コスタリカ総合研究序説

調査研究報告書

山岡 加奈子  編

2012年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
山岡 加奈子 編『 岐路に立つコスタリカ ——新自由主義か社会民主主義か—— 』アジ研選書No.36、2014年2月21日発行
です。
目次 (423KB)
第1章
ラテンアメリカ三大デモクラシーのひとつとして讃えられたコスタリカの統治モデルは1990年代にほころびが見られるようになり、2000年代には危機を迎えた。この危機は2007年の新しい統治モデルの導入と、その後の定着で一応の決着を見せたと言えるが、新しい社会協定の締結に至ったわけではないため、統治の問題が解決されたとは言えない。

第2章
コスタリカ外交-理念と現実- (551KB) / 山岡 加奈子
冷戦後のコスタリカ外交は、米国のラテンアメリカ地域におけるプレゼンスの低下に伴い、 変容を迫られている。他方コスタリカの非武装平和主義や中立主義といった理念は国際的に 広く知られているが、実際にコスタリカが、外交政策においてこの理念をどう実行してきた のかは議論の分かれるところである。本稿では、コスタリカを巡る国際関係の論点について 、それが国際関係理論でどの程度説明可能かを検討し、併せて最近の動向と現在の紛争を紹 介する。

第3章
コスタリカ共和国では、1919年以降軍部による政権の強奪やクーデタが行われないまま今日 に至っている。すなわち、90年を超える民主主義の伝統がある国と考えてよい。本章では、 コスタリカ国民の間に、この長く続いた民主主義の価値が根付いているか、根付いていると すればどのような形で根付いているかを報告する。
1996年以降2009年までの非営利団体ラティノバロメトロによる、中南米主要国17国を対象と した世論調査を利用した。平均してコスタリカ国民の77%が民主主義を支持しており、民主 主義に満足していると回答した割合も55%であった。いずれの数字も中南米諸国の中で高い 数字であり、年間のばらつきも少ない。この背景には、民主主義に対して「手段としての価 値(instrumental value)」だけでなく「固有の価値(intrinsic value)」をもつ国民が少 なからず存在することが指摘できる。

第4章
コスタリカは、平均余命、乳幼児死亡率また貧困率などの社会指標がラテンアメリカ域内で は良好なことが知られている。こうした良好な社会指標の背景には、コスタリカ歴代政権が 社会保障の拡充を唱え、実行してきたことが指摘できる。そうした社会保障拡充政策を担っ てきた政党として、社会民主主義政党と自己規定している国民解放党があり、同党は1948年 の内戦後度々政権に就いていた。一般に社会民主党では労働組合との関係が重要であるが、 国民解放党は特に労働勢力の全面的支持を受け、その利益を代表する政党であるとはいえな い。そのため、同党の支持基盤や階級同盟のあり方を検討する必要がある。ここではコスタ リカの社会保障制度の形成と性格について福祉国家論からの分析を行うための予備的考察を 行う。

第5章
本稿は、第2次世界大戦後から現在までの教育政策をまとめたものである。歴史、2011年教育 予算、基礎教育普及のプログラムの概観よりなっている。

第6章
コスタリカの主導の下、中米7か国とドミニカ共和国で導入された「中米テリトリアル農村開 発戦略 2010年~2030年」 (Estrategia Centroamericana de Desarrollo Rural Territorial 2010-2030: ECADERT)の政策面及び理論面での特徴を、総合農村開発戦略や空間経済学にもと づく地域開発アプローチとの比較を通して明らかにした。
ECADERT導入の背景となったコスタリカの貧困動向の地域的特徴と対象テリトリーの社会経済 的特徴を整理し、ECADERTの運用面での課題を比較制度分析に基づいて抽出し、今後の実証的 な調査課題を設定した。

第7章
コスタリカの為替レート制度は、1998~2006年10月16日までは、クローリング・ペッグ制度 であり、翌日から2010年末までは、クローリング・バンド制度であった。クローリング・ペ ッグ制度下では、対米ドル為替レートは、自国と最大の貿易相手国である米国のインフレー ション率の差に応じ小刻みに減価されたと考えられる。このため、対外競争力は、実質実効 為替レートの安定化を通じ、潜在的に安定化された。クローリング・バンド制度下では、対 米ドル為替レートの変動が許容される上限値と下限値においてコスタリカ中央銀行による外 貨買いと売り介入が行われた一方、バンド幅は基本的には次第に拡大された。同制度下では 、対米ドル為替レート減価率が低下したため、インフレーション率の低下にもかかわらず、 実質実効為替レートは増価し、対外競争力は潜在的に低下した。

第8章
過去20年間でコスタリカの産業構造、および輸出構成は大きく変化した。農産品とアパレル 製品輸出を主とした経済から、ハイテク製品輸出国となった。その転換点となったのは、イ ンテル社の進出である。本稿では、コスタリカの企業活動に関わる制度変化を分析し、イン テル社進出の背景とその波及効果の獲得において、ハイテク産業振興政策の人的・制度的イ ンフラが需要な役割を果たしたことを示す。