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開催報告

国際シンポジウム

食品安全規制遵守のためのサプライチェーン管理

ジェトロ・アジア経済研究所は、2012年からUNIDOと連携して、先進国の食品安全規制当局がもつ規制違反事例に関するデータの分析を行っている。この結果に基づき、アジア途上国からの農産物・食品輸出の際に、規制遵守にかかわる課題について研究を進めてきた。研究の成果は、「Asian Trade Standards Compliance Report (ATSCR) 2013」と題する報告書として10月にUNIDOとジェトロ・アジア経済研究所により正式に公表される。今回の国際シンポジウムは、本報告書の公表に先立ち、成果普及を目的にして開催されたものである。

食料調達がグローバル化し、各国で輸入食品の安全性を確保するための食品安全規制が厳しくなるなか、途上国から輸出された農産物・食品から多くの規制違反が見つかっている。途上国では、農業・食品加工産業は雇用創出においても重要であり、これらの輸出促進は重要な政策目標である。ただし、途上国が安定的な食料輸出をするためには、規制違反を減らし、輸出相手国市場で産品の信頼を高めていく努力が欠かせない。また、農産物・食品貿易にかかわる企業にとって、輸入違反となり検疫で拒否されるコストは大きく、係るリスクを下げることは重要である。

また輸入国にとっても安全な食品を調達していくことは重要課題であり、日本が海外に多くの食料を頼っているという事実は、すなわち途上国を含む食品製造に係るサプライヤーの適切な管理がなされてはじめて安全な食品調達が可能になることを意味している。

本シンポジウムでは、食品安全にかかわる規制当局、輸出側である途上国企業、輸入側の企業、国際機関という様々なステークホルダーの視点から課題を提示した。アジア経済研究所の研究チームが行ったアジアデータの分析、そしてベトナムと中国の調査から、規制遵守にむけた企業努力によりサプライチェーンにどのような変化が起きているのか、またサプライチェーンの各所におけるボトルネックは何か、さらに政策的になしうることは何かについて議論を行った。

第I部では、UNIDOステファン・ケイザー氏がグローバル版貿易規制遵守報告書TSCR(Trade Standards Compliance Report)の背景と全体の設計について講演したあと、アジア経済研究所鍋嶋研究員が、今回の東アジア版貿易規制遵守報告書ATSCRについて講演し、得られた政策的な示唆について議論した。厚生労働省の今川氏からは、日本の食品安全規制当局の視点から、日本にとっての規制の重要性、また食品の安全性を確保するための制度について紹介が行われた。

第II部のパネルセッションでは、途上国の生産者、次に日本の輸入食品調達業者の視点から、現状と課題、課題克服にむけた取組みについて説明がなされた。その後、東アジア版貿易規制遵守報告書のケーススタディであるベトナムの養殖エビと養殖ナマズ、中国の冷凍野菜を題材に、ベトナムと中国のサプライチェーン全体を俯瞰し、規制遵守にかかる各段階での課題を解き明かし、政策的な含意について議論した。

講演1 国際連合工業開発機関 貿易規制遵守に向けた取り組み
ステファン・ケイザー氏(UNIDO品質・基準・認証課長)
スペンサー・ヘンソン氏(サセックス大学開発研究所上席研究員)

ステファン・ケイザー氏(UNIDO品質・基準・認証課長)

ステファン・ケイザー氏(UNIDO品質・基準・認証課長)

報告資料(6.18MB)

国際連合工業開発機関(UNIDO)は国際連合の専門機関として、生産活動を通じた貧困削減、エネルギーと環境と並んで、貿易規制遵守に向けたキャパシティ・ビルディングの課題に取り組んでいる。貿易に関する課題には様々なものがあるが、とりわけ途上国が輸出先市場の農産物や食品の安全・品質規制を遵守できないことで、輸出が継続できなくなるという懸念がある。UNIDOでは途上国や援助国に対し、政策支援を行っている。

国際貿易への参画を推進するアプローチとして、生産者の生産能力の向上、政府に対しては、食品安全・品質基準遵守に不可欠なインフラとしての適合性評価能力の向上、これらを踏まえた輸出振興活動、通関手続きの合理化の推進を重視している。一方、効率的な途上国援助のためには、この課題で何がボトルネックになっているのかに関する分析が不可欠であると考えられた。

