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ジェンダー分析における方法論の検討

調査研究報告書

児玉 由佳  編

2013年3月発行

はじめに (161KB)
序章
認識論・方法論・調査手法 (168KB) / 児玉 由佳
方法論は、本来調査手法を選択するための基本方針であり、具体的な調査手法と混同されがちだが、調査手法とは明確に区別する必要がある。調査者の認識論的な信念から出発した問題意識が具体的な調査手法にたどりつくまでの一連のプロセスのなかで、方法論は有効な調査手法を選択するための重要な役割を果たしている。

第1章
スタンドポイント・アプローチは、これまで等閑視されてきた「女性」に対する抑圧や権力の存在を明らかにするために、女性の「立場」(standpoint)を中心とした新たな視点をとりいれた方法論である。初期のスタンドポイント・アプローチは、「女性」と「家父長制」を普遍的なものとみなし、現実の女性の多様性について重視していないという批判をうけた。現在のスタンドポイント・アプローチは、このような批判をとりこみつつ修正、発展を続けている。女性の多様性を認識し、女性をとりまく複雑な権力関係を明らかにするために、スタンドポイント・アプローチはいまだ有効な方法論であるといえよう。


第2章
本稿は、トルコにおけるナームスにかんする研究の動向を整理する。ナームス(namus)は、狭義には親族の女性のセクシュアリティの保護/管理を通じて維持される、個人や集団(家族・親族、村、民族など)の名誉を意味する。名誉の犯罪にたいする国際的な注目の高まりを背景として、2000 年代以降、ナームス殺人や処女検査が社会問題化すると、研究の蓄積が開始した。研究者の中心的関心はナームス殺人であり、その立場は近代化改革の徹底によってナームス殺人は克服可能とするものと、国家はナームス殺人を「伝統的なもの」と位置づけることでむしろそれを存続させたとするものに大別される。しかしナームスは殺傷に関係するだけでなく、人々の日常的な行動に制約を課し、またジェンダー・アイデンティティとも密接に関係している。今後はこうしたナームスの日常的な実践についても検討する必要がある。