フィリピンの企業グループとユニバーサル/商業銀行部門

調査研究報告書

柏原 千英  編

2015年3月発行

総論
総論 (211KB) / 柏原千英
フィリピン資本の企業グループ自体や、それら企業グループ内の所有構造、資金調達・提供に関する調査研究は少なく、国内経済に占めるウェイトの大きさにもかかわらず、不明な部分が多い。その主因は、トップの持株会社はもとよりグループ内企業の証券取引所上場数が非常に少なく、財務諸表のみならず全般的な情報開示が不十分だからである。

本研究会では、企業グループを中心としたフィリピン企業の投資・資金調達活動に関する研究をすすめるため、端緒として主要な企業グループとその中核持株会社の概要と、企業グループ系列・独立系(非企業グループ系)・外資系ユニバーサル/商業銀行の近年における融資動向をまとめた。

分析結果からは、企業グループに関して、(1)グループの全体像を把握するためには、中核持株会社の連結財務諸表以外からも情報が必要であること、(2)主な持株会社の負債/資本比率は概ね100%以下であり、保守的なグループ経営をしていると考えられることが挙げられる。また、銀行部門に関しては、(3)国内資本の銀行部門が融資を急激に増大させたのは2010年以降であること、(4)現時点では、グループ系列であるか否かを基準として一定の融資傾向があるとは判断できないこと、(5)外資系(とくに欧米系)銀行のフィリピン国内における融資縮小は2000年代初頭から始まっており、国内資本銀行が外資系ライバルの動向如何で迅速に与信量を増減しているとは考えにくい、(6)金融部門の連結財務諸表は銀行を頂点とするグループ構造となっており、各行の連結決算のみでは企業グループ内における金融部門の役割やその大きさを把握するには不十分であること、が指摘できる。

第1章
フィリピンの企業グループ (248KB) / 鈴木有理佳
フィリピン経済における企業グループの存在は大きい。彼らは基本的に内需型であり、持株会社を中心とした体系に再編を続けている。その持株会社は、子会社や関連会社への出資を通してグループの拡大に寄与してきた。出資金増加の過程では、負債比率をおおむね100%以内に抑えようとしており、持株会社が借入れに極端に依存しているわけではないようである。一方で、内部留保の積み増しが観察される。

第2章
本章では、フィリピン国内融資残高の約80%を占めるユニバーサル/商業銀行の財務諸表をもとに、2000年以降における与信傾向と長期(1年以上)・短期(1年未満)期間構成の傾向について予備的な分析を行った。

各行会計年度末の融資額と同長期・短期融資残高データからは現時点で、(1)国内資本銀行間で企業グループに属するか否かで異なる傾向を明確に観察できないものの、(2)合併・統合を実施した最大手ユニバーサル銀行は、直近で短期融資を大幅に増加させている、(3)財務諸表からは事由不明だが、2000年代終盤以降に長期/短期融資を逆転させている銀行がある、(3)外資系銀行では、欧米系か否かで融資残高および期間構成に明らかな傾向が見られる(欧米系の与信縮小分をアジア系がある程度代替している)、と言えそうである。

銀行部門の連結決算は、直接所有関係にある下位関連企業・子会社への与信のみ財務諸表に記載されるため、とくに企業グループ系銀行に関しては、上位および同グループ内他業種企業への融資傾向を把握することにより、企業グループ内での金融機関の役割・位置付けや重要性をさらに明らかにする必要がある。

補論および資料
本論では、第2章で使用した与信データの各行別推移を分散図にまとめている。対象はフィリピン中央銀行(BSP)からユニバーサル/商業銀行として認可されている国内資本/外資系民間金融機関33行である。データ元となった財務諸表に各行別の表記相違があるため、33行全てに統一的な基準を適用してはいないが、おおまかな傾向の有無や特徴を読み取れよう。表記相違の詳細については、本文を参照されたい。