新興途上国地域の治安問題に関する基礎理論研究会

調査研究報告書

近田亮平

2017年3月発行

第1章

本稿では、一部の新興途上国地域で深刻な社会問題となっている日常的な治安の問題を取り上げる。治安が劣悪な国として知られるブラジルを主な対象として、はじめに世界各国地域との比較を行い、治安問題に関する先行研究を概観する。次に、ブラジル国内の治安状況を把握したのち、日本の交番システムを模範として、近年ブラジルのサンパウロ州を中心に導入されている新たな治安対策KOBANについてまとめ、将来的な治安研究のひとつの可能性を提示する。

第2章

ベネズエラは近年世界でもっとも治安が劣悪な国となった。従来はベネズエラを含むラテンアメリカの治安問題は、経済成長、貧困、格差などの経済社会的要因と結びつけて議論されてきた。しかしベネズエラの治安データからは、それらと治安の間の相関性は明示的ではない。近年ラテンアメリカの治安研究では、経済社会的要因よりも政治社会的要因に注目した議論がでてきたが、ベネズエラの現地研究者も、急速な治安悪化を政治的要因に注目して議論している。

第3章

本稿では、南アフリカにおける治安の問題を治安対策の観点から考察する。とりわけ、南アフリカでは、犯罪取り締まりが警察という国家機関により独占的に行われているのではなく、非国家主体を含めた複数の主体が取り締まりに関与していることに着目し、民間のセキュリティ会社と自警団的活動を行うグループを例に、その歴史的背景と民主化後の変化について検討する。

第4章

本稿ではインドの治安状況を公刊犯罪統計によって概観する。とくに治安状況の認識に大きな影響を与えると考えられる凶悪犯罪に注目し、なかでもインドで頻発している誘拐と暴動・騒擾の内実を統計から明らかにし、また女性に対する犯罪とりわけ強姦について、統計の背後にある事情に触れる。犯罪発生件数を考えれば、インドの治安は良いといえないが、他方でインドでは犯罪統計の収集の手法、そして旧来の社会慣行も統計に表れる犯罪件数に少なからぬ影響を与えている。