2007年1月 2回目の年明け
ブラジル現地報告
ブラジル
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今月のひとり言—帰国の準備とその前に
暦も新しくなり、2007年がスタート。私のブラジル滞在は2年間であるが、2005年の3月に赴任したので、「一昨年も私はブラジルにいたんだよな」と少し感慨にふけりながら迎えたリオでの2回目の正月。今年の正月のカウント・ダウンは、有名なコパカバーナ・ビーチの花火を見ながら友人たちと共に過ごし。また、年が明けてすぐには、私のリオ滞在があと少しということで、日本とブラジル国内から友人たちが休暇でリオを訪問。昨年末からリオでは組織的犯罪や(12月現地報告の社会欄参照)観光客を狙った強盗などが続発したこともあり、ボディー・ガードや通訳を兼ねながら、ガイドとして彼らのアテンドに追われ。
そんな慌しくも楽しいリオでの2回目の年明けを過ごしていた頃、私の帰国日決定の通知が日本から舞い込んで来て。帰国準備の手続きを進めながら、今月の後半は帰国の前に公私共にブラジルでやらなければならないことをあれこれ考えたり、計画を立てたり、実行に移してみたり。ただ、覚悟はしていたことではあるのだが、いざ帰国の日が実際に確定し、今まで過ごしてきたこのブラジルを離れ、お世話になった人たちと別れなければならないと思うと、複雑な気持ちに陥ってしまうことが度々あり。まだ最後の1ヶ月でやらなければならないことが残っており、回想するにはまだ早いのだけれど、ブラジルでのこの2年間をふと振り返ると、帰国を前にうまく気持ちの整理ができなくなってしまうことが度々あり。
そんな時、「2年途上国で過ごすと、皆さん一回り大きくなって帰ってこられます。(中略)それで周りの人に優しくなる人が多いです。」という、以前、アジ研の先輩がくださった言葉を思い出し、自分を元気づけてみた今月。決して計画通りではないけれど、ここでしかできないことを最後の力を振り絞ってやれるだけやり、あとは日本に帰ってから。それが残りあと1カ月となった私にできることなのだと、徒然なるままに思ったブラジル赴任2回目の年明けであった。
経済
貿易収支:
1月の貿易収支は、輸出額がUS$109.63億(前月比▲10.4%、前年同月比18.3%増)、輸入額がUS$84.70億(同17.3%、31.3%増)で、輸出入ともに1月としての過去最高額を記録した。輸入額が大幅に増加したため、貿易黒字額はUS$ 24.93億(同▲50.3%、▲11.6%)と前月および前年同月比でマイナスとなったが、貿易取引額は1月としては過去最高を記録した。
輸出に関しては、輸出量の増加だけでなく輸出品価格の上昇により、完成品がUS$ 57.81億(前年同月比15.2%増)、半製品がUS$ 17.38億(同36.3%増)、一次産品がUS$ 31.94億(同16.5増)と全体的に増加した。また、輸入に関しては、今月、為替相場が緩やかながら更なるレアル高傾向となったため、前年同月比で輸入額が全体的に増加した。なお、その内訳は、資本財がUS$ 17,74億(前年同月比31.4%増)、原料・中間財がUS$ 42.21億(同26.2%増)、耐久消費財がUS$ 4.56億(同27.0%増)、消耗品がUS$ 5.90億(同42.5%増)、原油・石油製品がUS$ 14.29億(同45.4%増)で、中でも国際原油価格の上昇により原油・石油製品が大幅に増加した。
物価:
発表された12月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で0.17%ポイント、前年同月比で0.12%ポイント高い0.48%となった。12月は市内バス(4.61%)、長距離バス(3.52%)、タクシー(2.55%)、地下鉄(6.47%)、電車(6.07%)の運賃が引き上げられ、交通・輸送費全体で1.14%上昇したことが大きく影響した。特にサンパウロ大都市圏の物価上昇が顕著であり、交通・輸送費が2.91%、物価全体で0.26%→0.92%もの上昇となった。一方、食料品価格は1.05%→0.39%の上昇にとどまった。
また、2006年のIPCAは前年の5.69%よりも2.55%低い3.14%となり、政府の昨年のインフレ目標値4.5%を大幅に下回り、近年では1998年の1.66%に次ぐ低い数値を記録した(グラフ1)。2006年のIPCAが低い数値に収まった主な要因として、IBGE(ブラジル地理統計院)は、豊富な農産品供給による食料品価格の安定、レアル高による家電製品などの価格の抑制および安定、公共料金に対する適切な価格統制、ガソリンをはじめとする燃料価格の安定の4つを挙げている。
