調査研究

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国家と空間再編の社会学:東南アジアにおけるリスケーリング(2021_2_40_015)

概要

1950年代から1980年代まで、東南アジア諸国の多くは、欧米の経験や国際援助機関の方針を参照し、経済成長と地域間均衡を図ろうとする国家主導の開発戦略を導入してきた。しかし、1990年代から2000年代の東南アジア諸国では、世界資本主義の拡大と新自由主義の台頭に伴い、グローバルな投資を呼び込むための都市政策や競争的な地域再編が進み、従来の開発主義的な地域開発政策で意図された目標(地域間の財政調整や地域格差の是正)とは異なる形の空間再編が進みつつある (Park, Hill and Saito 2012).。こうした現象をすでに1980年代から経験してきたEUやアメリカでは、グローバル化に伴う地域間格差の進行や都市政策の変容を分析する枠組みとして、「国家のリスケーリング」論が登場し、1990年代末から社会学・地理学・政治経済学の各分野で定着している (Brenner 2004;2009 and 2019).。2013年からは、関連の分析を集めた定期刊行の英文ジャーナル Territory, Politics, Governance も創刊された。

「国家のリスケーリング」とは、これまで国を単位として判断してきた空間編成が、国をこえる国家間関係やEU・アジアといった地域単位、あるいはグローバル資本の展開を視野に収めなければ行えなくなることや、逆に市区町村などの地方公共団体やローカルな単位に判断が委ねられる現象を意味する。さらに、近年は、新自由主義的政策への社会的反発や格差是正を求める世論の強まりから、EUを中心に空間編成における新たな国家の役割強化を見直すアプローチも生まれている (Brenner, Marcuse and Mayer 2012; Struzaker and Nurse 2020)。

本研究会は、外部出版を通じて、「国家のリスケーリング論」を日本に紹介する教科書を作成する。これにあたって、欧米型の新自由主義と国家主導の資本主義が拮抗し、事象を明示的に観察しやすい東南アジア諸国を事例に取り上げる。東南アジアの空間編成の諸課題について理論的視野を加えることで、視点が拡散しがちなグローバル化の分析を東南アジアの比較研究の一角に位置づけることを目指す。

期間

2021年4月~2022年3月

研究代表者

船津 鶴代

研究成果

和文外部出版単行書