イデアス(IDEAS)
活躍する修了生
2021年度修了生 K・Mさん
(商社勤務)
論文タイトル:
“Competition of Foreign Bases and the Survival Strategies of Djibouti”
不確実な世界で、確かな「問い」を立てる力を得た4.5ヶ月
アフリカでのODA実務から、通信ビジネスへ。越境するキャリアの土台にあったものとは? ODA業務でアフリカに駐在中に本プログラムに参加し、その後は同じくアフリカで携帯電話キャリアビジネスに従事しているイデアス修了生のK・Mさん。まったく異なる分野に見える2つの仕事をつなぐ「思考の軸」について、研修での体験を振り返ってもらいました。
(1)イデアス研修プログラムで特に印象に残っていることはありますか?
講義の質の高さと、ディスカッションの深さに驚きました。講師陣はアカデミアや実務の第一線で活躍されている方々で、短い時間の中でも「その分野の面白さ」と「本質的な問い」を伝えてくださる構成になっていました。実は私はジブチへの初海外赴任の直後に受講したのですが、グループワークや掲示板での交流を通して、物理的な距離を超えて他の受講生や講師と深くつながれたことが心の支えになりました。論文では、赴任先であるジブチに進出する外国軍基地が地域の社会開発に与える影響をテーマに選びました。実務では触れにくい学術的な視点からのフィードバックをもらえたことは、今でも大きな学びになっています。
(2)現在のお仕事について教えてください。
現在は、アフリカで携帯電話キャリアの事業に携わっています。イデアス修了当時はODAの仕事で現地に駐在していましたが、ご縁があり、同じアフリカという地域で今度は民間ビジネスの立場で働くことになりました。開発協力から通信インフラへと業種は大きく変わりましたが、どちらの現場でも、「不確実な環境でどう仮説を立て、どう検証していくか」という姿勢が求められる点は共通しています。
(3)イデアスでの学びは、現在の仕事にどのように活きていますか?
論文執筆の経験が最も役立っています。単に「調べて書く」のではなく、仮説を立て、エビデンスを集めて検証するというプロセスを体得できたことが、今のビジネスでも活きています。たとえば新規市場でのリスク評価や、現地パートナーとの交渉でも「問いを明確にし、筋道を立てて判断する力」は非常に重要です。意思決定の精度が求められる環境で、イデアスで鍛えられた「考え抜く力」は今も私の基盤になっています。
(4)受講を検討している方にメッセージをお願いします。
私はこのプログラムを受講したことに、まったく後悔はありません。むしろ、期待以上の収穫がありました。社会経済開発の現場にいる方も、これから関わろうとしている方も、きっと視野が広がると思います。忙しい仕事や学業との両立は確かに大変ですが、事務局や講師陣のサポートは非常に手厚く、安心して取り組めます。プログラムが終わるころには、自分自身の視座も一段上がっているはずです。
迷っている方がいたら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
2019年度修了生 麻場 美利亜さん
(東京外国語大学博士後期課程在籍・駐日東ティモール民主共和国大使館勤務(2025年7月退職))
論文タイトル:
“Development and Culture Preservation in Oe-Cusse, Timor-Leste”
(1)イデアス研修プログラムで特に印象に残っていることはありますか?
修士課程に入学した時から、自分が学んでいる文化人類学の知識を国際開発の現場でも生かしたいという思いを持っていました。指導教員からも経済知識を身につけておく価値があると助言され、イデアス研修プログラムに参加しました。イデアスでは、国際貿易学や貿易を通じた経済開発等、経済学分野を中心とした授業内容だったので、文系畑の自分では日本語でもわからない内容を英語で学んでいる状態でした。そうした中で、各国から来た研修生のうちの一人と仲良くなり、必ず放課後にカフェに行ったり夕ご飯を食べに行ったりして、授業で分からなかったところを解説してもらい、その日の授業内容への理解を深めました。ついていくのもやっとの状況でしたが、授業で学んだことと自分の関心分野を関連付け、国際開発と文化保全というテーマで論文を書き上げることができました。最後は、クラス全体も仲良くなり、みんなで鎌倉観光に行ったのは良い思い出です※。
※2020年度以降、原則全てのプログラムをオンラインにて実施
(2)現在のお仕事について教えてください。
現在は、東京外国語大学大学院の博士後期課程にて文化人類学を学んでいます。また、パートタイムではありますが、駐日東ティモール大使館で広報担当アシスタントとして勤務しています。現職に就く前は、大学院を休学して、2021年10月から2024年10月まで在東ティモール日本国大使館で専門調査員として勤務していました。
(3)イデアスでの学びは、現在の仕事にどのように活きていますか?
専門調査員時代は経済開発協力班に所属し、東ティモールの経済情報の調査、ODA案件の進捗確認と案件管理、ODA広報のための企画立案や配布資料のデザインをしていました。イデアスで学んだことと文化人類学の知識の両方を活用するような業務で、これまでの知識を実践的に昇華することができるとても良い機会でした。
現職には専門調査員時代のつながりがきっかけで就きました。業務は広報職の側面が強いですが、継続して東ティモールの開発事業にも触れている状況です。イデアスで学んだことを専門調査員職で活かし、専門調査員職で得た経験を現職に活用しています。
(4)受講を検討している方にメッセージをお願いします。
海外からの研修生とイデアスで勉強したことについて議論する時間を定期的に持ってみることをおすすめします。新しい視点での分析や研修生の出身国で起きていること等、勉強の刺激となる話を聞くことができます。授業についていくのが大変なこともあると思いますが、積極的に講師の方々や研修生とコミュニケーションをとり、楽しい研修期間にしてください。
2018年度修了生 井坂 洋信さん
(世界銀行勤務)
論文タイトル:
“Labour Income Share and Globalisation: Evidence from Firm-level Data”
(1)現在のお仕事について教えてください。
現在、世界銀行(世銀)でジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として勤務しています。主な業務は、途上国政府向けの財政政策に関する分析やアドバイザリー業務です。世銀に入行する前は、国際協力機構(JICA)にてマクロ経済分析や海外投融資の案件形成などに携わっていました。イデアス研修プログラム修了後から現在に至るまで、マクロ経済や金融分野において、途上国支援に関わっています。
(2)イデアスでの学びは、現在の仕事にどのように活きていますか?
イデアス研修プログラムでは、途上国経済に関する幅広い知識や理論、事例を集中的に学ぶことができました。特に印象に残っているのは、グローバル・バリューチェーンに関する授業です。グローバル化が進んだ現代において、サプライチェーンは世界全体を巻き込む構造になっていますが、その中で途上国は、付加価値の比較的低い工程(スマイルカーブでいう中流)を担っているのが現状です。現在、世界銀行は、雇用創出による貧困削減を重視していますが、その鍵は、こうした国々がより高付加価値の産業で雇用を生み出していけるかにかかっていると感じています。グローバル・バリューチェーンは一つの例に過ぎませんが、イデアス研修は現在の複雑な世界経済のダイナミズムを紐解く手立てを与えてくれたと、日々、途上国に関わる業務をする中で実感しています。