21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像  

アジ研選書

No.14

21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像

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■ 21 世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像
■ 遅野井茂雄・宇佐見耕一  編
■ 4,730円(本体価格 4,300円)
■ A5判
■ 347pp
■ 2008年
■ ISBN978-4-258-29014-7

 21世紀に入る前後よりラテンアメリカにおいて、多くの左派政権が誕生した。本書では先行研究にならい、社会党や共産党にルーツを持つ政権、ポピュリスト運動にルーツを持つ政権、社会運動にルーツを持つ政権など、ラテンアメリカにおいて歴史的に左派に分類される政治勢力による政権を左派政権としており、キューバ、コスタリカ、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、ボリビア、ブラジル、チリ、アルゼンチンの左派政権が扱われている。
 上記のように多様なルーツを持つラテンアメリカの左派政権は、いかなる背景で成立し、またいかなる政治、経済、社会政策を実行しているのであろうか。本書では、次の二つの論点を軸にこれらの問題の分析を試みている。
 第1は新自由主義という軸である。21世紀における左派政権誕生に、1990年代にラテンアメリカ諸国で行われた新自由主義的経済改革、政策がどのような影響を与えたのか、それら左派政権は、貧困や社会的格差の原因が新自由主義的政策であると見なしているのか、そして、反新自由主義的経済政策を導入しているのか、あるいはそれが単なる言説にとどまり、実際には市場経済を尊重しているのか、といった点が論点となっている。
 第2は対米関係を中心とした対外関係という軸である。本書が対象とした左派政権のいくつかにおいては、経済民族主義的傾向を強める中で、米国企業を中心とした一部外国企業の国有化が実施されている。反新自由主義的政策や言説をとる政権では、反米や民族主義的政策あるいは言説がみられる。本書はこれらを基に左派政権を「急進左派」と「穏健左派」へと分類している。

CONTENTS

序章 ラテンアメリカの左派政権 / 遅野井 茂雄, 宇佐見 耕一

はじめに
第1節 左派政権登場の新たな波
第2節 新たな左派政権登場の背景
第3節 左派政権の言説と政策に関する分析の視角
第4節 本書での知見:ラテンアメリカ左派政権の実態
まとめと本書の構成

はじめに
第1節 チャベス政権の誕生と政治対立の深刻化
第2節 チャベス政権誕生の背景
第3節 チャベス政権のボリバル革命
おわりに

はじめに
第1節 モラレス政権の誕生とその背景
第2節 モラレス政権の性格と権力関係
第3節 政策の実態:急進的レトリックとプラグマティズムの間
第4節 憲法制定議会の政治過程と新憲法草案
おわりに

はじめに
第1節 コレア政権成立の政治的背景:激動の10 年
第2節 分割政府の継続とポスト1979 期政党システムの崩壊:コレア政権の1年
第3節 経済・社会政策を通してみるコレア政権の位置づけ
結びにかえて

はじめに
第1節 キルチネル政権の成立とその背景
第2節 キルチネル政権の権力基盤と政策
第3節 クリスティーナ・キルチネル政権の課題
おわりに

はじめに
第1節 バチェレ政権成立の背景
第2節 バチェレ政権の政策
第3節 バチェレ政権の課題
おわりに

はじめに
第1節 ルーラ労働者党政権登場までのブラジル
第2節 ルーラ労働者党政権の社会,経済,外交政策
第3節 「社会の10 年」とルーラ労働者党政権の変化
おわりに:過去の経験を生かしつつあるブラジル

はじめに
第1節 2000 年代前半の政治経済状況
第2節 2006 年大統領選挙
第3節 成長を優先するガルシア政権
第4節 分配改善が進まない要因
おわりに

はじめに
第1節 二大政党への支持低下
第2節 第二次アリアス政権成立と新左派勢力台頭
第3節 第二次アリアス政権の社会・経済政策
第4節 2007 年自由貿易協定国民投票
おわりに

はじめに
第1節 キューバ革命体制の構造
第2節 冷戦後のキューバ経済
第3節 外交:米国との対立継続と新たな友好国との関係構築
第4節 反体制派の動き
第5節 ラウル・カストロ時代のキューバ
おわりに