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【著者インタビュー】「地域研究の魅力とエッセンスを伝えたい」共編者 佐藤章研究員に聞く

地域研究へのアプローチ――グローバル・サウスから読み解く世界情勢――

『地域研究へのアプローチ――グローバル・サウスから読み解く世界情勢――』
児玉谷 史朗、佐藤 章、嶋田 晴行 編
3,300円(本体価格 3,000円)
284pp
2021年3月30日発行
ISBN:978-4-623-09093-8

他社で出版した研究成果へ

 


アジア経済研究所の研究員は、研究所からだけでなく、さまざまな出版社から成果を発信しています。2021年にミネルヴァ書房から出版された『地域研究へのアプローチ――グローバル・サウスから読み解く世界情勢――』に共編者として参加した佐藤章研究員に、共編者になった経緯、本のねらいなどについて聞きました。

――新刊についてお聞かせください。どんな本ですか?

この本は地域研究をこれから学ぶ人に向けて書かれた教科書です。

この地球上には国や言葉や文化が異なるたくさんの人びとが暮らしています。それらの社会それぞれについて深く知ろうとする学問が「地域研究」です。地域研究とはどんなものだろう? と少しずつ近づいて見ていただくようなイメージで、「アプローチ」という言葉をタイトルに入れました。

地域をより深く知るためにはどんなことを調べたらよいのか、どんな着眼点があるのかなど、自ら地域研究を行っている研究者が、自らの体験を踏まえて解説しています。

――アピールポイントは?

地域研究は主に途上国を対象として発展してきました。このため、貧困、紛争、開発が今も昔も変わらぬ重要なテーマです。さらに最近では、移民と難民も重要なテーマとして浮上しています。この本では、これらの重要テーマを本の柱にすえたうえで、それぞれのテーマについて3章ずつ設け、世界各地の異なる事例を通して多面的に学べるように編集しています。

また第1章では、地域研究がグローバルな視野をもつための有用な方法論となることがわかりやすく解説されています。第2章では、地域研究を実践するための2大手法であるライブラリー・リサーチとフィールド・ワークについて解説しています。

地域研究のゼミ出身の社会人が自分のキャリアと地域研究の関わりについて語ったコラムも多数あります。地域研究の手法や学びが、研究ということにとどまらず、職業人としてのキャリアを下支えする価値観や発想をも育むものであることを感じていただけると思います。


写真:著者
――副題にある「グローバル・サウス」とはなんですか?

途上国と呼ばれる国々の多くは第2次世界大戦後に独立を遂げましたが、独立して間もない頃は社会経済的な発展が思うようにいきませんでした。先進国との間に大きな格差がある状態は「南北問題」と呼ばれていました。多くの途上国が先進国からみて南にあったことから、途上国を「南」、先進国を「北」とした表現です。

南北問題といえばかつては途上国だけの問題でしたが、それはいまグローバルな問題として私たちの目の前にあります。かつて「南=サウス」の国々が直面していた問題が、途上国に限らず、グローバルにみられるようになっている現実があるのです。副題にある「グローバル・サウス」はこの状況を指す言葉です。

――途上国(サウス)の課題が、いまは世界共通の課題になっているということでしょうか

経済格差や貧困の問題は先進国でもますます深刻になっています。移民と難民は先進国に対し、これらの人びとをどのように受け入れるかという課題を提起しています。差別などの暴力や国家間の対立もありますから、先進国も紛争の問題と無縁ではありません。先進諸国はこのような状況を踏まえ、自分たち自身の社会や国の仕組みを再検討していくことを迫られています。それは新たな国作りとよく似たものであり、開発の課題そのものといえます。

つまり、これまで途上国が直面してきた問題に、先進国も否応なく関わるようになってきている現実があるわけです。

「グローバル・サウス」という視点に立つとき、私たちが途上国研究から得た理解は、途上国にしか通用しないものではなく、先進国ひいてはグローバルな世界全体にも当てはまるものであることがわかります。

そのように考えると、地域研究は、特定の地域を学ぶものであるわけですが、そこから得られる学びは、特定の地域に限定されない応用性を備えたものだということになります。つまり、グローバルな世界を見るための方法論になるということですね。そのような主張が「グローバル・サウス」を掲げた副題には込められています。

――この本がつくられた経緯について教えてください。

編者のひとりである児玉谷史朗(こだまや しろう)さんが一橋大学を退官されるのを機に、児玉谷さんのもとで学んだ学生たちで本を作ろうという企画がはじまりました。児玉谷さんは一橋大学に移られる前にアジ研にいらっしゃいましたので、アジ研とも縁がありますね。私は社会人になってからの博士後期課程で児玉谷さんに論文指導をしていただきました。

もうひとりの編者の嶋田晴行さんは、国際協力の現場で仕事をなさってきた方です。研究畑と実務畑の双方に目配りできる編者陣となりました。

――本づくりのうえで苦労した点を教えてください。

編集企画は児玉谷さんと3人の副編者(柴田暖子さん、東智美さん、森口岳さん)が素案を作り、嶋田さんと私はおもに提出された原稿へのコメントや編集のかたちで関わりました。

児玉谷さんの教歴が長いこともあり、お互いに面識がない寄稿者もたくさんいました。私もほとんどの書き手と直接の面識がありません。そのようななかでの本づくりだったので、統一感のある仕上がりにするにはどうしたらよいかが一番苦労した点ですね。

3人の副編者をまじえて繰り返し編集会議を行い、本のコンセプトがつたわるよう原稿依頼のあり方から議論しました。原稿には最初からかなり踏み込んでコメントを付けました。校正も複数人で数回にわたって行い、表現の統一を心がけました。


写真:著者

――どのような人に読んでもらいたいですか。

中心となるのは、地域研究という学問の存在を知らなかった方ですね。大学に入ったばかりの学生さんや社会人で学び直しをなさっている方に、地域研究の魅力とエッセンスを伝えたいです。

読書が苦手だという感覚を持っている方にスイスイと自然に読んでいただけるような本にすることを制作過程では意識しました。読み物として読んでいただけるよう、具体的な話題を中心としました。執筆陣の現地での経験も随所に盛り込まれています。文章は読みやすさを重視し、分量もコンパクトにまとめられています。教科書としてはユニークで、「やわらか」です。

とはいえ、ただやさしく書かれているというわけではありません。各章では、理論的な面にも目配りがなされています。読書後に勉強を深めるための仕掛けとして、各章末には「さらに学ぶための問い」と題して、「振り返ってみよう/議論してみよう/調べてみよう」という問いを掲載しました。ブックガイドもあります。ここで取り上げられた本を何冊か読んでいくだけでも、さらに深みのある勉強をしていただけるのではないかと思います。

――今後の構想などがあれば教えてください。

完成した本をもとにして、オンラインのセミナーを開催しようと企画しています。いま、読者層に関する話をしましたが、こういったメッセージは本そのものには直接盛り込めないものの、本の意義づけにとっては大事なものだと思います。こういったことも発信して、本についてよりよくわかってもらうような取り組みにしたいと考えています。

(取材:2021年7月8日)
(写真撮影:長峯ゆりか)