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開催報告
国際シンポジウム「サステナビリティと企業の社会的責任:SDGsを現実にするポスト(ウィズ)コロナの10年に向けて」
アジア経済研究所では、例年、世界銀行、朝日新聞と共催で国際シンポジウムを開催しています。2019年度と2020年度はコロナ禍のためやむなく中止となりましたが、今年はオンライン形式にて2022年1月27日(木)に開催しました。
シンポジウムの概要
開催日時:2022年1月27日(木)9:30~12:00
会場:オンライン(Zoomビデオウェビナー)
主催:ジェトロ・アジア経済研究所、世界銀行、朝日新聞
後援:日本経済団体連合会
プログラム
時間 |
講演内容・講師 |
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9:30~9:35 |
開会挨拶
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9:35~9:45 |
趣旨説明
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9:45~10:15 |
基調講演1
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10:15~10:45 |
基調講演2
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10:45~10:55 |
休憩 |
10:55~11:45 |
パネル・ディスカッション
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11:45~11:55 |
サステナビリティと企業の社会的責任:ビジネスと人権を中心に
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11:55~12:00 |
閉会挨拶
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趣旨説明:山田美和(アジア経済研究所 法・制度研究グループ長)
コロナ禍によって社会の様々な課題が浮き彫りになりSDGsの重要性が増す中、企業の社会的責任を求める声が高まっている。我々にはサステナブルな世界を実現するための目標としてSDGsがある。企業はSDGs達成のためには不可欠のパートナーであり、企業が果たすべき役割のベースはビジネスと人権に関する国連指導原則に基づく人権尊重責任である。世界各国で人権尊重のための様々な政策が策定されている中、企業は自国の事業活動のみならず、グローバルな貿易や投資でも人権への配慮が不可欠である。このような前提のもと、シンポジウムでは以下の諸点について議論する。
- SDGsの進捗とコロナ禍による打撃はどのようなものか。
- SDGsを現実のものとするために、指導原則がいかなるツールとなるのか。
- ビジネスと人権に関する企業の取り組みと課題とはどのようなもので、サステナビリティを導く政策とはどのようなものか。
基調講演1:ハイシャン・フー(世界銀行 開発データ局長)
世界銀行が発行するSDGsアトラスで、SDGsの達成状況を確認することができる。アトラスの2020年版は、日本語にも翻訳されている。最新のデータ分析によると、コロナ禍により、これまで進展してきた目標が逆戻りしていることが分かる。例えば、コロナ禍により保健システムの脆弱性が高まり、途上国の医療従事者数の不足が深刻になっている。また、貧困削減の目標についても、2030年までに貧困率を3%に減らすことは困難との予測が出ている。教育については、特にサブサハラ以南アフリカにおいて、50%以上が学習貧困の状態である。この他にも、エネルギーへのアクセスなどでも先進国と途上国の格差が顕著である。
基調講演2:アニタ・ラマサストリ(ビジネスと人権に関する国連ワーキンググループメンバー、ワシントン大学教授)
2011年に採択されたビジネスと人権に関する国連指導原則は、人権を尊重する責任あるビジネス行動を推進していくための、政府、企業、市民社会の共通のフレームワークである。政府には人々を人権侵害から保護する義務があり、企業は人権を尊重する責任がある。そして、国および企業は、人権侵害が発生した時には、救済へのアクセスを提供しなければならない。日本は「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」を策定したが、NAPと現実の企業の取り組みの間にはまだ相当の乖離がある。
