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新型コロナウイルスの世界経済への影響――IDE-GSMによる分析

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.134

2020年4月20日発行

PDF (1,067KB)

  • 新型コロナウイルスの世界経済への影響についてIDE-GSMを用いて推計を行った。携帯電話の位置情報に基づく人の移動の変化などの情報を利用した本レポートの仮定に基づけば、3月末時点(中国は2月末)の状況が1カ月継続した場合、世界全体のGDPを年間で最大4.2%引き下げると予測される。
  • 国・地域別では、EU(-6.2%)への影響が大きく、米国(-3.7%)、ASEAN(-3.6%)、中国(-2.9%)、日本(-1.6%)の順に影響が大きい。韓国(-0.8%)や台湾(-0.3%)への影響は比較的小さい。

2020年1月上旬から中国での感染の拡大が報じられはじめた新型コロナウイルス(COVID-19)は、これまで全世界で約200万人の感染者と13万人を超える死者を出し、なお感染の拡大が続いている(WHO、4月17日現在)。世界各国で企業活動、人の移動、物流が制約を受け、需要も下振れし、世界経済に甚大な影響が出ることは確実である。

一方で、COVID-19の感染状況が刻々と変化していることもあって、影響の大きさに関する詳しい試算は限られている。世界経済はサプライチェーンや人の移動を通じて相互依存を強めている。ここでは、世界各国・各地域への影響をアジア経済研究所の経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いて試算した。

IDE-GSMは空間経済学に基づく計算可能な一般均衡モデルの一種で、2007年よりアジア経済研究所で開発が進められ、国際的なインフラ開発の経済効果分析などに利用されている。IDE-GSMではパラメータや輸送ネットワークデータの変更により様々な試算が可能であり、今回はCOVID-19による労働投入の減少と中国やEUでの陸路交通制限、航空機の便数減とコスト上昇、人の移動の制約を反映した非関税障壁の上昇を組み込んだ試算を行った。

シナリオ

COVID-19の世界経済への影響についてのシミュレーションには以下の要因が含まれる。

労働投入の減少:

3月31日時点のCOVID-19 Community Mobility Reports1(以下、CMR)で示される各国の職場(workplace)への移動減少分をサービス業を除く産業の労働投入減少分と仮定する。サービス業については、小売・娯楽(retail & recreation)と生鮮食品・薬局(grocery & pharmacy)への移動減少分の平均を労働投入減少分と仮定した。労働投入減少は国単位で一律2、米国についてはCMRの州別の数値を州単位で適用した。中国についてはCMRのデータがないため、湖北省についてサービス業の労働投入を70%減、他の産業は95%減とし、他の省・都市は出稼ぎの受け入れ・送り出し状況に応じて労働投入の減少率を10~50%と仮定し省単位で適用した3

陸路交通制限:

湖北省に出入りする道路および鉄道について、省境で72時間待機が生じると仮定する。欧州ではシェンゲン協定加盟国間の国境でも検疫などのため待ち時間が生じていることを反映するため6時間の待機時間を設定した。

国際旅客:

全世界の国際線について運行頻度を減少させた。また、航空便が激減したことによる航空貨物運賃の高騰を反映させ、サービス業以外の航空貨物についてkmあたり運賃を2倍に設定した。さらに、世界的に入国制限が相互に課されて人の国際移動が難しくなっていることを反映させるため、世界各国間のサービス貿易の非関税障壁が通常の2倍に増加したと仮定した4


IDE-GSMは1年単位で計算を行うため、これらの仮定を2020年時点から1年間適用し、COVID-19の影響がないベースライン・シナリオとの間で各地域のGDPの差分をとってCOVID-19の経済的影響とみなした後、1年分の影響を1カ月当たりに換算(1/12)して示している5

COVID-19の流行が一旦収まれば、その後は労働投入や物流などは早急に元に戻ることが想定され、先送りされていた需要を消化することで押し下げられた分のGDPの一部が埋め合わされると考えられる。また、各国とも大規模な経済対策を打ち出しており、ここでの試算は影響の上限とみることができる。

一方で、COVID-19の感染拡大に伴うロックダウンなどの措置が1カ月を超えて長引けば、経済的影響はさらに大きくなるため、本レポートでの試算は、あくまでも各国の3月末時点(中国については2月末)での状況がちょうど1カ月継続した際の影響と考える必要がある。

また、IDE-GSMによる推計には、COVID-19が引き起こす①金融市場の動揺、②為替レートの変動、③資源価格の変動、④不確実性の上昇に伴うビジネスの停滞、の影響は含まれていない。

