IDEスクエア
世界を見る眼
拡大する国際リサイクル資源貿易
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049584
2010年2月
この記事は2010年2月23日にデイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」でオンエアされた『拡大する国際リサイクル資源貿易』(小島道一研究員出演)の内容です。
今、日本から鉄スクラップや古紙などのリサイクル資源が輸出されています。そして、そのほとんどが向かうのは、中国など成長著しい途上国です。増え続ける資源需要と、日本経済が受ける影響とは何なのか、解説していただきます。
最近、リサイクル資源の輸出が増加しているそうですね。
はい。2008年秋の経済危機直後には、古紙や鉄スクラップなどの輸出が大きく落ち込んだのですが、2009年春から回復基調に入り、2009年全体では、鉄スクラップが940万トン、古紙が491万トンと、過去最高の輸出量を記録しています。廃プラは、150万トン程度でここ3年推移しています。
なぜ、輸出が拡大しているのでしょうか?
リサイクル資源の需要側の要因としては、主な輸出先である中国の経済が好調なことがあげられます。経済危機前には、日本から中国に輸出されたリサイクル資源が加工され、再び製品となって海外に輸出されていました。たとえば、日本から輸出された廃ペットボトルは、ベットや枕、人形などの中綿となって海外市場に輸出されていました。リーマンショック以降、中国から欧米向けの輸出が減り、リサイクル資源の需要も減退していましたが、中国国内の成長が維持されていること、また、欧米向けの輸出も回復してきており、資源需要を満たすためにリサイクル資源の輸入が増えています。
輸入された廃ペットボトルから製造された綿。
中国広東省、2007年1月撮影
一方、供給側の要因としては、日本国内の景気低迷による生産の縮小があげられます。日本国内で十分な需要がない場合や、値段の面で輸出のほうが利益につながる場合が少なくないと考えられます。
経済全体の動きが、リサイクル資源の貿易にも大きく影響を与えているのですね。
はい。環境経済学では、原料や製品などの取引や流通を動脈経済、リサイクル資源の取引や流通を静脈経済と呼んでいます。動脈経済でのグローバル化は、静脈経済にも大きな影響を与えています。動脈経済での製品の変化や原材料の変化が、リサイクルに与える影響も少なくなりません。
ブラウン管ガラスを製造する炉に投入される
廃ブラウン管ガラス。
マレーシア、2010年1月撮影
例えば、テレビです。テレビは、ブラウン管テレビから液晶テレビなどブラウン管を使わないテレビに変化してきています。ブラウン管テレビのガラスは、鉛を含有しており、ほとんどが、ブラウン管ガラスにリサイクルされてきました。日本で、家電リサイクル法にのっとり、回収されてきたブラウン管ガラスも、2005年頃まで国内のブラウン管ガラス工場で再度ブラウン管ガラスに生まれ変わっていました。しかし、日本ではブラウン管テレビ、ブラウン管ガラスが製造されなくなり、今はマレーシアのブラウン管ガラス工場向けに輸出されています。
テレビは、液晶などの薄型テレビのシェアが増えていますよね。また、日本では、2011年のテレビ放送の地デジ化もありますし、この1、2年でブラウン管テレビが液晶テレビなどに大量に置き換わることになると思いますが、大丈夫なのでしょうか。
日本ではここ2年で大量にブラウン管テレビが廃棄されると予想されています。また、中国でも、ブラウン管テレビが昨年8月ごろから大量に家電リサイクル工場に集まってきています。景気刺激のための買い替え政策で、使用済みのテレビなどの家電をリサイクルにまわすと、新品の価格を10%割引するという政策がはじまっています。政府から販売店に補助金が出ています。この政策の影響で、ブラウン管テレビが大量にリサイクル工場にまわってきています。
家電リサイクル工場に運び込まれた廃家電。
中国山東省、2009年12月撮影
タイやマレーシアでも家電リサイクルの制度構築の検討が進んでおり、今後もリサイクルに回ってくる量が増えると予想されます。
一方、ブラウン管ガラスの生産が世界的に縮小してきています。現在、ブラウン管ガラスを製造している国は、韓国、中国、マレーシア、インドなどに限られてきており、これらの国に供給を続けられるかどうかが、ブラウン管ガラスのリサイクルにとっては重要となっています。長期的には、さらにブラン管ガラスの生産が縮小すると考えられますので、他の処理・処分の方法を考えざるを得ないと思います。
グローバリゼーションのなかで生産拠点が移動し、また、製品の変化の影響で、リサイクル資源の流れも変わってくるのですね。日本からはリサイクル資源が輸出というかたちで、流出してばかりしているのでしょうか。輸入されるものはないのですか。
アルミニウムスクラップや貴金属スクラップの輸入は、輸出を上回っています。
中国へ輸出される予定の金属スクラップ。
大阪府、2009年11月撮影
日本の非鉄金属製錬産業は、鉱物からの非鉄金属を取り出すだけでなく、スクラップをもとに、金や銀、レアメタルを取り出す技術を持っています。他のアジア諸国に比べても比較優位があります。金属によっては、まだリサイクル技術が確立できていないものもありますが、現在、技術開発が進められています。技術が確立できれば、海外でもリサイクルへの取り組みが進んできていますし、リサイクル資源を輸入し、レアメタル等の供給を安定化させることにつなげられると考えられます。
日本も輸入により資源を確保している面もあるのですね。国際リサイクルが日本経済に与える影響はどのように考えれば良いでしょうか。
輸出が多くなれば、国内のリサイクル業者が原料不足に陥り、廃業になるなどの問題が発生する場合もあります。また、海外の需要が減少すると日本のリサイクルシステムが立ちゆかなくなる可能性があります。国内業者を守るために輸出を抑制すべきだとの意見もあります。
その一方で、リサイクル資源の輸出入により、国内外のリサイクル資源の需給の調整が行われている側面もありますし、貴金属スクラップの例のように、日本が競争力を維持しているリサイクル産業もあります。国内での資源の回収をさらに進める一方、レアメタルなどのリサイクル技術の開発などにつとめ、リサイクル産業の競争力の向上をはかり、国際競争力をつけていくことが重要です。