このような考察を経て、UNIDOはEU保健・消費者保護総局、米国食品医薬品局、日本厚生労働省、豪州検疫検査局の4カ国の規制当局から提供された輸入拒否に関する個票データを入手し、英国開発研究所(Institute of Development Studies:IDS)と協力して分析を行った。これにより、どの国の、どのような財が、どのような理由で、どのような頻度で拒否されているかが明らかになったほか、各国の食品安全規制遵守の相対的なパフォーマンスが示された。また規制当局側からみた情報に加え、輸入業者に対する調査、そして国別の品質管理に資するインフラ指標を策定し、この情報も提供している。

分析結果は2010年TSCRにまとめられている。例えば、ベトナムの水産物輸出品が、オーストラリア、EU、日本、米国という世界でも大きな4市場で拒否されることで被った損失は1,300万米ドルと推計されている。この額は輸出額に占める割合でみると小さいが、このような規制当局による輸入拒否は氷山の一角にすぎない。この問題を本質的に改善していくことは今後重要な課題と考えている。

講演2 東アジアからの食品・農水産品輸入における食品安全規制と規制違反の現状——課題と挑戦——
鍋嶋 郁(ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員)

鍋嶋 郁(ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員)

鍋嶋 郁(ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員)

報告資料(2.09MB)

アジア経済研究所は、UNIDOのグローバルな視点から書かれたTSCRを補完し、東アジアに焦点をあてて東アジア版TSCR(ATSCR)を作成した。東アジア版の対象国はASEAN、中国、日本、韓国である。食品加工業が製造業に占める割合は例えばベトナムで30%、インドネシアでは25%と依然大きく、またその後方連関効果により、雇用吸収が見込める農産物生産にも影響を与えるため、アジア途上国にとって今後も引き続き重要な産業でありつづける。世界の農産物・食品輸出額から照らしてみても、東アジア地域からの農作物・食品輸出額は大きく、ラテン・アメリカ地域からの輸出額に匹敵する。東アジア諸国にとっての重要な輸出相手国は、シェアは低下しているものの依然として日本である。日本で輸入拒否が行われた上位10カ国のうち、1位中国、3位ベトナム、4位タイ、7位インドネシア、9位韓国とアジアの国ぐにが5カ国を占めている。この統計を踏まえ、東アジア版TSCRでは、日本の検疫で行われた、他のアジア各国から輸出された農産物・食品の輸入拒否に着目して分析を行った。物品では3分の1以上が水産物となっている。拒否理由では、病原性微生物と残留農薬が主な原因であった。

ケーススタディでは、検疫における輸入拒否を減らすためは、様々な拒否理由がサプライチェーンのどの段階で発生し、各段階でどのような課題があるかを検討する必要があるという問題意識から出発し分析を行った。ベトナムと中国における詳細なケーススタディの結果は以下のように総括される。まず、残留農薬や抗生物質などは農家による管理が不可欠だが、小規模農家等では食品安全規制に関する知識が不足しており、このことがサプライチェーン管理を困難にしている。また、規制の厳しい輸出向けチェーンでは、トレーサビリティ確保のために垂直統合が進展している。結果として、輸出用と国内向けなど仕向地によりサプライチェーンの隔離・分離が起こっている。一方、中国やベトナム国内でも食品規制水準が引き上げられており、今後途上国国内でも食品安全の確保は重要な課題となってこよう。規制対応をより困難にしている原因は、輸入国側の規制要求内容が断続的に変化していくことと、顧客が要求する認証やプライベート・スタンダードの数が増加し、また要求事項も複雑になっていることが明らかになった。

講演3 輸入食品の安全性確保について
今川 正紀氏(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 輸入食品安全対策室室長補佐)

今川 正紀氏(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 輸入食品安全対策室室長補佐)

今川 正紀氏(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 輸入食品安全対策室室長補佐)

報告資料(12.8MB)

日本の食料自給率は2009年に39%となっており、食料の約6割を輸入に頼っている。輸入食品の安全性確保は非常に重要な問題であり、商業用の食品は必ず届出が必要となっている。国内では140自治体が国内品、輸入品の監視を担当している。体制は、輸出国、輸入時、国内の対策の3つに別れている。輸出国に対しては、日本の食品衛生規制の周知を行っている。必要に応じて二国間協議や現地調査等も行われる。また、輸出国に対する技術協力も行っている。例えば、ベトナム向けにJICAを通じて3年間検査能力向上の研修を実施している。

