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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.258 「人の移動」をめぐる日本と台湾の課題

佐藤 幸人、中村 敏久

2026年2月17日発行

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  • 日本と台湾は外国人労働者の受け入れを進めているが、ともに政府の関与が限定的で、民間のイニシアチブが強く、その結果、人権問題が発生しやすいという課題も抱えている。
  • アジ研とTAEFは、外国人労働者受け入れに関する課題とその解決策を議論してきた。
  • 日本と台湾は、人権的にも、外国人労働者獲得の競争という観点からも、外国人労働者の受け入れの制度や環境のさらなる改善に努める必要がある。

日本と台湾では、ともに少子高齢化が急速に進行し、労働力の不足が日増しに深刻化している。そのため、外国人労働者の受け入れを進めてきた。それゆえ、共通の課題も多い。

アジア経済研究所(以下、アジ研)と台湾亜州交流基金会(Taiwan-Asia Exchange Foundation。以下、TAEF)は2019年以来、この問題に関する議論を重ねてきた。ここでは2025年8月の合同会議を中心に、これまでの議論を踏まえて、日本と台湾の課題および取り組みを検討したい。

外国人労働者受け入れの状況と共通の課題

日本と台湾は少子高齢化のスピードが速く、その結果、深刻な労働力の不足が生じている。労働力不足を補う有力な対策は、外国人労働者の受け入れである。 

日本は2024年10月末現在、230万人あまりの外国人労働者を受け入れている。図1に示すように、サービス業に従事している人が最も多く、次いで製造業となっている。出身国ではベトナムが最も多く(25%)、次いで中国(18%)、フィリピン(11%)となっている。

台湾は2025年10月末現在、86万人あまりの外国人労働者を受け入れている。ケアワーカーを除いてサービス業の受け入れはなく(今後、始める予定)、製造業と建設業を合わせた「産業」が6割を占める。台湾の特徴として、ケアワーカーなど「社会福祉」の割合が大きいことがある。出身国別ではインドネシア(37%)、ベトナム(34%)、フィリピン(20%)の順となっている。

図1 日本の外国人労働者の産業別分布 (2024年10月末)

図1 日本の外国人労働者の産業別分布 (2024年10月末)

(出所)厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧」より筆者作成。

図2 台湾の外国人労働者の産業別分布(2025年10月末)

図2 台湾の外国人労働者の産業別分布(2025年10月末)

(出所)勞動部ウェブサイト(https://statfy.mol.gov.tw/statistic_DB.aspx)より筆者作成。

日本と台湾は、受け入れにおいて政府の関与が限定的であるという点で共通している。その分、民間の仲介業者の役割が大きい。仲介業者は外国人労働者と雇用側のニーズのマッチングにおいて、重要な役割を果たしている。一方、民間主体の受け入れは、人権問題を引き起こしやすいとみられている。

この点に関連して、日本と台湾、そして韓国は外国人労働者の受け入れにおいて競争関係にあることにも注意すべきである。東アジアでは労働力に対する需要が増加を続ける一方、主なソースである東南アジアからの供給は無限ではない。そのため、日本、台湾、韓国は労働者たちから選ばれることを競っている。人権問題の解決は、この点からも必須である。

アジ研とTAEFの合同会議

TAEFは、2016年に発足した蔡英文政権の「新南向政策」を推進する機関として、2018年に設立された。李登輝政権時代の「南向政策」が経済面に限られていたのに対し、文化交流や人的交流を包含するようになったことが「新南向政策」の特徴であり、TAEFはその担い手となっている。運営の中心は国際的にも著名な社会学者の蕭新煌(H. H. Michael Hsiao)会長と、国際政治学者の楊昊(Alan H. Yang)執行長である。

アジ研とTAEFは2019年に学術連携協定を結び、関心が共通する問題として、人の移動、特に外国人労働者について、外部の専門家も招いて、議論を行ってきた。2025年8月22日、台湾において、日本・台湾・韓国の外国人労働者受け入れ政策に係る5回目の会議として、国際シンポジウムを開催した。労働部長(労働担当大臣に相当)をはじめとして、台湾の労働行政や人権の保護を担う機関、ビジネス、NGOなど幅広い分野から、約35名が参加した。

議論の中心は、外国人労働者を惹きつける就労環境の実現と、そのための政策提言だった。台湾については、零細企業や個人による雇用が多いため、負担増を招く待遇改善に対しては反発が強いこと、仲介業者による高額な手数料が労働者に重い負担を強いていることが指摘された。NGOは会議に参加している労働行政の関係者に対して、こうした課題の解決に向けた提言を行った。

一方、日本に関するセッションでは(司会はアジ研の鄭方婷研究員)、知花いづみ研究員が日本の船舶で勤務するフィリピン人船員の労働条件を保護する法的枠組みについて、次いで明治大学の山脇啓造教授が日本の移民統合政策について発表した。

中央集権的な枠組みを構築している台湾と、地方自治体主導で施策を展開してきた日本の違いや、多文化共生や言語施策の特徴等が議論され、日本と台湾の相互理解が進んだ。今後の制度改革や更なる研究の基盤を築く一助となることが期待される。

日本と台湾の課題への取り組み

前述のように、日本と台湾は外国人労働者の受け入れに関して、政府の関与が弱く、民間の仲介業者の役割が大きい。そのため、人権の侵害が生じやすいことが指摘されている。

台湾では、特に喫緊の課題として、仲介業者への手数料の支払いの問題がある。会議の翌月の2025年9月には、アメリカの税関・国境取締局が台湾の自転車メーカーのジャイアント社に対し、手数料の負担をはじめ強制労働の疑いがあるとして、製品の輸入停止を命じた。これを機に、台湾では手数料問題の解決が急速に図られつつあるが、結果的にTAEFの取り組みは一歩の差で間に合わなかったといえよう。これは他山の石である。問題は海外から指摘されるよりも早く、自らの手で解決する必要がある。

日本は外国人労働者に手数料を払わせることを禁じているが、それ以外の種々の人権侵害が疑われる事態が指摘されてきた。その結果、ようやく近年になって、問題の温床と言われた技能実習制度の廃止と、育成就労制度への移行といった制度改革が実現した。改革の効果が期待される。

最後に、日本、台湾、韓国の間で外国人労働者の獲得競争が生じていることには、重ねて注意する必要がある。人権問題の解決はそもそも大前提として取り組まなければならないが、獲得競争の観点からも不可欠である。

まとめ

日台間の対話の積み重ねを通して、外国人労働者をめぐる課題の共通点と相違点、そして相互の関係性が明らかになった。アジ研とTAEFのコラボレーションは、よりよい社会を実現するために、こうした相互学習が有効であることを示している。

さとう ゆきひと、なかむら としひさ/研究推進部)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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