先産業との関係把握を試みた。それによると、高学歴であるほどサービス業に傾斜し、サービス業のなかでも高度かつ専門的な知識を要する産業で「大学以上(未卒含む)」の割合が高いことが確認された。また、「大卒以上(未卒含む)」の高学歴者のみに焦点を当てると、彼らの就業先はサービス業に集中しているものの、その中では比較的分散している。そして高学歴な若年層については、近年急成長しているIT-BPO(Information Technology-Business Process Outsourcing)産業に集中しているかとも想定されたが、統計を確認すると必ずしもそうではなかった。

第2章

本章では、技術教育・技能開発庁(TESDA)による「TVET卒業者の雇用適性調査」(Study on the Employability of TVET Graduates)を中心に、(1)技術・技能習得後の労働市場参加と就労、および(2)就労条件や求職環境を観点として、さまざまな角度からフィリピン(の旧教育制度下)における労働市場との関係を概観した。

(1)については、2000年代に首都圏とその近郊や経済特区を抱える特定地方でTVETが急速な拡充され、地方間でのアクセス格差を生じていること、産業別・地域別では労働への参加が必ずしも高い確率で就労に直結してはいない現状があり、地方によって労働市場内の競争環境が異なると考えられること等が明らかとなった。

(2)では、TEVET修了を経ても常勤職を得ることは容易ではなく、求職者の半数は短期/季節労働での給与取得者となるが、大半は就業に移動を伴わないためか、多くの卒業者の求職期間は3か月程度と比較的短いこと、求職手段には何らかの伝手や情報収集がもとづく場合が多く、結果として公的機関の就業支援や雇用者側のアプローチの利用が低調であることが判明した。その要因には、TVET卒業者が自身の学歴や居住地の産業構成・経済状況に影響を受け、TVET受講課程の選択や就業先に制約を持つ可能性があると示唆される。