食品等輸入届出窓口は32カ所配置されている。横浜と神戸に検査センターがあり、高度な検査はここで行われている。輸入時の検査制度は主に3つある。輸入者の自主的な衛生管理の一環として、農薬や添加物等の使用状況を業者に行ってもらう指導検査、多種多様な輸入食品について、国民の摂取量の多い食品、違反の可能性、輸入実績をもとに食品を分類しサンプリング検査を行う。平成24年度には約9万件実施された。項目は、残留農薬、抗菌性物質等、病原微生物、添加物、成分規格等、かび毒、遺伝子組み換え、放射線照射のうち過去の違反や蓋然性を考慮して検査を国の費用で行うもの。そして、自主検査やモニタリング検査、国内での収去検査等において法律違反が判明するなど、法違反の可能性が高いと見込まれる食品等について、輸入者に対し、輸入の都度実施を命じる検査がある。これは輸入者が費用を負担し、検査結果判明まで輸入不可となる。2012年度の違反件数は、1,053件となった。約6割が残留農薬、添加物の基準及び規格に関する違反であった。

第II部 パネル・セッション

モデレーター
鍋嶋郁
パネリスト
グエン・ホアイ・ナム氏(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)
塚原裕紀氏(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)
ブー・ホン・ナム氏(ベトナム貿易大学講師)
山田七絵(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

ベトナムの水産輸出——機会と挑戦——

グエン・ホアイ・ナム氏(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)

グエン・ホアイ・ナム氏(ベトナム水産輸出加工協会事務局次長)

報告資料(3.08MB)

ベトナム水産輸出加工協会は、企業の輸出支援を行う団体である。ベトナムにとって漁業・水産業は、5~6%の国内総取引高を占める重要な産業である。その輸出額も衣類、電子製品、原油、靴についで第5位と大きい。2013年、ベトナムには567の水産加工工場があり、すべてがHACCP(ハサップ)含む国内衛生基準を満たしている。EUへの輸出資格を持つ工場は2000年には17工場のみであったが、415工場と大幅に増加しており、輸出相手国の規制遵守への取り組みを着実に進めている。日本は2012年ベトナムからの水産物輸出額の17.9%を占める重要な市場である。うちエビが6割のシェアを占める。ベトナム水産加工業者の課題は多い。まず、輸出相手国の食品安全規制の厳格化がある。一例として、2012年5月以降日本でエトキシキン(抗酸化剤の一種)の規制が導入されて、この規制を満たすことが難しいため、日本向けの輸出量は減少している。また、顧客によるトレーサビリティに対する要求の高まりをうけ、垂直統合が進める必要がある。さらに食品安全規制遵守に加えて環境や社会に対する責任も果たす必要がある。品質、環境、社会に関する顧客の要求はGlobalGAP, BRC等多くのプライベート・スタンダードに落とし込まれており、プライベート・スタンダードの認証取得が取引のために必要になっている。一方でプライベート・スタンダードはより複雑に、また種類が増加しており、認証取得はコストを増大させている。


UNIDO AEON 共同プロジェクト概要

塚原裕紀氏(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)

塚原裕紀氏(イオン株式会社 品質管理コーディネーター/海外品質管理マネージャー)

報告資料(2.27MB)

イオンはUNIDOと官民パートナーシップを行い、マレーシアでサプライヤーとなる中小企業の能力向上プロジェクトを行っている。UNIDOとのプロジェクトではステークホルダーが協力し、それぞれに有益な結果がもたらされることが期待される。マレーシア政府にとっては国内産業育成、サプライチェーン拡充、雇用機会の創出が期待できること、UNIDOにとっては持続可能な産業基盤構築、貿易能力向上、官民連携が達成できること、またイオンにとってはアジアシフトを後押しし、GFSI(Global Food Safety Initiative)のアジアでのリード役を果たし、さらには安全な食材提供をめざすことができる。そしてマレーシアのサプライヤーにとっては、参入機会と輸出機会の拡大を図ることができる。サプライヤー支援は実験フェイズ、拡大フェイズ、能力向上プラットフォーム確立の3フェイズに分かれており、それぞれ25社、100社、最終的には全サプライヤーの能力向上が図られるよう設計されている。現在は実験フェイズであるが、サプライヤーのレベルには大きな開きがある。技術面の課題は、食品安全にかかわる情報が文書化されていないこと、システムはあるが実施されていないこと、施設レイアウト、プロセスフローが基本チェック項目を満たしていないこと、また責任者の食品科学・食品安全の知識、経験が不足していることなどがある。これらの課題の改善が、規制遵守可能なサプライヤー育成につながる。


