開発途上国のマクロ計量モデル

調査研究報告書

野上裕生 、 植村仁一  編

2010年3月発行

第1章  
開発途上国マクロ計量モデルの歴史的展開(Ⅰ) —1970・ 80年代のアジア経済研究所の活動を中心に— / 野上裕生
アジアを中心にした開発途上国のマクロ計量モデルは1970年代後半から1980年代にかけて国際連結モデルという形で急速に発展してきた。この期間、当初は供給決定型が主流であった計量モデルも、輸出市場の拡大に応じて供給能力を向上させてきたアジア工業国の経験を踏まえて、需要決定型が主流になってきた。このような中で総供給と総需要のマクロ的な調整メカニズムの定式化は様々な試みが続けられている課題である。また人口構造の変化といった長期的要因の経済成長に対するインパクトといった問題を計量モデルに取り込むのは今後の課題である。

第2章  
開発途上国マクロ計量モデルの歴史的展開(Ⅱ) —1990年代以降のアジア経済研究所の活動を中心に— / 植村仁一
1990年代から2000年代にかけて「東アジアの経済予測」を実施してきた「アジア工業圏経済予測(PAIR)」プロジェクトの成立と発展について、また、そこで構築された各国マクロ計量モデル、及び複数の国・地域モデルを、貿易構造を通して接続した貿易リンクシステムの変遷について概説する。

第3章  
本章では、内需不振の大きな原因となっている消費に注目し、その背後にある分配構造を検証するための論点を探ることにする。とくに、としてアジア通貨危機以後の企業構造改革に注目し、それが韓国の家計消費にどのような影響を与えるのかを探るためのモデル構築に資する諸要因を明らかにしたい。

第4章  
本章の目的はアジアの新しい経済成長を内需主導で実現するために必要な施策を考えるために内需の決定要因に関する予備的考察を行うことである。これまで需要制約を重視する計量モデルは短期のケインズモデルと考えられてきた。しかし今後は消費を中心にした内需の成長がアジアの成長の重要な要因となるだろう。本章では人口学的要因を考慮した消費関数を推計する簡便な定式化を試みる。

補論   
PAIRモデルの現況について / 植村仁一
PAIR-EARMプロジェクトを通じて開発、維持・更新されてきたマクロモデルを一覧できる形でまとめる。プロジェクト終了年度の経済予測作業(2007, 08年予測)に用いた最新版を掲載する。