中東における繊維・アパレル企業の経営と情報戦略

調査研究報告書

岩﨑 葉子  編

2012年3月発行

第1章
経済のグローバル化とエジプト繊維産業 (4.04MB) / 加藤 博, 岩崎 えり奈, 柏木 健一
エジプトの経済にとって、依然として繊維産業は重要である。しかし、企業単位のミクロ調査の実施がエジプトではこれまで困難だったため、エジプト繊維産業の事業所の実態についてほとんど分析されてこなかった。そこで本稿では,エジプトの繊維事業所を対象に2010年に実施した調査から得られたミクロデータに依拠し,エジプトの繊維事業所の特徴と生産性について分析した。分析の結果、調査企業のなかで、零細企業の技術効率性が大企業よりも高く、地域別には二大繊維産業都市であるショブラ・ヒーマ市とマハッラ・クブラー市だけでなく、カイロと下エジプト全体において効率性の高い企業が集積していることが明らかになった。また、技術効率性を向上させる要因としては、機械設備の技術水準、従業員の熟練度、経営者の経験年数が特定され、創業年数の長い企業、県内と外国からの原料調達や他県への出荷が多い企業、生産過程における品質管理システム導入している企業の技術効率性が高いことが実証的に明らかになった。これらの実証結果より、機械設備の技術に加えて、人的資本や経験の蓄積が重要であり、製品の品質管理やカイロを中心とした卸売業者とのネットワークの形成も生産技術向上に貢献していることが示唆された。

第2章
イランのアパレル産業は、就労者数10人未満の中小・零細企業が全体の9割以上を占め、産業全体の零細性がきわだっている。一方で、自社ブランドを確立し、国内市場のみならず積極的に海外への輸出に取り組む10人以上の就労者を抱える優良企業も存在することは、あまり知られていない。イランの統計上「大規模」企業として計上されるこれらアパレル企業は、厳しい生産環境のなかでも独自の経営理念と危機管理でもってブランドを維持し、国内市場におけるプレゼンスを確保してきた。零細企業群とは一線を画す生産技術の高さゆえに、2000年代以降のアパレル輸入急増期にも生き残ったイランの「大規模」アパレル企業は、従来イランでは見られなかった「一部工程の外注」や「海外企業からの作業請負」などにも臨機応変に乗り出している。資本の垂直統合の進みにくいイラン・アパレル業界にあって、企業規模そのものを拡大せずに安定した特定のマーケットを確保することで経営を維持する「大規模」企業の経営ノウハウが、アンケート調査および聞き取り調査によって明らかとなった。