中国 高度化の潮流 -産業と企業の変革-

調査研究報告書

今井健一 丁 可  編

2007年3月発行

この報告書は中間報告書です。最終成果は
今井健一・丁 可 編『 中国 産業高度化の潮流 』アジ研選書No.15 現代中国分析シリーズ1、2008年発行
です。
序章
産業高度化の潮流 (186KB) / 今井 健一
高度化とは「就業者一人あたりの付加価値の持続的な増大を実現するような性質の産業・技術・企業の変革」と定義できる。その内容は資本蓄積や技術進歩だけでなく、産業間の連関効果や空間的な集積効果などさまざまな要因を含む。中国の産業高度化を把握する試みとして本書では、多岐にわたる産業のケーススタディを行っている。各産業のケーススタディが一致して指し示すのは、中国の市場規模の大きさと需要の多様性が、産業高度化の推進力として決定的な意義を持つという事実である。

第1章
1999年の産業政策導入を契機として中国では、携帯電話端末の地場メーカーが急速に成長した。以後外資大手の反攻によって競争が激化するなかで、端末専門の設計会社、中核チップセットを開発するIC ファブレス企業など、産業内分業の新たな担い手が発展を遂げつつある。本章のケーススタディは、中国国内市場の規模と需要の多様性が、地場企業を主体とする産業の高度化を育む土壌として、きわめて重要な意味を持つことを示している。

第2章
自動車産業の高度化 (370KB) / 丸川 知雄
21世紀に入ってから中国自動車産業では、生産プロセス技術・製品技術の向上、部品・材料の国産化、資本集約度の上昇という一連の変革を通じて、国内付加価値の労働生産性が上昇する高度化のプロセスが加速している。一方、技術そのものを生み出す研究開発については、依然として外資への依存度が高い。「自主開発」への政策支援が、産業内でリーダーシップを発揮しうるような民族系メーカーを育成できるかどうかが注目される。

第3章
近年中国の鉄鋼業は、高成長に伴う旺盛な鋼材需要と鋼材価格高騰を背景に、急速に生産規模を拡大させてきた。そのプロセスは汎用鋼材を主体とする小規模メーカーの興隆による集中度の低下と、大手メーカーの設備大型化・高級鋼材生産能力の拡張による産業高度化という、二つの異質な潮流の交錯を特徴とする。だが、過剰供給の懸念に対応した新産業政策の策定を契機として、今後は小規模メーカーの乱立抑制と大手メーカーへの生産集約が加速すると予想される。

第4章
中国では自動車産業の急速な発展により、部品や金型を生産する地場企業の成長がめざましい。とくに浙江省の金属・機械産業の集積地では、自動車メーカーへの納入ができるまでに優良な中小企業が成長してきた。集積地の職人や商人の伝統に加えて、最新鋭技術への設備投資、国有企業等からの技術者の引き抜き、経営者の向上心などが、優良企業に共通している。今後は高度化に向けて、経営管理面の改革、集積メリットの活用が注目されよう。

第5章
中国の雑貨産業は、狭い地域における雑貨産地の大量発生の形で発展してきた。「市場」は、これらの産地の中小企業が活躍する舞台として、最も重要な役割を果たしてきた。本章では、(1) ローエンド市場における需要の集積、(2) 参入障壁が低い流通システムの構築という二つの面に焦点をあて、日本とも比較しつつ、中国の雑貨産業における「市場」の機能を解明した。

第6章
中国におけるアパレル産業の高度化は、産業が地理的に集積する形で発展してきた。本章では、中国のアパレル産地を(1) 専業市場推進型、(2) 輸出指向型、(3) 大企業主導型という三つの類型に分類し、各類型の産地が構造の異なる国内外市場に直面しながら、いかにして独自の競争力を有するオーガナイザーを育ててきたのかについて、検討した。

第7章
改革開放期の飛躍的な成長を通じて中国は、世界最大のビール生産国となった。各地に多数のメーカーが乱立する超分散型の市場構造は、1990年代以降の競争激化を契機として青島ビールに代表される大手の買収攻勢による再編が進みつつあるものの、経営の統合は難航している。一方外資大手は世界のビール業界再編の一環として中国地場メーカーへの資本参加や買収を積極的に展開しており、現段階では外資主導の業界構造が形成されつつある。

第8章
中国では市場経済化と対外開放に伴う物流需要の拡大とインフラの拡充に対応して、モーダル・シフトや広域化・グローバル化、サービスの高度化など物流業の構造変化が急速に進展してきた。市場開放を契機に高度な物流能力を有する外資の参入が加速しているが、全国チャンネルを武器に総合物流企業への脱皮を図る国有大手や新たなビジネス・モデルの開拓で成長する民営企業など、民族資本側の適応の動きも注目される。しかし物流サービスの効率化は依然として多くの課題を抱えており、総合物流政策の整備が望まれる。