工業化・近代化、国際参入期におけるベトナムの家族

調査研究報告書

寺本 実 、ブイ・テェー・クォン、ファム・ヴァン・ビック、岩井 美佐紀 著

2016年3月発行

イントロダクション
1986年12月にドイモイ路線が正式に採択されて以降、ベトナムでは国家丸抱えの計画経済に基づく経済運営から、市場経済に基づく経済運営への転換が図られ、1990年代半ばからは工業化・近代化が推進されている。そして、2001年第2四半期以降、国際経済参入が正式に推し進められてきた。こうした流れのなかでベトナムの家族を取り巻く環境は大きく変化しており、少子化、家族規模の縮小、家族の子供に対する教育・社会化機能の低下傾向などが指摘されている。本報告書では各執筆者の手元の調査結果、公的文書、二次文献に基づいて、工業化・近代化・国際参入期におけるベトナムの家族の変容・動態、家族発展戦略について考察する。

第1章
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表1 (184KB)
表2 (282KB)
本稿では「2030年を視野に入れた2020年までのベトナム家族発展戦略」(以下、家族発展戦略)について考察する。2012年5月29日、同家族発展戦略は首相により承認が決定された。本稿では同家族発展戦略の構造、内容、実行組織について検討する。同家族発展戦略によれば、同戦略において定められた目標指標の位置づけは、国家・地方の経済・社会発展に関する目標指標に属している。

第2章

ベトナム東南部における年配者 / ブイ・テェー・クォン

本稿では、2015年に実施した南部重点経済地域調査に基づき、ホーチミン市を除くベトナム東南部に暮らす年配者(具体的には55歳以上)の生活について考察する。本稿の構成は以下の通りである。最初にベトナム東南部地域について、そして本稿で使用する調査サンプル、分析対象サンプルの特徴について説明する。次に、この地域における年配者の生活について、経済的背景、過去15年間の生活変動、家族生活に伴う満足度、今後5年間の見込み、子供の昇進への信頼など、いくつかの角度から分析を行う。

第3章
本章では、紅河デルタにおける婚姻後の若い夫婦の居住について考察する。著者は、調査票における設問文章の検討をも含めた先行研究の精査に基づき、ベトナムの紅河デルタ地域においては、婚姻後夫方に居住する若い夫婦が多数を占めると結論付ける。そしてそこには時間や空間にしたがって様々なヴァリエーションが存在することもあわせて指摘する。また、しばしば論じられる夫方居住に対する儒教の影響についても考察を加える。

第4章
本稿では、メコンデルタの新経済村を舞台とする連鎖移住(di cư dây chuyển)と南北ハイブリッドカップル(hôn nhân hỗn hợp Bắc-Nam)における家族関係について考察する。本研究において著者は、移住、新しい環境・困難への適応過程において、非父系ネットワーク(妻方、娘、姉妹)が非常に重要な役割を果たすことを指摘する。