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アジアにおける障害者のアクセシビリティ法制

調査研究報告書

小林 昌之

2017年3月発行

本研究会は,障害者のアクセシビリティに焦点を当て,障害者権利条約の諸規定を基準に,アジアの障害者が直面している施設,交通,情報,サービスなどへのアクセスの障壁ならびに解消に向けた法整備の実態を分析し,課題を明らかにすることを目的とする。条約が要求するアクセシビリティ保障のための法制度が各国においてどのように構築され,課題を抱えているのか明らかにすると同時に,対象国間の比較により共通の課題の発見につとめる。 対象国は条約制定に地域として主導的に取り組んだ国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に属するアジアの7カ国(韓国,中国,ベトナム,タイ,フィリピン,インド,カンボジア)とする。本年度は1年目の作業として,各国における障害者のアクセシビリティ法制の現状を調査し,論点となる課題の抽出を行った。 本調査研究報告書は,中間報告であり,2年目の分析を経て,最終報告書が作成される。 本章ではまず研究会の課題を説明し,次に本書の構成を要約したうえで,最後に来年度の課題について紹介する。

第1章

韓国では,建物や交通機関,情報へのアクセシビリティについて,法制度は整備されているため,以下の3点に大別して概観する。
まず一つ目として,建物や交通機関,情報アクセシビリティの確保のために行う行政計画などを定めた施策推進に関する法制度を検討する。障碍者・高齢者・妊婦等の便宜増進の保障に関する法律や交通弱者の移動便宜増進法などである。
二つ目の類型として特殊言語と位置付けられ,研究と普及啓発の仕組みを定めたものであり,具体的には,韓国手話言語をろう者の公用語と定めた「韓国手話言語法」や文字としての点字の発展などを定めた「点字法」を紹介する。
三つ目として,個別分野ごとの具体的な場面において,障害を理由とする差別を禁止し,正当な便宜(合理的配慮)の提供を義務付ける権利法として,アクセシビリティを確保する法律である「障害者差別禁止及び権利救済に関する法律」の関連条文を見ることとする。
中間報告となる本稿では,韓国のアクセシビリティについての法制度,現状や課題について紹介し,分析や課題については最終報告の課題としたい。

第2章

本章では,中国において,障害者権利条約が要求する,施設およびサービスへのアクセス,表現および意見の自由ならびに情報へのアクセスを保障するための法制度がどのように構築され,課題を抱えているのか明らかにすることを目的とする。ここでは中間報告として,まず障害者保障法におけるアクセシビリティの扱いを検討し,次に障害者権利委員会への報告と建設的対話の議論を整理し,最後に2012年のバリアフリー環境建設条例の内容を紹介したうえで,来年度の課題を論じる。 障害者のアクセシビリティを規定する「バリアフリー環境建設条例」は,障害者などの社会構成員が,主体的かつ安全に道路を通行し,建築物に出入りし,公共交通機関に乗り込み,情報を伝え合い,コミュニティ・サービスを獲得することを進めることを目的に掲げている。しかし,中国が障害の社会モデルへ転換していないことにより,若干の齟齬が見て取れ,目的とする障害者の主体的参加の面で疑問が残る。

第3章

ベトナムにおけるアクセスに関する法整備とその実態について、車椅子利用者である筆者のバリアフリー研究の視座より述べるものである。バリアフリー化のアクターである障害者はバリアフリーの需要者であり、企業はバリアフリーを供給し、政府はバリアフリーの法整備を行う。このバリアフリーの三者の関係に対する社会の影響力について、日本の状況に言及しながら考察する。最終的に、筆者による現地調査からベトナムのバリアフリーの視点と課題を提起する。

第4章

本稿の目的は,タイにおける物理的アクセシビリティに関係する法令の内容を紹介することである。タイにおいては,障害者が実際に権利に基づく利益を得るために,権利への「アクセス」ということに拘ってきた。そのこだわりは,タイにおける障害者基本法とも言える,「障害者の生活の質の向上と発展に関する法律」においても発揮された。同法に基づくアクセシビリティに関する省令は,それらが要求するアクセシビリティ確保のために設置・提供を求める器具,設備,サービスは充実したものがあるが,その執行を実現するための方策が図られていないと旧来の問題は解決しないまま残っている。

第5章

フィリピンの障害アクセシビリティについては,1982年アクセシビリティ法(BP344)と2016年テレビ字幕法(RA10905)とが現在のところ,同国の主要法律である。これらの基本となる「障害者のマグナカルタ」をベースに,物理的障害アクセシビリティを同国で実現するためにアクセシビリティ法は作られた。しかし,国連障害者の権利条約に見られるような障害アクセシビリティ概念の情報・通信アクセシビリティへの拡張に合わせた国内法整備が,情報アクセシビリティについて現在,進められている。さらに情報アクセシビリティの一部をなすテレビの音声情報の聴覚障害者のためのアクセシビリティについて,新たにテレビ字幕法が成立し,徐々にではあるが,フィリピンでも障害アクセシビリティの整備と現代化が進んでいると言える。

第6章

本稿では,インドにおける障害者とアクセシビリティの問題について,二つの側面から概観した。第一は,2016年12月に制定された障害者の権利法の内容である。本法が制定されるまでの過程において,アクセシビリティについてはいかなるかたちで扱われてきたのかを紹介している。第二に,現在インド政府が進めているアクセシブル・インディア・キャンペーンを取り上げ,その目標について概観している。これら両面を検討することは,今後インドにおける障害者法制でのアクセシビリティの問題を考察する基礎となると考えられる。