アジア国際産業連関表の作成——課題と拡張——(中間報告書)

調査研究報告書

桑森 啓 ・ 玉村 千治  編

2016年3月発行

第1章
アジア国際産業連関表の作成手順 (555KB) / 桑森啓・玉村千治・佐野敬夫
本章は、アジア経済研究所が作成してきたアジア国際産業連関表(アジア表)の作成手順について説明することを通じて、第2章以降で議論されるアジア表作成に際し直面する諸課題についての導入とすることを目的としている。

本章では、共通部門分類の設定に始まり、調整作業を通じた誤差の縮小(バランシング)に至るアジア表の作成手順を7段階に分けて説明するとともに、作成過程において直面する課題について解説している。また、近年になって欧米の国際機関や研究機関によって作成が行われるようになった国際産業連関表との比較を通じて、アジア表が以下のような特徴と意義を有することを明らかにした。
  1. アジア表が他機関の表と比較して比較的詳細な分類を有する表であること。
  2. 特別調査や誤差の原因究明を通じた調整作業を行っている点で、その作成手法が他機関の表と比べて大きく異なっていること。
  3. その作成方法から、アジア表は現実を反映した表となっており、統計として一定の資料的価値を有すること。


第2章
複数の国の産業連関表を交易関係により統合される国際産業連関表の作成のためには、各国の産業分類が共通するように統一された、いわゆる共通部門分類の設定が必要とされる。この共通部門分類は、各国産業連関表の詳細部門分類間で各部門の共通性を見出して定められるが、この共通性を見出す作業は容易ではない。

共通部門分類の設定は、対象各国の産業の特徴および対象国間の貿易の特徴を生かしながら、詳細な分類体系になることが望ましい。一方で、各国の部門分類の類似性が高いほど共通部門は設定しやすく、また詳細な分類体系の設定は、対象各国の産業連関表の部門分類の細かさと部門分割用の詳細な統計資料の利用可能性に依存する。

日本表の部門分類の例でみるように、各国表の部門分類それぞれが共通的に準拠すべき国連の国際標準産業分類と乖離していることが、共通部門分類設定を難しくする要因のひとつである。また、各国表の部門分類の部門数の違いは生産額等を推計する統計資料の利用可能性と概ね連動しており、共通部門数を制約する要因であろう。このような現実から、共通部門分類の設定は、各国の部門分類の分割より部門統合に依らざるを得ず、対象国の数が増大するほどその部門数も少なくならざるを得ない。より精緻な分析を可能にする国際産業連関表の作成にはこうした課題の克服が必要である。

第3章
産業連関表の延長推計について、必要となる作業、手法、存在するコンピュータ・プログラムについて述べている。

まず、延長推計作業において必要な作業を概観した後、2005年産業連関表の延長表推計作業に関して、中国、台湾、シンガポールを取り上げ、それらの国で行われた作業について確認する。次に、産業連関表の中間取引部分の延長推計方法を検討する。また、これらの方法のパフォーマンスを比較して、広く用いられているRAS法が最も優れている可能性を指摘する。最後に、現実の延長作業を考慮して設計されたアジア経済研究所の拡張RAS法について、コンピュータ・プログラムの機能から検討する。

第4章
アジア国際産業連関表(アジア表)は貿易取引を通じて連結することによって作成されるため、アジア表の精度はいかに質の高い貿易マトリクス(輸入表)を作成できるかという点に大きく依存することになる。正確な貿易マトリクスを作成するためには、すべての産業部門について、その輸入財がどの部門にどれだけ需要されるか(投入されるか)を相手国別に把握することが必要となるが、実際に輸入相手国別・産業別にすべての輸入取引に関する正確な情報を把握することは極めて困難である。そのため、国際産業連関表の作成に際しては、機械的な手法によって国別輸入表を作成することが一般的であるが、アジア表の作成においては、各国で特別調査を実施することを通じて、より正確な輸入表を作成することを試みている点に大きな特徴がある。

本章では、アジア表において正確な国別輸入表の作成方法について検討する。特に、対象各国において行われてきた輸入財に関する特別調査(輸入財需要先調査)に焦点を充て、その方法と課題について検討を行った。輸入財需要先調査により、相手国別の輸入財の需要構造の実態をある程度明らかにすることが可能になると考えられるが、信頼に足る情報を収集することは容易ではなく、調査結果の使用には十分な注意が必要である。