パワーシェアリング ——多民族国家マレーシアの経験——
他社で出版した研究成果
東京大学出版会
エスニシティにもとづく亀裂を抱える社会において、多数派民族の専制をどうすれば回避できるのか? ウクライナやイラクなど、分裂の危険性を孕む国が増加する現在、この問題を解く鍵として注目される「パワーシェアリング」に焦点を当て、安定の条件を理論的に探り、マレーシアを事例に分析。
■ パワーシェアリング ——多民族国家マレーシアの経験——
■ 中村 正志 著
■ 7,150円(本体価格 6,500円)
■ A5判
■ 298pp
■ 2015年12月
■ ISBN978-4-13-036256-6
CONTENTS
略語一覧
マレーシア地図
序 章 マレーシアはエスニック紛争管理のモデルになりうるか?
第1章 パワーシェアリングをめぐる議論——問題の所在——
はじめに
第1節 どうすれば多数派民族の専制を回避できるか
1.「多数者の専制」の脅威とコミットメント問題
2.どうすればコミットメント問題を解決できるか
3.どうすればアウトビッディングを抑止できるか
4.本書が取り組む二つの課題
第2節 多数派民族の専制が生じやすい社会的条件
1.エスニック集団は利益を共有する集団か?
2.変化するエスニシティの政治的顕出性
3.アウトビッディングが生じやすい条件
小 括
第2章 多数派民族政党が穏健政策を選択する条件——モデルと仮説——
はじめに
第1節 「票の共有」再考
1.モデルの目的と前提
2.AVの仕組みと効果
3.FPTPのもとでの票の共有
4.票の共有に関する仮説
第2節 多数派民族政党内の政策選択
1.プレーヤーとルール、帰結、利得
2.各プレーヤーと利得順序とゲームの帰結
3.多数派民族政党の政策決定に関する仮説
第3節 仮説検証の手順
第3章 パワーシェアリングの起源——マラヤにおける連立政権形成史——
はじめに
第1節 民族政党の形成
1.第2次大戦までの政治組織
2.マラヤ連合反対闘争と統一マレー人国民組織の結成
3.共産党蜂起とマレーシア華人協会の結成
第2節 多民族連立政権の誕生
1.民族連絡委員会とマラヤ独立党の結成
2.クアラルンプール市評議会選挙とUMNO-MCA連盟の誕生
3.連邦立法評議会選挙とパワーシェアリング政権の形成
4.「独立協約」と急進政党の登場
小 括
第4章 マレーシアにおける票の共有——効果の検証——
はじめに
第1節 票の共有の前提条件は揃っているか
第2節 民族混合区における与党の構造的優位
第3節 票の共有効果の推定
第4節 与党指導者の認識
小 括
第5章 パワーシェアリングの制度——構造要因の効果——
はじめに
第1節 UMNO幹部にとっての選挙協力のメリットとデメリット
第2節 票の共有なき選挙の不在
第3節 UMNO幹部ポストの価値
小 括
第6章 パワーシェアリング下の暴動——制度の限界——
はじめに
第1節 1969年選挙:民族問題の争点化とその帰結
第2節 5.13事件とラーマンの退任
第3節 独立協約の凍結と新経済政策の導入
小 括
第7章 パワーシェアリング下の党内抗争——変動要因の効果——
はじめに
第1節 1980年代半ばの不況とUMNOの分裂
1.重工業化政策のツケ
2.1987年の役員選挙とUMNOの分裂
3.UMNO役員選挙とポスト1990年問題
4.1990年の総選挙とUMNO役員選挙
第2節 1990年代後半の不況とアンワル副首相解任
1.アジア通貨危機
2.アンワル副首相の解任・逮捕
3.1999年総選挙と2000年のUMNO役員選挙
第3節 2008年総選挙での歴史的「敗北」とアブドラの退任
1.「開かれた政治」と2008年選挙
2.アブドラからナジブへの継承と2009年の不況
小 括
第8章 パワーシェアリングの終焉?——メディア統制の緩和による票の共有の消失——
はじめに
第1節 票の共有が消失するメカニズム
1.2次元空間における政党間競合
2.ヘレステティックの道具としてのメディア統制
第2節 インターネットが促したイデオロギー空間の多次元化
1.争点顕出性に対するインターネットの影響
2.投票行動に対するインターネットの影響
第3節 パワーシェアリングを支えた仕組みの崩壊
小 括
[図8-1Bに関する補足]
終 章 マレーシアの教訓
第1節 要約と結論
第2節 マレーシアの教訓
付録 データの詳細と出典
参照資料・文献一覧
あとがき
索引