レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.178 RCEPの利用状況──2022年における日本の輸入

2023年5月19日発行

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  • 日本とASEAN諸国等との間には既に経済連携協定が存在していたこともあり、日本の輸入においてRCEPはほとんど利用されなかった
  • 中国および韓国からのRCEP特恵対象品目における輸入のうち、RCEPを利用した輸入額は6割程度である

2022年1月1日、東アジア、東南アジア、オセアニアをカバーした地域貿易協定(RTA)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。我が国にとっては中国と韓国との初のRTAでもある。それから1年以上が経過した。本稿では、2022年、このメガRTAが実際にどの程度活用されたのか、日本の輸入を対象に振り返りたい。

RCEPの概要および輸入額シェアの算出方法

RCEPは、日中韓にASEAN10カ国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国の間で、2020年11月に署名された。そして、2022年1月1日、日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国、ニュージーランドの10カ国においてRCEPは発効した。その後、韓国では2022年2月1日に、マレーシアでは同年3月18日に、インドネシアでは2023年1月2日に発効している。2023年4月現在、残る未発効国はミャンマーとフィリピンのみとなっている。

本稿では、これらRCEP署名国からの日本の輸入において、関税率別の輸入額シェアを概観する。関税率として、最恵国待遇(MFN)税率、各種RTA税率、そして一般特恵関税率(GSP)を対象とする。分母を総輸入額、分子をこれら税率別の輸入額としたシェアを計算する。対象は2022年とし、これら輸入額のデータは日本の税関ウェブサイトから入手する。日本の関税率のデータは世界貿易機関(WTO)によるTariff Analysis Onlineから入手する。

注意すべきことが二点ある。第一に、総輸入額からRTAやGSPによる輸入額を引いた差分を、MFNによる輸入額と見なす。第二に、韓国からの輸入については、分母の総輸入額も2月以降のものを対象とし、1月の輸入額は含めない。

関税率別輸入額シェア

表1 MFN有税品目における輸入額シェア(%)

表1 MFN有税品目における輸入額シェア(%)

(出所)税関データを用いた筆者による計算

表1では、MFN税率が有税の品目に限定したうえで、各税率の輸入額シェアを計算している。RTA/GSPには、RTA税率もしくはGSP税率を用いた輸入額の総額を分子にしたシェアが示されている。オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、ベトナムからの輸入の90%以上が、何らかの特恵税率を用いたものになっている。中国と韓国からの輸入ではRCEPのみが利用可能であるが、中国からの輸入の半分、韓国からの輸入の4分の1がRCEP税率を用いたものとなっている。

中韓からの輸入を除くと、RCEPを用いた輸入はまだまだ少ないのが現状である。ベトナムからの輸入の8%程度でRCEPが用いられているが、それ以外では数%程度である。オーストラリアからの輸入では、二国間RTAとCPTPPが同程度用いられている。ニュージーランドからはCPTPPを利用した輸入が多い。

ASEANのうち、日本と二国間RTAを結んでいる国の場合、ベトナムを除くと二国間RTAの利用が多い。唯一、二国間RTAよりも日ASEAN(AJCEP)のほうが先に発効したベトナムでは、二国間RTAやCPTPPよりも、日ASEANのRTAを用いた輸入が多い。ASEANのなかで後発開発途上国(LDC)向けのGSPが利用可能なカンボジア、ミャンマー、ラオスからの輸入では、GSPの利用が多い。

表1では、MFN有税品目に限定したが、必ずしもRCEPに基づく低い関税率が利用できるとは限らない。これが低いRCEP輸入シェアにつながったのかもしれない。そこで表2では、MFN税率より低いRCEP税率が利用可能な品目に限定し、改めて輸入シェアを計算した。

表2 RCEP特恵対象品目における輸入額シェア(%)

表2 RCEP特恵対象品目における輸入額シェア(%)

(出所)税関データを用いた筆者による計算

中国および韓国からのRCEP輸入シェアは、63%と55%まで上昇している。しかしながら、逆の言い方をすると、未だ4割程度の輸入において、低いRCEP税率が利用可能にもかかわらず、MFN税率が用いられているということである。LDCおよびシンガポール、マレーシアを除くと、何らかのRTAによる輸入シェアは9割程度に上る。中韓からの輸入において、まだまだRCEP税率を利用した輸入が拡大する余地がある。

まとめ

本稿では、2022年における日本の輸入において、RCEPをはじめとする特恵関税率の利用状況を概観してきた。その結果、ASEAN諸国等からの輸入では、RCEPはほとんど利用されていない実態が明らかになった。RCEPが唯一のRTAである中韓からの輸入では、低いRCEP税率が利用可能な品目においても、6割程度の利用状況であった。2023年になり、RCEPは2年目に入った。真新しさが1年目に比べると低下するため、さらなる利用促進が必要である。

(はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

©2023年 執筆者