推計結果

表1.1、1.2はCOVID-19による影響を国・地域別に示したものである。全世界ではGDPが4.2%減少、サービス業への影響が最も大きくなっている。EUへの影響(-6.2%)が大きく、米国への影響(-3.7%)が中国への影響(-2.9%)を上回っている。

表1.1 COVID-19の国別・地域別影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

表1.1 COVID-19の国別・地域別影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

(出所)IDE-GSMによる試算。

その他東アジア各国・地域への影響を見ると、ASEAN(-3.7%)と日本(-1.6%)は比較的大きな影響を受ける一方で、台湾(-0.3%)と韓国(-0.8%)への影響は比較的小さなものにとどまっている。これは、台湾と韓国はCOVID-19の感染抑制に成功しており、CMRによる職場への移動はそれぞれ-1%、-12%と小幅な減少にとどまっていることを反映している。

表1.2 COVID-19の国別・地域別影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

表1.2 COVID-19の国別・地域別影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

(出所)IDE-GSMによる試算。

図1は全世界への影響を地域別に示したものである。当初感染が拡大した中国も含め、東アジア地域への影響は相対的に小さくなっている。

図1 COVID-19の地域別の影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

図1 COVID-19の地域別の影響(2020年、ベースラインGDP比、3月末の状況が1カ月続くケース)

(出所)IDE-GSMによる試算。

ASEANではフィリピンとマレーシアへの影響が大きく、CLMV4カ国については比較的小さい。インドネシアは、サービス業や製造業が集積するジャカルタ周辺など都市部で影響が大きく、農業や鉱業のシェアが大きい地方については影響が比較的小さくなっている。

南米については、感染者数で見ると多寡があるが、CMRの移動データでみると多くの国でかなり移動が減少しており、シュミュレーション上は経済への影響が大きく出てくる。少ない感染者数はCOVID-19の検査が行き届いていない可能性もある。

アフリカについては、南アフリカとモロッコは影響が大きく、その他の国への影響は比較的小さい。CMRのデータでも減少幅が小さい国が多く、3月末時点では実際に感染が拡大していないと考えられる。しかし、公衆衛生の状態が良くない国も多く、今後の感染拡大に注意が必要である。

まとめ

各国におけるCOVID-19の感染拡大の状況や緊急事態宣言などの対策は短期間で大きく変わるため、最新の状況を反映した経済予測は難しい。本レポートでは携帯電話の位置情報に基づく人の流れの増減データとIDE-GSMを組み合わせることによって、COVID-19感染拡大の世界各国・各地域への経済的影響を直近の状況を可能な限り反映して予測した。

3月末の状況(中国は2月末)が1カ月間続くと仮定した場合、世界のGDPを4.2%押し下げることが予測される。COVID-19の経済的な影響は欧州で相対的に大きく、東アジアでは小さい。南米やアフリカでは今後の影響拡大が懸念され、注視が必要である。

(くまがいさとる・ごかんとしたか・いそのいくも・はやかわかずのぶ・けおらすっくにらん/開発研究センター・経済地理研究グループ つぼたけんめい/東洋大学・国際学部)

脚注


  1. Googleが提供する携帯電話の位置情報に基づく人流のデータ(https://www.google.com/covid19/mobility/)
  2. CMRのデータがない国については4月1日時点のEU提供のCOVID-19感染者数データ(https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/download-todays-data-geographic-distribution-covid-19-cases-worldwide)に基づく国別の人口当たり累計感染者数とJETRO調べによる(https://www.jetro.go.jp/world/covid-19/)各国の非常事態宣言発令状況を説明変数に、CMRの移動データをロジスティク回帰して得た推定値を用いた。
  3. 湖北省以外の設定は以下のとおり。労働投入10%減…遼寧省、新疆ウイグル自治区、山東省、河北省、山西省、寧夏回族自治区、15%減...江蘇省、40%減…上海、浙江省、北京、天津、50%減…広東省。省間の出稼ぎデータは、The Economist Intelligence Unit, Regional China: internal migration, July 13th 2018に基づく。
  4. 各国についてサービス貿易のデータを用いて推計された関税換算の非関税障壁の水準を2倍に設定した。
  5. ここでの試算は、COVID-19が存在しなかった場合(ベースライン)に比べて各国・地域のGDPがどれだけ影響を受けるかを示したものであり、経済成長率自体の予測ではない。

本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。