2030年のSDGs達成に向けて取り組みを加速する必要がある。海外の取引先やマーケットでは、人権デュー・ディリジェンスを義務とする規制にシフトしつつあり、日本企業も新たな期待に応える必要があるだろう。国連WGでは次の10年に向けたロードマップを作成した。政府は企業に人権デュー・ディリジェンスを求めるだけでなく、企業を支援し、政府自体も公共調達、輸出信用、貿易政策において人権尊重を促す必要がある。コロナ禍では、すぐさま取引を停止したり従業員を解雇したりする企業があったが、指導原則にもとづく人権デュー・ディリジェンスを導入している企業は、人権への負の影響を特定し防ぐための賢い選択ができる。企業やビジネス団体に問われていることは、人権を尊重するための積極的な行動を今すぐに取ることである。それには政府の役割が重要である。
パネル・ディスカッション
(ポイント)
- 株主至上主義からステークホルダー資本主義への転換が謳われるようになり、投資家はESG視点やサステナビリティ視点を入れ込んだ企業評価を行っている。ビジネスと人権に関わるテーマは世界の投資家の間で従来以上に重要になっており、日本企業はその点をもっと認識すべき。(銭谷氏)
- 人権課題に取り組むことが、リスク低減と機会確保の両方に資するし、企業価値の向上につながる。(池田氏)
- 世界銀行は、社会と環境への新しい配慮政策として「環境・社会フレームワーク(ESF)」を打ち出し、いまではこれがサステナブル投資におけるひとつのコーナーストーンになっている。(カルロス氏)
- 投資家は開示資料ベースで評価を行うため、開示は非常に重要になるが、企業サイドは開示をどこまで行うべきかで悩んでいる。乱立する情報開示フレームワークが「アルファベット・スープ」とも呼ばれる中、世界でフレームワークを統一する動きも出ている。(銭谷氏)
- 「儲けるためであっても、ここまではやらない」というラインを明示することが一種の人権デュー・ディリジェンスになる。投資家は、そのようなラインを明示している企業には人権リスクが低いと評価することができ、このような企業の企業価値は向上する。(池田氏)
- 重要なステークホルダーには従業員が含まれる。ここには、自社の働き手だけではなく、サプライチェーンや取引先の従業員も含まれるため、取引先ともエンゲージメントが必要。人権侵害が疑われる場合、実効的なグリーバンス・メカニズムが必要になるが、この点については、まだ日本企業に課題が多い。(長谷川氏)
- 意味のあるステークホルダー・エンゲージメントのためには、株主や権利者などをすべて参加させてコンサルテーションを行い、自由なエンゲージメントを確保することが重要。外部の専門家の協力が必要な時もあるし、合意形成には政府の役割も重要になる。(カルロス氏)
- 紛争影響地でのビジネスでは、通常行っているデュー・ディリジェンス以上の取り組みが必要。取引先が紛争に関わっている人間かもしれないので、紛争について分析し、自社の経済活動、取引相手が紛争に関わっているのかを特定しなければならない。(アニタ氏)
- 各国が求める人権デュー・ディリジェンスの中身は一律ではなく、内容の変更も頻繁に行われるため、企業の法令順守負担が増している。政府は、情報収集の強化や政府間交渉を通じて、企業の予見可能性を高める必要がある。(長谷川氏)
- ルールを順守することができるキャパシティの構築が必要。ルールを具体的なアクションに落とし込める能力を開発する必要がある。(カルロス氏)
- これからは対話が重要。対話を通じて人権について同じビジョンを共有することができる。人権はオプションではなく必須であり、政府はそのために企業を支援しなければならない。NAPは終わりではなく始まりである。日本は、国内、地域、そしてグローバルなレベルでリーダーシップを発揮できる。(アニタ氏)
一般社団法人 日本経済団体連合会 人権を尊重する経営のためのハンドブック
講演:柏原恭子(経済産業省 ビジネス・人権政策統括調整官)
経済産業省では、2021年に「ビジネス・人権政策調整室」を設置し、産業界に対する啓発活動や諸外国の政策動向に関する情報収集を行っている。国際スタンダードに合致した人への取り組みを行うためのツールや政策策定を進め、企業の予見可能性を高めるための活動を推進していく。
※解説はすべて講演時点のものです。
お問い合わせ先
ジェトロ・アジア経済研究所 研究推進部研究イベント課
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