元大統領収監で増した先行き不透明感

ブラジル経済動向レポート(2018年4月)

海外調査員(サンパウロ大学客員教授)近田 亮平

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貿易収支:4月の貿易収支は、輸出額がUS$199.32億(前月比▲0.8%、前年同月比+12.7%)、輸入額がUS$137.90億(同▲0.1%、同+28.7%)で、貿易黒字額はUS$61.42億(同▲2.2%、同▲11.9%)だった。年初からの累計は、輸出額がUS$742.99億(前年同期比+9.0%)、輸入額がUS$542.09億(同+15.9%)で、貿易黒字額はUS$200.90億(同▲6.1%)だった。

輸出に関しては、一次産品がUS$101.97億(一日平均額で前年同月比▲2.9%)、半製品がUS$23.93億(同▲2.7%)、完成品がUS$68.80億(同▲4.0%)だった。主要輸出先は、1位が中国(香港とマカオを含む)(US$57.81億、同▲7.7%)、2位が米国(US$23.03億、同▲8.6%)、3位がアルゼンチン(US$16.67億、同+4.6%)、4位がオランダ(US$7.32億)、5位がチリ(US$5.60億)であった。輸出品目に関して、増加率では生体牛(同+178.0%、US$0.61億)が100%以上増加し、減少率では精糖(同▲64.1%、US$0.96億)と粗糖(同▲57.4%、US$2.46億)が60%前後の減少で顕著だった。輸出額では(「その他」を除く)、US$40億超を記録した大豆(US$41.13億、同▲10.7%)をはじめ、原油(US$18.67億、同+60.0%)、鉄鉱石(US$14.85億、同▲21.5%)の一次産品がUS$10億以上の取引額となった。

一方の輸入は、資本財がUS$17.73億(一日平均額で前年同月比+36.2%)、原料・中間財がUS$84.54億(同+6.3%)、耐久消費財がUS$5.73億(同+29.8%)、非・半耐久消費財がUS$14.48億(同+6.5%)、基礎燃料がUS$6.19億(同▲14.1%)、精製燃料がUS$9.22億(同+26.5%)だった。主要輸入元は、1位が米国(US$23.56億、同+18.8%)、2位が中国(香港とマカオを含む)(US$23.53億、同+10.0%)、3位がアルゼンチン(US$9.73億、同+19.0%)、4位がドイツ(US$9.102億)、5位が韓国(US$5.04億、同▲3.3%)であった。

物価:発表された3月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.09%(前月比▲0.23%p、前年同月比▲0.16%p)で、統計史上3月としての最低値を記録した。年初累計は0.70%(前月同期比▲0.26%p)、直近12カ月(年率)は2.68%(前月同期比▲0.16%p)だった(グラフ1)。

分野別では、果物(5.32%)の値上がりが顕著であったものの、トマト(▲5.31%)、鶏肉一羽(▲2.85%)、牛肉(▲1.18%)などが値下がりしたため、飲食料品分野は0.07%(前月比+0.40%p、前年同月比▲0.27%p)と落ち着いた数値だった。健康保険(1.06%)が値上がりした影響から保健・個人ケア分野(同0.38%→0.48%)で上昇率が最も大きかった。ただし、新学期のため先月高騰した教育分野(同3.89%→0.28%)の伸びが大幅に低下したことに加え、航空運賃(▲15.42%)が大きく値下がりした運輸交通分野(同0.74%→▲0.25%)、および、一部の通話料金が引き下げられた通信分野(同0.05%→▲0.33%)でマイナスを記録するなど、多くの分野で低い伸びとなった。

グラフ1 物価(IPCA)の推移:2016年以降

グラフ1 物価(IPCA)の推移:2016年以降

(出所)IBGE

金利:政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は、4月に開催されなかった。次回のCopomは5月15日と16日に開催予定。

為替市場:4月のドル・レアル為替相場は月の初め、汚職事件で有罪となったLula大統領の申請した人身保護に関して最高裁が採決を行う前、各地で支持派と反対派の抗議デモが行われ、社会の混乱を嫌気してドル高レアル安となった。採決の結果はLula元大統領の収監を決定づけるものとなり、左派の有力な政治家のLulaが大統領選にほぼ出馬できなくなったため、金融市場はこれを好感しレアル高に振れた。