エビとパンガシウスのバリュー・チェーンから見る食品安全規制の課題

ブー・ホン・ナム氏(ベトナム貿易大学講師)

ブー・ホン・ナム氏(ベトナム貿易大学講師)

報告資料(2.62MB)

ベトナムから輸出されるエビが規制を満たすためには、サプライチェーンの各所での課題解決が必要である。養殖業者によるエビのサプライチェーンをみると、稚エビや成魚の養殖時には、密度の高い養殖池での飼育に起因する水質汚染の影響を受けるため、病気が発生しやすい。そこで病気を防ぐための化学物質や動物用医薬品が使われる。使用可能な化学物質が業界団体等から示されているが、農家は何を使っているのか、どのように使用すべきなのかを理解していない。さらに、養殖業者から買い集める収集業者は目視による検査しか行わないうえ、収集の過程で多くの養殖池のエビを混ぜてしまう。収集業者からエビを買い取った加工業者は検査機関等で検査を行うが、ランダムサンプリングなのですべての違反を検知することはできない。土地の制約の大きいエビ養殖では、小規模な養殖業者に依存せざるをえず、収集業者を含めたトレーサビリティ管理の問題が大きいことがわかった。このため、養殖農家向けの検査機関設立は重要である。そして情報、技術、制度的な支援が必要であろう。一方、養殖ナマズの事例では、多くの加工業者が大規模化しているほか、養殖場を規模別にみても、規模の大きな養殖場のシェアが高まっている。小規模農家は縮小または撤退する傾向がみられる。多くのプライベート・スタンダードの導入も加工業者にとって重荷となっている。プライベート・スタンダードのハーモナイゼーションの重要性も指摘したい。


中国産輸出向け野菜に関するケーススタディー

山田七絵(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

山田七絵(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)

報告資料(295KB)

ケーススタディの対象として冷凍野菜を取り上げ、サプライチェーンにおける安全性・品質管理のための取組みをみた。生鮮・冷凍野菜は近年中国の主要な輸出向け農産物となっており、主な輸出先は伝統的な日本、EUなどの先進国、最近増えつつあるASEANや韓国である。日本における輸入野菜・果物の基準違反件数のうち中国産が占める比率は減少傾向にあるが、申請件数が多いため依然全体の約3割を占めている(2010年)。中国産農産物・食品は国内外の市場で安全問題を発生させてきたが、2002年の冷凍ホウレンソウの残留農薬問題後日中政府間の協議が行われ、輸出向け農産物の安全管理に向けた制度構築の契機となった。中国政府による対応として、第一に輸出加工企業および農場の登録制度が導入された。第二に生産プロセスにおける検査体制が強化され、企業によるHACCP等による品質管理のほか、契約農場における農薬、肥料投入のコントロール、企業による原料野菜の収穫前の自主検査が行われている。輸出時には中国検査検疫局(CIQ)と企業による出荷前の検査が行われている。輸出向け農産物の流通チャネルは国内市場向けとほぼ完全に分離されており、登録された大規模農家から直接輸出加工企業を経由して輸出される。一方、大半を占める国内市場向け農産物は小規模農家によって生産され、多様かつ複雑なチャネルにより流通するためトレーサビリティが確保しにくい。中国政府は国内向け農産物・食品の安全性を向上させるため、企業への支援を通じた農業インテグレーション、契約農業の普及に対する支援を行っており、国内の農産物流通システムの改善に取り組んでいる。今後は健全な農地取引市場の発展、危険性のある農薬など投入財の流通コントロールも重要であろう。

今回のUNIDO・アジア経済研究所の共同研究の成果は、途上国の開発政策、援助機関、農産物・食品貿易にかかわる企業に有益な情報となることが期待される。また、途上国支援と国際貿易政策の議論に資するため、今回の国際シンポジウム以外にも様々な場で成果普及を行っている。2013年3月ベトナム、ハノイでのワークショップ開催、5月には上海における8th South-South GATE Convention、6月ジュネーブWTOのAid for Tradeで発表を行っているほか、2013年12月バリで開催されるWTO閣僚会議のサイドイベントでも発表が予定されている。