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No.35
経済危機と韓国・台湾
序論

東アジアの経済危機の中で、韓国と台湾では通貨危機の発生の有無という点で大きな相違点があった。その一方で、経済危機は台湾にも波及し、そこでは韓国と台湾の共通する側面もあらわになっている。特に相違については、その背景として、これまで両国が有してきたことなる発展メカニズム(韓国=政府・財閥中心、台湾=自律的な民間部門、特に中小企業中心)の違いを指摘できる。すなわち、これまで両国のメカニズムとも合理性を有していたが、台湾のメカニズムは80年代後半以降の内外の環境変化にもうまく対応できたのに対し、韓国のそれはうまく対応しきれず、危機の火種を醸成したと考えられる。

第1章

アジア経済危機の中で、韓国と台湾の経済パフォーマンスには、際だった相違が現れた。具体的には為替レート、株価指数、経済成長率、失業率に現れている。
その違いの背景として、韓国・台湾の経済構造を比較すると、特に貿易構造では韓国が規模の経済が発揮できる産業の輸出が主流であり、かつ品目が集中している。一方、台湾は韓国に比べ品目が分散しており、規模の経済が強くは働かない産業が相対的に強い。企業経営の面をみると、危機以前において、韓国企業は収益性、成長性については台湾企業よりもむしろ優れていたと言えるが、負債比率が高く安全性に問題があった。一方、台湾企業の負債比率は非常に低く、安全性を重視した経営が行われていた。

第2章

韓国においては、1990年代半ばに多くの産業で「投資と参入のオーバーシュート」現象が生じ、輸入増・供給過剰によって危機を招来した。それは90年代以降、韓国が「財閥」中心の産業組織に適合的な、設備依存型の発展を志向した結果であり、またそれには限界があったことを意味していた。
台湾にも1998年に入って危機が波及した。98年後半には、一部の金融機関の経営が行き詰まった。台湾では90年代半ばからバブルが発生していたが、アジア経済危機の波及によって景気が後退したため、バブルが潰れ、企業と金融機関の破綻が生じたのである。しかし、これらの破綻が台湾全体の経済危機に発展することは回避される可能性が高い。

第3章

二つの産業を事例に、韓国・台湾の異同を分析している。ICについては、韓国では大企業グループが主体となり、その資金力を活かしてDRAMに集中し、短期間に日米へのキャッチアップを実現した。一方、台湾のICメーカーは、アメリカとのリンケージを活かしながら、ファウンドリー・ビジネス(前工程の委託加工)を中心に発展した。結果的に、韓国企業の収益はDRAM価格の変動によって大きく左右されるのに対し、ニッチであるファウンドリー・ビジネスに軸足を置く台湾企業は、安定的に高収益を維持している。鋼業では、川上を独占する公営企業が、民営化を契機に川下に積極的に展開するとともに、川下企業が逆に川上への遡及の動きをみせたことによって、投資が活発化した。この点で韓国・台湾は共通している。韓国では結局、設備過多により鉄鋼景気が悪化したが、これは輸出ドライブにより国際価格を下落させた。こうした安い輸入製品の流入を通じ、鉄鋼不況は台湾にまで波及している。

第4章

本章では、金融システムの面から、韓国と台湾の相違点と共通点を考察した。韓国においては、調達面の資本取引規制の緩和が運用面に先行したこと、及び総合金融会社が大量に認可されたことにより、1996年から海外の短期資金の取り入れが進んだ。それを原資として、短期資金市場での銀行・総合金融会社間の業態間競争が激化し、「財閥」の市場からの規律付けが困難になり、負債比率が上昇した。
台湾における金融自由化は国内の規制緩和が主であって、海外との資本取引規制の緩和は進んでいなかった。銀行の経営分析からは、1990年代において長期金融へのシフト、自己資本比率の低下と利鞘の縮小が進んでいることが明らかになった。特に上位商業銀行の場合、環境の変化次第では、経営の是正が求められる。