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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.220 インドネシアの森林減少の実態──人工衛星データによるアプローチ

2025年3月7日発行

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  • インドネシアの非森林面積は2018~2020年の2年間で28,600㎢ 増加していた。
  • 非森林化は南スマトラ州と西カリマンタン州の一部地域で進行している。
  • 農地拡大と非森林化の間に明確な相関は見られず、非森林化の要因分析が今後の課題である。

インドネシアは世界第3位の熱帯雨林面積を保有する。その豊かな森林資源を適正に管理・保全することは、自国の利益だけでなく地球規模の気候変動にも影響するため、国際的な問題である。気候変動対策や生物多様性保全のためにも森林保護は喫緊の課題であり、REDD+など国際的な森林保護の取組みがインドネシアでも進められている。この取組みは一定の成果を上げているが、いくつか課題もある。その1つが森林変化の実態把握である。例えば、REDD+の政策対象地域において森林保全策が奏功したとしても、他の地域で森林伐採が増えている可能性がある。そのため、一国全体を俯瞰するようなマクロレベルでの森林変化の検証が必要である。しかし、マクロ分析の場合、特定地域の細かな森林変化を捉えることが一般的に難しくなる。本稿では、この問題に対処するための1つの方法として、 JAXA(宇宙航空研究開発機構)の人工衛星データ「全球25m分解能PALSAR-2森林・非森林マップデータセット(Ver. 2.0.0)」(以下、FNFデータ)を使用し、インドネシアの森林変化の定量的評価を試みた。1

JAXAの森林・非森林(FNF)衛星データ

FNFデータベースには、全地球の地表面を写した多数のTIFF画像が地域別で格納されている。各TIFF画像はピクセルと呼ばれる格子状のマス目で構成されている。1ピクセルは約25m×25mの地理的範囲を表し、解像度は高い。各ピクセルに対し、その地表面が「樹冠率90%の森林」ならば1(緑)、「樹冠率10~90%の森林」なら2(薄緑)、「非森林」は3(黄色)、「水域」は4(青)、そして「データなし」なら0といずれかの数値が割り当てられており、地表面の森林状況が数値化されている(図2参照)。

インドネシアの非森林面積の変化

本稿は2018年から2020年のFNFデータを使って、「非森林」のピクセル数を集計することで、インドネシアの非森林面積の変化を計測した。具体的には、各年の FNFデータに対して、インドネシア統計庁が作成した2012年時点の地図データを重ね合わせることで、国全体と地域別の非森林面積を年別に算出した。

表1 非森林面積の変化

表1 非森林面積の変化

(出所)筆者作成 (注)順位は2018~2020年の非森林面積の変化量(差分)に基づく。カッコ内の数字は当該地域における森林・非森林面積(「水域」と「データなし」は除く)に占める非森林面積の割合を示す。

表1は、2018~2020年の非森林面積の変化を示したものである。全国の非森林面積は2年間で28,600㎢増加している。これは秋田県と岩手県を足した面積よりもやや大きい。地域別では、南スマトラ州の州都パレンバンの東にあるオガン・コムリン県で非森林化がもっとも進んでいた(表1と図1、2参照)。続いて、パプア南部、南スマトラ北部、西カリマンタン北部の地域で非森林面積が増加している。非森林化が進んだ上位5つの地方自治体を集計すると、非森林面積は4,700㎢増加しており、国全体の非森林化面積の16.5%を占める。とくに南スマトラ州の非森林化が著しく(図2)、同州の上位3つの県だけで全体の10%を占めている。非森林化は一部の地域で急速に進んでいたことが示唆される。

図1 地方自治体別の非森林面積の変化

図1 地方自治体別の非森林面積の変化

(出所)筆者作成

図2 南スマトラ州周辺の森林・非森林エリア(2020年)

図2 南スマトラ州周辺の森林・非森林エリア(2020年)

(出所)筆者作成 (注)図1の破線矩形部分を取り出し、ピクセルレベルで数値を色分けして描画した。値1~4の定義は本文を参照。値5は2018~20年の間で森林(値1 or 2)から非森林(値3)に変化した地表(ピクセル)を表す。
プランテーションとの関係

非森林化が進む一つの要因として、プランテーションの農地拡大が考えられる。そこでインドネシア統計庁の州レベルプランテーション面積とFNFの非森林面積の散布図を作成した(図3)。ただし、図が示すように、両者に統計的に意味のある相関関係は見られなかった。

この要因の1つとして、FNFデータの森林定義の問題により、非森林面積の拡大が過小評価されている可能性がある。FNFでは、果樹、油ヤシ、オリーブのプランテーションを「非森林」と分類する一方で、ゴム、コルク、オーク、クリスマスツリーなどのプランテーションは「森林」に分類されているからである。もう1つの要因としては、農地拡大がインフォーマルに進行し、それを政府統計で捉えきれていない可能性もある。農地以外にも、木材伐採・道路建設・資源採掘などの活動が非森林化に寄与していることも考えられる。

図3 非森林面積とプランテーション面積の変化

図3 非森林面積とプランテーション面積の変化

(出所)筆者作成 (注)横軸は非森林面積の変化、縦軸はプランテーション面積の変化。両軸とも対数値の差分。直線は回帰直線、グレー領域は95%信頼区間を示す。
衛星データによる森林変化のモニタリング

無秩序な森林減少を防止するためには、政府統計だけでなく、高解像度の衛星データも活用した森林変化のモニタリングが重要となる。図2のように、FNFデータは地表面の森林変化を詳細に可視化することができる。例えば、森林保護地区の地理的範囲をデジタル地図データとして整備し、それをFNFデータと重ね合わせることで、森林保護の実態把握が可能になる。現時点でそのような地図データは十分に整備されていないが、有力なモニタリング手法の1つである。

まとめ

本稿はJAXAの人工衛星データを使って、インドネシアの森林変化の定量的な評価を試みた。その結果、2018~2020年の2年間で非森林面積は28,600㎢ 増加し、一部の地域で非森林化が急速に拡大していたことが明らかとなった。非森林化と農地拡大の間に明確な相関はなく、非森林化の要因分析が今後の課題と言える。また、森林保護政策の有効性を検証するためにも、政策対象地区のデジタル地図データを整備し、地区の内外における森林変化の分析を行うことが必要であろう。

  1. https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/dataset/fnf_j.htm

はしぐち よしひろ/開発研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

©2025 橋口善浩