レポート・報告書
アジ研ポリシー・ブリーフ
No.234 LDC卒業後のバングラデシュ人の海外就労の課題
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- 「後発途上国」卒業をバングラデシュ人の海外就労の高度化を進める機会に
- 在留資格「特定技能」での日本就労に関心が拡大するが、日本語教育が課題
バングラデシュは、製造業、特に衣料の製造・輸出により経済成長を実現した。しかしながら、2026年には後発開発途上国(LDC)からの「卒業」が予定され、特恵措置の恩恵を享受できなくなることの影響をどう克服するかが課題となる。国内産業の育成・多様化のほか、これまでバングラデシュ経済に寄与してきた海外就労についても再考が必要である。
統計年鑑によれば、2023年に海外で就労するバングラデシュ人は130万5453人で、本国への送金額は216億USドル(22/23FY)に達する。上位の受け入れ先は、サウジアラビア(49万7674人、38.12%)、マレーシア(35万1683人、26.94%)、オマーン(12万7883人、9.80%)、アラブ首長国連邦(UAE)(9万8422人、7.54%)、カタール(5万6148人、4.30%)、シンガポール(5万3265人)などである。バングラデシュは人口の91.04%がイスラーム教徒(2022年センサス)であることもあり、中東や英領諸国など文化的・歴史的に関係の深い国が上位を占める。
図1 海外就労バングラデシュ人(技能別)
バングラデシュ人の海外就労について留意すべき点は、低熟練労働者の比率が依然として高いことである。図1は、海外就労者を専門職と3段階の技能労働者に区分したものである。上位および中位の技能労働者の比率の上昇が確認できるものの、低熟練の比率がなお高いことが分かる。長期的な人材育成や個々人のキャリア形成に向けた施策の継続が必要である。
就労先としての日本への関心が高まる
上述のバングラデシュ統計年鑑は日本で就労するバングラデシュ人の数を967人(0.03%)とするが、これは実態を反映していない。法務省在留外国人統計(短期滞在等者を含まず)によれば、2023年末の日本在住のバングラデシュ人は2万7962人である
表1 在日バングラデシュ人・ネパール人(2023年)
ネパールとの比較
バングラデシュ(人口約1億7千万人)よりも人口が少ないにもかかわらず、日本での就労で大きく先行するネパールとの比較は有益であろう(人口約3090万人。在日ネパール人17万6336人)(図2)。
在留資格別にみると、ネパールは「技能」が多い点が特徴である。インド料理レストラン調理師が典型的であるが、独立して自ら経営者となり、または長期の滞在を経て永住権を取得するパターンも多いとみられる。また、これらの在留資格では家族の帯同が認められる(表1)。
図2 日本在住バングラデシュ人・ネパール人
バングラデシュ人の場合、技能実習生は相対的に少なく、むしろ学歴など高度な知見・経験を条件とする在留資格「技術・人文知識・国際業務」での就労が顕著である。
日本の出入国管理・難民認定法の2018年改正により、人手不足が深刻な特定の産業分野で外国人労働者を雇用するため、在留資格「特定技能」が新設され、2019年から受入れが開始された。対象業種(2024年改定)は、介護、ビル清掃、製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連)、建設、造船、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造、外食の12分野である。特定技能1号の場合、在留期間は通算で最長5年となる。特定技能の条件として、日本語と技能の試験が要求されるが、同一分野内であれば雇用主の変更が可能で、日本人と同等の賃金が適用されるなど労働者に有利な設計になっている。留学生や技能実習生で条件を満たす者は特定技能に移行することも想定されている(試験が免除される場合もある)。特定技能のネパール人が多いのはこうした経路が利用されたためであろう。
特定技能活用に向けたバングラデシュの動き
バングラデシュでは1970年代半ばから海外就労の奨励策が始まり、海外就労のための求人・あっせん等を行うリクルート・エージェントは、2288社が登録され、一つの産業として存在感がある(人材雇用研修局[BMET]資料)。これらエージェントのなかには特定技能等による日本での就労に目を向けるところが増えている。その結果、これまで長年バングラデシュで日本語教育に尽力してきた学校・団体に加えて、新規に日本語コースを提供するエージェントが増え、日本語教員の不足が生じている。
他方、日本側でもバングラデシュ人材への関心が高まり、様々な試みが進行している。たとえば、宮崎大学・宮崎市・JICAなどが協力し、高度IT技術分野の技術者を留学生として受け入れ、インターン・就労を支援するプログラムを進めた(宮崎バングラデシュ方式として知られる)。また、バングラデシュに拠点を持つ日系企業のなかにはバングラデシュ人技術者を採用し、現地での日本語研修の後、特定技能等で日本において就労させる計画を進めるものもある。
特定技能でのバングラデシュ人の受け入れは2019年から始まり、まだ数は少ないものの確実に増加している(表2)。また、技能実習生、留学生の増加が顕著であるが、そのなかには資格を満たした後に特定技能で就労を継続しようとする者を含むと考えられる。
表2 特定技能等の在日バングラデシュ人推移
まとめ
LDC卒業を迎えるバングラデシュにとって、自国民の海外就労の高度化も課題となっている。高度人材や特定技能の人材受け入れは日本国内の人手不足を解消するだけでなく、バングラデシュ経済の安定化や人材育成に資するものとなることを期待したい。
(いまいずみ しんや/新領域研究センター)
本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません
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