グラフ1 IPCAの推移:1996年以降
(出所)IBGE |
金利:
今月23、24日に開催されたCopom(通貨政策委員会)において、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)が13.25%→13.00%(▲0.25%)へと引き下げられた。引き下げ幅に関して、PAC(後述)の発表時に閣僚から更なる金利引き下げの必要性が主張されたことから、0.50%ポイント以上の引き下げを予測する声もあり、実際にCopomの決定も全会一致のものではなかったが、結局、事前の市場関係者の予測と同じ0.25%ポイントの引き下げとなった。
為替市場:
今月の為替相場は、月の前半はドルが買い戻される場面も見られたが、史上最低値を更新して低下したカントリー・リスクに歩調を合わせるように、緩やかながらドル安レアル高傾向となった。そして、月の後半に昨年9月以来となるUS$1=R$2.12レベルに突入すると、月末には今月の最高値となるUS$1=R$2.1239(買値)までレアルが買われ、今月の取引を終えた。
株式市場:
今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は、今年の取引初日である1日に初の45,000ポイント超えとなる45,383ポイントの史上最高値を記録したが、その後、月の前半は軟調に推移。しかし、ニューヨーク株式市場の上昇や発表されたPAC(後述)への期待感、更にはSelic金利引き下げへの好感などから月の半ば以降は堅調に推移し、45,000ポイント手前まで上昇して今月の取引を終えた。
国内財政:
今月、2006年の国内財政に関する諸指標が発表された。連邦政府、州およびムニシピオ(市)政府、公社のプライマリー・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)の合計はR$901.44億、対GDP比で4.32%となり、政府の目標値4.25%を達成した(グラフ2)。しかしながら、公的債務額が対GDP比で50.0%と昨年よりも若干減少したものの、総額ではR$1兆673.6億と2年連続でR$1兆を超えるとともに(グラフ3)、社会保障費赤字額はR$420.65億となり、対GDP比でも2.01%へと増加した(グラフ4)。今後、無駄な公費削減や社会保障制度の更なる改革による財政改善が大きな課題といえよう。
グラフ2 プライマリー・サープラスの推移:1998年以降
(出所)ブラジル中央銀行 (注)プライマリー・サープラス額は時価 |
グラフ3 公的債務額の推移:1998年以降
(出所)ブラジル中央銀行 (注)公的債務額は時価 |
グラフ4 社会保障費の赤字額の推移:1998年以降
(出所)ブラジル中央銀行 (注)社会保障費赤字額は時価 |
PAC:
今月22日、第2期Lula政権の経済政策である「成長加速プログラム(PAC:Programa de Aceleração do Crescimento)」が発表された。PACはR$5,039億もの大規模なインフラ整備に対する投資および減税により、近年、低成長が続いている経済を活性化し、より高度な経済成長を目指すものである。投資総額のうちR$678億は連邦政府の予算、R$4,361億は公社および民間セクターから拠出するとしている。
PACの概要については下記表1および2の通りとなっているが、GDPの目標成長率が2007年4.5%、2008~10年5.0%に設定されており、この数値達成に対しては懐疑的な見方が強い。また、減税に関して、地方自治体の税収減を予測する州知事が強く反発しているとともに、政府の財源として労働者の積立退職金(FGTS:勤続期間保障基金)を使用することに対し、労組などから反発の声が上がっている。本プログラムが実施されるためには、これらの問題を調整した上で議会による承認が必要であり、第2期Lula政権の今後はPACを中心に政治的駆け引きが展開されていくと予測される。
表1 PACの概要:投資分野および地域と額
(単位:億レアル)
分野 | 運輸・交通 | エネルギー | 社会・都市 | 合計 |
---|---|---|---|---|
事業 | 道路、鉄道、港湾、空港、河川路 | 電力、石油、ガス、再生可能燃料 | 衛生、住宅、市内交通、電気 | |
地域 | 投資額 | |||
北部 | 63 | 327 | 119 | 509 |
