広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(III)

アジ研ポリシー・ブリーフ

No.44

丸屋豊二郎
2014年5月7日
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広東省には、電気電子産業から自動車産業まで多くの日系企業が立地したことで、製造業による経済活動は成熟し、労働力供給不足による賃金の上昇や産業高度化を目指した委託加工生産への制限などにより、企業の経営環境は変化している。こうしたなか、広東省政府は直接投資をさらに受け入れ続けるだけでなく、地場企業の海外展開を政策的に促進し、循環経済を実現し、物流業などの産業を高度化したいと考えている。

「広東経済の高度化と日中経済連携の課題(IV)」研究会は、2009年にジェトロと広東省政府との間で締結された覚書における協力内容の中核事業に位置付けられており、2013年度における本研究プロジェクトは、広東省政府からの要請に従い、(I)広東省企業の海外展開の促進、(II)広東省の投資環境整備、および(III)広東省における経済・社会・文化の高度化を研究内容とした。本稿では、(III)について詳しく述べる。(I)および(II)については、それぞれポリシー・ブリーフNo.42、43を参照されたい。



循環経済の実現に向けた政策課題
広東省経済・情報化委員会は、2010年に広東省循環経済発展計画を定め、2020年まで節水型、省エネ型、資源節約型、用地節約型、資源多角利用型のモデル企業の育成に取り組んでいる。このなかで廃棄物を資源として有効に利用するための分別回収が循環経済に向けた取り組むべき課題として定められている。広州市では、ごみの分別や有料化への取組みも加速している。

日本の経験を踏まえると、広東省の都市の分別収集やごみの有料化に際し、次のような点に配慮する必要がある。廃棄物の焼却施設や堆肥化施設などの建設が、分別収集に追いつかず、分別してもごみの減量につながらない状況が続いている。施設の建設状況を踏まえながら分別収集ができるような計画的な取り組みが求められている。また、ごみの有料化については、各家庭でごみの量を減らす取り組みなどごみの減量化の促進と併せて実施することが必要である。

農・食・観光(6次)産業クラスター形成による産業高度化政策
広東省が中進国の罠から脱却するひとつの方法として、農・食・観光が一体となった6次産業クラスターの形成を提案する。珠江デルタ地域を香港並みの食文化、観光のメッカとし、内外から多くの観光客を誘致し、消費関連サービス業の創出と質の向上を促す。グローバル経済の最前線にいる香港を活用し、かつ環境保全にも配慮した産業高度化政策として、現在の広東省にとって最も適した政策課題である。

政策の方向性としては、まず地域の「プラットフォーム」を形成する。その際の決定的な要因は、「ヒト」の任命で、革新性を持ち、リーダーシップを発揮できることが重要である。次にクラスター形成に向けたステップの順序付けと構成要素の選択である。第1に「物的インフラ」としての空港整備、第2に「制度インフラ」としての規制緩和、第3に「文化構成因子」の強化、第4に「地域ブランド」の形成である。新産業を誘致するためには、外国の経験を学び、かつ外国企業を誘致することも必要である。



《参考文献》
  • 朽木昭文・溝辺哲男(2011)「農業・食品加工産業クラスター政策へのフローチャート・アプローチ・モデルの確立」『開発学研究』第22巻1号。

  • (まるや とよじろう/福井県立大学教授)


図1 広州市の想定している生活ごみ処理フロー
図1 広州市の想定している生活ごみ処理フロー
(出所)広州市城市管理委員会「広州生活ごみ分類」2012年。


本報告の内容や意見は、執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません。



No.42 広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(I)
No.43 広東省対外経済部門の高度化と「幸福広東」の実現 日本の経験を踏まえた政策提言(II)