しかし、Lulaに対する出頭命令が予想より大幅に早く、最高裁の採決の翌日午後5時を期限に出されたことで、Lulaが所属する労働者党(PT)や支持派が強く反発し社会的な緊張が高まり、レアルは下落。Lulaは出頭命令の期限を守らず、労働者党の拠点であるサンパウロ郊外の金属労組本部に籠城したが、翌日の土曜日、軍事政権下だった1980年にLulaが警察当局に逮捕された場面を彷彿させるように、多くの支持者が集まった現場での緊張が高まる中、Lulaはついに出頭し収監された。10月の大統領選まで6カ月を切った時点で最有力候補のLulaの出馬がほぼ不可能になるとともに、Temer大統領(ブラジル民主運動:MDB)をはじめ、Alckminサンパウロ州知事やAécio上院議員(両者ともブラジル社会民主党:PSDB)など汚職疑惑のある他の有力政治家に関しても、今後捜査や司法手続きが進められ逮捕者が出る可能性が取り沙汰された。そのため、国内政治をめぐる先行き不透明感が高まり、レアルを売る動きが強まった。

一方、ドル高の要素として、13日夜に米国が英国とフランスとともにシリア空爆に踏み切ったため、有事のドル買いが見られた。また、国際原油価格が値上がりして物価上昇への懸念が高まり、米国の金融当局が利上げペースを速めるとの憶測から長期金利が上昇したことも材料視された。これらの海外の要素や国内政治に関して増した先行き不透明感から、25日に2016年6月以来となるUS$1=R$3.5台を記録した。そして、月末は前月末比で+4.73%ものドル上昇となるUS$1=R$3.4811(売値)で3月の取引を終えた(グラフ2)。

グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移:2016年6月以降

グラフ2 レアル対ドル為替相場の推移:2016年6月以降

(出所)ブラジル中央銀行

株式市場:4月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の半ば過ぎまで値動きの大きい展開となった。月の初め、米国のTrump政権による鉄鋼とアルミニウムへの関税引き上げに対して中国が報復措置を講じたことで貿易戦争が激化するとの懸念や、Trump大統領が郵送システムに関してAmazon社を口撃したため米国でIT関連株が売られた影響から、株価は下落。

有罪判決を受けたLula元大統領に関して、申請された人身保護を最高裁が6対5で否決したことで上昇。しかし、Lulaをできるだけ早く収監しようとする司法の判断が下されたことに対し、Lulaをはじめとする労働者党(PT)や中央統一労組(CUT)などの支持者が反抗したため、社会の分断化への懸念が高まり下落。Lulaは司法当局が下した期限に出頭せず、権力やエリート層に反抗する筋金入りの労組リーダーや貧困層の代表といった印象を強めるような言動を行った。しかし、ブラジルの歴史がひとつの転換点を迎えたことを象徴づけるように、集まった多くの支持者で現場が混乱する中、Lulaは自ら出頭し収監された。依然として大衆層を中心に人気の高いLulaが逮捕されたことで、10月に行われる大統領を含む総選挙を前に、政治的な勢力図や動きをめぐり混迷度が増すとの見方から株価は下落。

その後、格付け会社Moody’sがブラジルの格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げたこと、食肉加工業界で国内第2位のMarfrig社が米国のNational Beef社の株を買収し、牛肉加工業界で世界第2位になるとともに、現在ブラジルの牛肉を輸入していない日本や韓国の市場へのアクセスも獲得したこと、3月の物価(IPCA)が同月として統計史上最も低い数値だったことなどから、株価は上昇。しかし、米国などによるシリア空爆や米中の貿易戦争の激化など国際情勢が緊迫したことで、再び下落。また、2月のブラジル中央銀行版GDP(IBC-Br)が前月比0.09%と弱い数字だったことや、大統領選に関する世論調査において、逮捕されたLulaの支持が若干低下したものの依然30%強とトップだった一方、Lula以外に突出した候補者が不在なため、国内政治の先行き不透明感が増したことで値を下げた。

月の後半、原油や鉄鉱石といったコモディティの国際価格が上昇したことを好感し値上がりした後、株価は緩やかに上昇する展開となった。しかし月末、2018年3月(直近3カ月)の失業率が13.1%、失業者数が137万人と3カ月連続で悪化し、2017年8月(同)から毎月漸増してきた実質月平均所得もR$2,169で、前月(同)のR$2,191から大幅に減少した影響もあり(グラフ3)、若干値を下げた。ただし、月末は前月末比+0.88%となる86,116pで3月の取引を終了した。

グラフ3 失業率と実質月平均所得の推移:2014年以降

グラフ3 失業率と実質月平均所得の推移:2014年以降

(出所)IBGE