北東部 | 74 | 293 | 437 | 804 |
中西部 | 38 | 116 | 87 | 241 |
南東部 | 79 | 808 | 418 | 1,305 |
南部 | 45 | 187 | 143 | 375 |
特定地域なし | 284 | 1,017 | 504 | 1,805 |
合計 | 583 | 2,748 | 1,708 | 5,039 |
(出所)ブラジル政府( http://www.brasil.gov.br/ )のサイトをもとに筆者作成。
表2 PACの概要:減税および財政
対象 | 概要 |
---|---|
新規長期インフラ整備 | 新規長期インフラ整備プロジェクトに使用される資本財、生産要素、サービスの購入時にPIS/Cofinsを免除。投資家に対し、5年以上は所得税を免除。 |
デジタル・テレビ | デジタル・テレビに使用される資本財と生産要素の購入時にIPI、PIS/Cofinsを免除。販売時も。デジタル・テレビ関連技術に課されるCideの免除 |
半導体 | 半導体生産のための資本財と生産要素の購入時にIPI、PIS/Cofinsを免除。半導体関連技術に対するCide免除。半導体関連製品販売時の法人所得税免除 |
パソコン | パソコンの免税適用価格をR$2,500(PIS)とR$3,000(Cofins)→R$4,000。パソコンを購入する個人および販売する小売店に対し低利融資。 |
土木建築 | 土木建築に必要な資材購入時のIPIを5%→0%。PIS/Cofinsの払い戻し期間を25年→2年。 |
公務員給与 | 給与調整はインフレ(IPCA)に1.5%を加えたもの。 |
最低賃金 | 金額調整は2008年からインフレ(INPC)にGDPの成長率を加えて算出。 |
社会保障費 | GDPで調整。国家社会保障フォーラムを創設し、制度の改善を図る。 |
(出所)ブラジル政府( http://www.brasil.gov.br/ )のサイトをもとに筆者作成。
(注)税金については、当サイト「 税制改革 」を参照。
政治
議長選挙:
2月1日の下院議長選挙に向け、PC do B(ブラジルの共産党)のAldo Rebelo現議長、PT(労働者党)のArlindo Chinaglia下院議員が既に立候補を正式に表明していたが、今月、PSDB(ブラジル社会民主党)がGustavo Freut下院議員を擁立することを決定した。しかし、このPSDBの同氏擁立は、一部の同党幹部によるChinaglia支持表明に対抗する形で行われたもので、同党内部で意見の統一がなされていないことを露呈することとなった。
この3候補の間で争われた下院議長選挙は、1次投票ではどの候補も過半数(257)以上の票を獲得するには至らなかったため、Aldo現議長とChinaglia候補による決選投票が行われた。結果は261票対243票という僅差ながら、Chinaglia候補が18票差でAldo現議長を退け、新たな下院議長に選出された。また、同時に行われた上院議長選挙は、第2期Lula政権への協力を表明しているPMDB(ブラジル民主運動党)のRenan Calheiros現議長が、野党PFL(自由戦線党)のAgripino Maia候補を51票対28票で破り再選を果たした。
この結果、第2期ルーラ政権のスタートは、上下両院の議長、そして、512名の下院議員中、法案成立に必要な過半数を上回る321名(2月2日のO Estado de São Pualo紙による非公式な数字)を連立与党議員が占めることになり、Lula政権にとってPACをはじめとする法案の審議に有利な情勢となった。しかし、下院議長選挙が僅差であったことは、連立与党内部でも意見が分かれていることを意味しており、今後、Lula大統領は野党のみならず連立与党内部でも意見調整を余儀なくされることとなったといえよう。
また、今月、Lula政権は昨年末に発表する予定だった政権2期目の経済政策をようやく発表したが、政権2期目の社会政策に関しては教育と治安対策に重点を置くとするものの、具体的な内容については発表しておらず、新たな閣僚編成も含め、2月に発表を行うとしている。
メルコスル:
今月18日と19日、リオ市で第32回メルコスル(南米南部共同市場)首脳会議が開催された。同首脳会議には、ブラジル(Lula大統領)、アルゼンチン(Kirchner大統領)、パラグアイ(Duarte大統領)、ウルグアイ(Vásquez大統領)、ベネズエラ(Chávez大統領)のメルコスル正式加盟5カ国に加え、準加盟国であるボリビア(Morales大統領)、チリ(Bachelet大統領)、コロンビア(Uribe大統領)、エクアドル(Correa大統領)ほか全11カ国の首脳が参加した。
