タイ : 変容する民主主義のかたち
アジアを見る眼
No.95
1932年の立憲革命から60年余りのタイ現代史のなかで、様々な変革思想や民主主義思想があわられ、実践に移されようとした。その多くは軍人や政治化などのエリートが社会の「上から」移植しようとしたものであった。他方、現在の国家がかかえる問題を前に、タイはこうした「思想」によってではなく、市民生活から自ずと現れる「下から」の要求と国際政治経済という「外部から」の圧力によって自己変革を余儀なくされるだろう。
■ タイ : 変容する民主主義のかたち
■ 河森 正人 著
■ 1,540円(本体価格 1,400円)
■ 新書判
■ 195pp
■ 1997年3月
■ ISBN4258050954
■ 品切れ
CONTENTS
1 タイ現代政治への政治社会学アプローチ
タイ政治研究の流れ/平準化の物質的基盤/平準化と民主主義
2 民主化と新中間総論の再考
近代化論と民主主義/タイにおける新中間層論の端緒/現代タイにおける民主化運動の担い手/国王と参加型民主主義
1 1932年立憲革命の性格
個人・国家・民族/社会経済史からみた1932年立憲革命/「上から」の革命
2 自由主義的社会主義
プリーディーの経済計画案/プリーディーと西欧社会民主主義/プリーディーの「協同組合社会」/思想的指導者としてのプリーディー/
フェビアン社会主義/大衆小説と個人主義
3 自由主義とナショナリズム
ルワン・ウィチットワータカーンの自由主義/進歩主義/進歩主義と民族主義の矛盾/ナショナリズム下の官僚層/
戦時下の民族主義と農村/戦後におけるテクノクラートの台頭と経済自由主義/戦後におけるパトロネージの形成
4 戦後の左翼運動
戦後の社会主義運動/チット・プーミサックとアナーキズム/共産主義運動の展開
1 サリットの政治思想
「総力戦」思想/議会制民主主義批判/民主主義と人権観/ナショナリズムと「革命」/国策と仏教
2 自由主義の復権
自由主義の復権/経済自由主義のブレーン/新中間層/工業化と教育
3 アメリカ近代化論と1960年代のタイ
アメリカ近代化論とタイ/アメリカ人と民主主義の誤算/若者とアメリカ文化
4 共産主義運動と学生運動
共産主義の浸透/政府の共産主義対策/学園の思想状況/学生運動の高まり
5 国王の「タイ式民主主義」
国王と軍部の関係/もう一つの「タイ式民主主義」
1 1973年学生革命と国王の「タイ式民主主義」
1973年学生革命/プミポン国王の裁定/国王の「タイ式民主主義」の優位性
2 社会民主主義の復権
政党の社会主義への転回/タンマ型社会主義
3 共産主義運動
学生運動の高揚/血の水曜日事件/学生運動の共産党への接近/森での生活/タイ共産党の硬直性/アナーキズム
4 陸軍内の改革思想
プラサート・サップスントーンの「変革思想」/チャワリット元陸軍司令官と民主軍人段/チャワリットの四段階民主化論/「青年将校団」
5 軍部型「タイ式民主主義」の復活
1990年代初期における対立の構図/1991年2月クーデタ/議会独裁批判/「青年将校団」批判
1 五月流血事件
スチンダーの首相就任/五月流血事件/国王の「タイ式民主主義」の再現/チャムロン元バンコク知事の対応/チャワリット元陸軍司令官の対応
2 民主化運動の担い手
経済発展と民主化/農民団体/教員団体/学生運動/労働運動/医師団体/民主化要求団体/新興資本家
3 参加型民主主義の萌芽
学者の市民社会論/市民社会形成をめぐる2つの思想/バンコクの市民運動/地方の市民運動/5カ年計画作成への市民参加
4 立憲主義の試み
立憲主義/チュワン政権下の憲法論議/バンハーン政権下の憲法論議/市民参加による憲法草案作成