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アジ研ポリシー・ブリーフ

No.196 ラオスにおけるLDC卒業の影響(1)──LDC向け関税率の利用状況から

2024年9月19日発行

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  • ラオスの輸出全体を見ると、必ずしもLDC向けのGSPに完全に頼った輸出構造ではない。
  • 日本や欧州向けを除くと、ラオスはそれほどGSP関税率を用いた輸出を行っていない。
  • FTA等、その他特恵税率が利用可能な国向けでは、LDC卒業後も関税率はそれほど上昇しない。

2021年11月、ラオスがバングラデシュ、ネパールとともに後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)のステータスから2026年に卒業することが、国連総会で決議された。これにより、ラオスは輸出時にLDC向けの特恵関税率を利用できなくなり、輸出先市場で価格競争力を失う可能性がある。本稿ではラオスを対象に、これまでLDC向けの一般特恵関税制度(GSP)をどの程度利用してきたのか、そしてLDCを卒業することにより、どれだけ関税率が上昇するのかを議論する。

表1 2023年におけるラオスの輸出先ランキング

表1 2023年におけるラオスの輸出先ランキング

  1. (出所)筆者による計算
ラオスの主要輸出先

ラオスの主要輸出先を確認する。表1は、2023年の各産業における輸出先をトップ5まで掲載している。データはASEAN事務局のASEAN Statから入手している。各産業の対世界輸出額に占めるシェアも示している。ラオスに対しGSPを供与している国については青で、ASEAN諸国については緑で塗られている。米国と香港を除くと、全産業において、トップ5輸出先国はGSP供与国かASEAN諸国であることが分かる。

表2 主要国・地域のラオスからの輸入(2022年)

表2 主要国・地域のラオスからの輸入(2022年)

  1. (出所)筆者による計算
GSP利用率

次に、実際にラオスの輸出先におけるGSP関税率の利用度を調べる。データは、WTOウェブサイトから入手している。表2は、9カ国・地域でのラオスからの輸入を掲載している。A列は総輸入額、B列はうち最恵国待遇税率(MFN税率)、つまり一般に適用される税率が既にゼロとなっている品目における輸入額、C列は有税の品目における輸入額を示している。ここから、中国やEU、英国、インドからは、有税品目における輸入額が大きくなっているが、それ以外の国からでは無税品目における輸入額のほうが大きいことが分かる。後者ではGSPによる特恵的市場アクセスが必要ない。

D列からG列までは、GSP税率が利用可能な品目の輸入において、関税率別の輸入額を示している。そして最後の2列では、有税品目の輸入、もしくはGSP対象品目の輸入に占める、実際にGSP税率を用いて輸入された額のシェアを示している。両者に大きな違いは見られないが、国による違いは大きい。EUや日本、英国、カナダ向け輸出ではGSPが多く用いられているが、それ以外の国向けではシェアが低い。とくに、インドとオーストラリア向けではゼロである。したがって、欧州・日本・カナダ向けを除くと、ラオスは必ずしもGSPによる特恵市場アクセスを活用した輸出を行っているわけではない。

表3 EU日韓のラオスからの特恵輸入シェア(%)

表3 EU日韓のラオスからの特恵輸入シェア(%)

  1. (出所)筆者による計算

表3では、有税品目に限定し、EU、日本、韓国における、ラオスからのGSP税率による輸入額シェアを産業別に示している。データはそれぞれ、Eurostat、日本の税関、Korea Trade Statistics Promotion Agencyから入手している。さらに日本と韓国では、GSPのみならず、自由貿易協定(FTA)を含む、特恵関税率別の輸入額シェアを示している。EUでは、「化学製品」「プラスチック製品」「木材製品」「繊維製品」「履物」でGSPの利用率が高い。日本については、「その他品目」でRCEP(地域的な包括的経済連携)の利用が、「化学製品」でAJCEP(日・ASEAN包括的経済連携)の利用が多いものの、それ以外ではGSPがとくに利用されていることが分かる。一方、韓国では、GSPよりもAKFTAASEAN・韓国FTA)が多く用いられている。

LDC卒業による関税率上昇

最後に、LDCの卒業による、GSP供与国に対する関税率の上昇分を調べる。LDCを卒業すると、LDC向けのGSPは利用できなくなるが、途上国向けのGSP関税率は引き続き利用できる。FTAを結んでいる場合は、FTA関税率も利用できる。表4は、一部の主要供与国向けについて、2030年時点で利用可能な最低税率がどれだけ上昇するか、産業別(平均値)に示している。

表4 2030年時点の対ラオス平均関税上昇率(%)

表4 2030年時点の対ラオス平均関税上昇率(%)

  1. (出所)筆者による計算、(注)NZL=ニュージーランド

FTA等、その他特恵税率が利用可能な国向けでは、関税率はそれほど上昇しない。とくに、RCEPメンバーである、オーストラリア、中国、日本、韓国向けでは、中国向けの紙製品、日本向けの肉類や食品、履物で3%を超える上昇(青く塗られた部分)が見られるものの、それ以外ではほとんど変化しない。EU向けでは、肉類、食品、繊維、履物など、一部の産業で大きな関税上昇が起こる。

おわりに

最後に、以上の分析結果をまとめよう。ラオスの輸出全体を見ると、GSP供与国への輸出が上位を占めているが、中国や欧州向けを除くと、MFNベースで既に無税になっている品目の輸出も多く、必ずしもLDC向けのGSPに完全に頼った輸出構造ではない。有税品目においても、日本や欧州向けを除くと、それほどGSP関税率による輸入額シェアは高くなく、FTA関税率のほうが活発に利用されている国もある。実際、FTA等、その他特恵税率が利用可能な国向けでは、LDC卒業後も実行関税率はそれほど上昇しない。相対的に大きな輸出減少が起きる可能性があるのは、欧州向けの一部の産業であろう。

はやかわ かずのぶ/バンコク研究センター)

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

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