今回の主要議題は、ボリビアの正式加盟および域内大国と小国間の格差是正などであったが、各国の経済利害や政治的なイデオロギーの違いによる激しい議論合戦に終始するものとなった。特に今月、通信や電力セクターの国有化などをはじめとする“21世紀の社会主義国家”構築を宣言したChávez大統領、Morales大統領、今月15日に大統領に就任したCorrea大統領などの急進左派諸国の首脳が、Uribe大統領の親米姿勢を批判。また、Lula大統領が提案した域内小国のパラグアイとウルグアイに対する域外共通関税の撤廃などの優遇案、およびボリビアのメルコスル正式加盟に際しての基準緩和案に対して、ブラジルとの経済摩擦を問題視するとともに、エネルギー供給源確保などの思惑から急進左派諸国への同調傾向を強めているKirchner大統領が反発。更に、アルゼンチンとのセルロース工場建設問題の仲介をブラジルに求めたにも関わらず軽視されたこともあり、メルコスル脱退と親米姿勢をちらつかせているVásquez大統領や、ブラジルとの間で天然ガス問題などが未解決のMorales大統領も、Lula大統領の案には同様に強い反対の姿勢を表明した。
結局、今回の首脳会議では、ボリビアの正式加盟に関しては今後6ヶ月をかけ継続して協議すること、域内大国と小国間の格差是正に関しては2月以降に再協議することが決められたが、内容に関しては具体的な進展は見られなかった。メルコスル首脳会議は回を重ねるごとに、本来の目的である経済交流の促進を図る関税同盟の意味合いは薄れ、各国による利害の表明とそれらの関係を調整し合う場へと存在意義が変容しつつあるとともに、政治色を強めて来ている。しかし、南米大陸のほとんどの首脳が一同に会する意味は大きく、また、今後メルコスルは中東諸国が結成するGCC(湾岸協力会議)との自由貿易協定締結も視野に入れていることから、将来的な南米の地域統合の母体となる組織として、その動向を注視する必要性は高いといえる。ただし、中南米地域での影響力を増しつつあるChávez大統領はじめ、ポピュリスト的左派政権諸国が勢力を伸張しつつあり、メルコスルの今後は、ブラジルを中心とした南米の地域統合というブラジルの当初の思惑とは異なる方向へと向かいつつあるといえよう。
社会
天災&人災:
昨年末から南東部を中心に大雨が降り続き、リオ州やミナス・ジェライス州では20人を超す死者が出るとともに、浸水やがけ崩れなどの被害が相次ぎ、6,000人以上もの人が避難を余儀なくされた。
また、この大雨の影響でリオ州との州境に近いミナス・ジェライス州の鉱山採掘現場から、鉱物洗浄のために堰き止めてあった20億リットルもの大量の泥水が流出した。この大量の泥水は濁流となって周辺に位置する町々を襲い、12,000人以上が避難を余儀なくされるとともに、約13万人もの住民に対する上水道の供給がストップした。この大量の泥水流出事故を引き起こした鉱山採掘会社に対し、州政府はR$7,500万をはじめとする罰金を科す方針であるが、同社側はこの事故は大雨が原因の天災であると主張しており、賠償問題等が解決するにはかなりの時間がかかるものと予測されている。
また、12日にはサンパウロ市の地下鉄工事現場で、直径80m、深さ30mもの縦穴の一部が崩れ落ち、付近を通行していた市民7名もの死者を出す事件が起きた。現場はサンパウロ市内を流れるPinheiros川のすぐ横に建設中のPinheiros駅付近で、大雨による地盤の緩み、地質調査をはじめとする工事過程における欠陥などが原因と見られている。この事故の影響で、周辺地域の住民が一時または長期に及ぶ立ち退きを余儀なくされるとともに、Pinheiros川沿いの主要道路が長期間の通行止めとなり、この影響による交通渋滞は一時140km以上にも及んだ。
大都市圏としては2,000万人弱の人口を抱えるサンパウロにとって、日々の人口移動を可能とする公共交通インフラの整備は最重要課題の一つであり、現在、市の中心部と東部を結ぶ地下鉄4号線をはじめ、地下鉄や鉄道の建設工事が行われている。しかし、今までにも周辺地域の建物にひびが入ったり、工事現場で事故が発生したりするなどの問題が起きており、今後、今回の事故に関する原因究明の調査とともに、建設中の事業に対しても再調査が行われる予定である。
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