一党支配体制下の議会:中国、ベトナム、ラオス、カンボジアの事例から

調査研究報告書

山田 紀彦  編

2014年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
山田 紀彦 編『 独裁体制における議会と正当性——中国、ラオス、ベトナム、カンボジア—— 』研究双書No.621、2015年11月発行
です。

序章
近年の比較政治学では、議会、選挙、政党等の民主制度が権威主義体制の持続にどのような役割を果たしているのか、そのメカニズムに関心が集まりすでに多くの成果が発表されている。本研究会は昨今の権威主義体制研究の知見を援用し、中国、ベトナム、ラオス、カンボジアの支配政党がいかに議会を活用し体制を維持しているのか、そのメカニズムの一端を明らかにすることを目的としている。中間報告書の序章である本稿では、これまでの先行研究を議会と体制維持の関係を中心に整理するとともに、本研究会の狙いやアプローチについて論じることにする。

第1章
中国共産党の統治方法は、時代とともに変化してきたが、改革開放期の大きな特徴の一つは制度化であり、そのための法整備である。この要請に対し、党はどのような役割を果たそうとし、それはどのように変化してきたのだろうか。本章は、立法権を有する全国人民代表大会に対する党中央のかかわり方を考察することで、現行憲法下(82年体制期)の中国共産党の変貌(中華人民共和国における中国共産党の立ち位置の変化)の大まかなイメージを描き出そうというものである。考察の結果、党中央は法整備を進めるうえで、(1)党の意志を国家意思に転嫁するための、全人代に対する指導者として、(2)それを確保したうえでの、全人代の協働者として、そして、(3)統治の正当性確保のための民意の具現者として、立ち回っていることが判明した。また、党中央の役割を一層明確にするためには、全人代「常務委員会」に対するさらなる考察が必要であることも明らかになった。

第2章
本稿は、「ベトナムにおける選挙、議会が、一党独裁体制の維持にいかなる機能を果たしているのか?」という問題意識のもとに進めている研究の中間報告である。したがって、ここでは、従来の研究をレビューしつつ、この1年間の研究で判明したことを整理すると共に、残る1年間の研究期間にいかなる方法で研究をすれば、どのような成果が得られそうかということを提示した。
本稿における研究課題に対する暫定的な結論は、以下の2点である。
①ドイモイ以降、選挙は制度的にも実態的にも概ね一党独裁体制の維持に寄与する方向で実施されていると考える。
②国会は、国会の立法機能と監視機能を強めつつ、一党独裁体制の維持に寄与する方向にあるものの、地方議会は一党独裁体制の維持を困難にしかねない状況にあるように考える。

第3章
ラオス国会の変遷 (324KB) / 山田 紀彦
ラオスでは経済・社会の変化にともなって国会の位置づけや役割が大きく変化してきた。特に2000年代中盤以降は、国会が国民の代表機関として機能するようになり、国会を通じた民意反映メカニズムが構築されるようになっている。このような国会改革の目的は、人民革命党体制の維持にあると考えられる。党は民意を反映し有効な統治を行うことで正当性を獲得し、体制を維持していると考えられるのである。本研究会では、ラオスにおける体制維持と議会の関係を分析することを目的としているが、その準備作業として本稿では、1975年からこれまでの国会の変遷過程を簡単に整理する。具体的には国会の位置づけと役割がどう変化してきたかについて論じる。

第4章
対仏独立後のカンボジアの議会は、内戦後の国連暫定統治下の1993年に制憲議会が発足するまで、歴代の政権政党が常に全議席を独占し、主として党や政府の決定を追認する役割しか担ってこなかった。
民主的政治制度が導入された1993年以降、国民議会は行政府や司法府に対するチェック機能を果たすことが期待されたが、カンボジア人民党による支配が確立した2000年代以降、政策決定の効率性を重視した制度変更が頻繁に行われるようになった。
人民党は2000年代半ば以降、憲法および国民議会内規の改正という「民主的」手続きを経て、定足数の削減、本会議におけるグループ制の導入、または議会指導部ポストの分配などの手段を通じて、野党だけでなく連立を組むフンシンペック党をも政策決定過程から実質的に排除し、議会の「効率化」を進めている。