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海外研究員レポート

変化する国会

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050086

2005年10月

10月7日から第5期第8回通常国会が開催されている。今国会は国会改革が本格的に始まった会議と位置づけられる。「ゴム印機関」と見なされ、立法機関として機能していなかったラオスの国会が、権威と実質的な機能を持ち始めている。

ラオスの政治改革は、1991年に開催された第5回党大会を起点とする。この政治改革は、 1986年以降の経済改革に政治制度を適合させるとともに、地方への中央管理と党の指導を強化することを目的としていた。したがって、改革の対象となったのは、主に地方行政である。具体的には、1975年以降設置されていた地方人民議会と議会によって選出される人民行政委員会を廃止し、中央から任命される県知事と郡長を新たに置いた。そして、それまで地方行政委員会の管轄だった各省の地方出先機関を、中央省庁の管理下に置いたのである。この政治改革により、中央集権的管理制度が確立した。しかし、唯一の人民代表機関として残った国会の改革は手付かずであった。

1990年代に入り経済が順調に発展し、法整備の必要性が高まったにもかかわらず、国会改革はほとんど進まなかった。これは、党指導層の間で国会の位置づけがさほど高くなかったためといえる。実質的な改革に着手したのは、2002年2月に実施された第5期国会選挙からである。それまでの国会は、専門知識を持った議員は少なく、会期も長くて1週間程度であり、立法機関として実質的な役割を果たしていなかった。しかし、2002年の選挙では、最終的に規定はされなかったものの、選挙法改正において学歴条項を設ける議論が浮上し、結果的に高学歴者が増加した。会期も2週間から3週間前後となり、法案審議に時間を費やすようになった。新聞やテレビでも、国会の審議内容を詳細に報道するようになっている。また、国会審議に国民の意見を反映させるためのホットラインの設置も行った。これらは、国会を実質的に機能させようという党指導層の意図の表れといえる。

このように国会は徐々に変化を遂げてきたが、今国会では、これまでとは異なる大きな変化がみられる。第1は、今国会が2006年に開催される第8回党大会の政治報告草案と党規約改正案について、意見交換を行うことである。10月4日、党機関紙パサーソンに国会事務局長のメッセージが掲載され、国会が政治報告草案と党規約改正案に対して意見交換を行うことが明らかにされた。10月7日付パサーソンは、国会が党大会文書を審議する理由を、「国会は全民族人民の権利と主人権の代表であるため」とし、「これは新しい民主主義である」と記している。つまり、憲法第52条で規定されている、「国会は全民族人民の権力及び利益の代表機関であり」、「祖国の根本的問題にについて決定する権限を有する」という内容を、実践に移したのである。

これまで、国会が党大会文書を党大会開催前に審議することなど考えられなかった。党大会で提出される政治報告は、今後5カ年の国家方針を定めるため、ラオスにおいて最も重要な文書と考えられる。その文書を国会が審議するということは、党指導層が人民の代表であ る国会の権威を認めたということである。

第2は、党文書の審議を除き、その他の審議事項は経済計画案や政府活動報告等これまでの国会とほぼ同じであるにもかかわらず、会期が1カ月とこれまでで最長となったことである。1カ月の会期を確保したことは、審議に時間を費やすためと考えられる。実際、国会中継を見ていると、これまでの審議よりも時間をかけ、深い議論が行われている。議員の政府への質問は具体的で、かつ、直接的な表現が使用され、大臣が答弁に困ることもしばし見られるようになった。例えば、現在大きな投資が行われている鉱業分野への投資許認可手続きについて、議員は手続きの詳細とそこから得られる政府の収入について具体的に質問し、工業・手工業省大臣も詳細な答弁を行っている。また、裁判手続きの遅れや裁判官の権力乱用に関する厳しい指摘に関して、裁判所長官が答弁に苦しむなど、明らかにこれまでの国会と異なる様相を呈している。

第3は、国会の審議内容の詳細が、事前に国民に提示されたことである。これまでも、国会前に新聞報道で審議内容が示されてきたが、今国会からは、どの機関がどのような報告を行うか、具体的なことが事前に示されるようになった。例えば、国防省と公安省が国防と治安維持に関する報告を行うこと、また、国家建設戦戦線と各階級の代表が政府報告に対してコメントを行うことなどである。そして、前回国会で設置された国会へのホットラインを増設するなど、国会と国民の距離を以前よりも縮めようとしている。

以上から、国会に「人民の代表機関」としての権威と実質的な権力を付与し、国会をより国民に近づけようという姿勢を看取できる。今国会は始まったばかりであり、今後の審議内容や、また、今後数年の国会活動をみなければ適正な判断はできないだろうが、ラオスの国会は確実に変化しており、第5期第8回国会が国会改革において重要なポイントとなることには違いない。