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開催報告

国際シンポジウム

東アジアの国際生産ネットワーク:モノの貿易から「価値」の貿易へ

基調講演
アレハンドロ・ハラ氏(世界貿易機関(WTO)事務次長)

アレハンドロ・ハラ氏(世界貿易機関(WTO)事務次長)

アレハンドロ・ハラ氏(世界貿易機関(WTO)事務次長)

IDE-JETROとWTOの共同研究の成果を皆様にお話することができ、大変うれしく思う。

このたびの成果は日本の技術(スキル)を取り入れたことにより、非常に美しくかつエレガントに仕上げることができた。この共同研究はまさに国際価値連鎖(Global Value Chains: GVCs)そのものであり、関係各位に感謝を申し上げたい。

WTOの優先的課題の一つは、現在、世界的に進みつつある生産工程の細分化(フラグメンテーション)が国際貿易に与える影響を理解することにある。政策当局者は常に適切な統計データを手にしなければならないが、そのためには、今回の出版された本の核心である付加価値貿易(Trade in Value-added)を計測する必要がある。2008年にWTOがこの計測を行うことを公表したとき、IDE-JETROが真先に名乗りを挙げ、その後OECDや世界銀行、欧州委員会が加わり、今日に至っている。

この本は、過去20年の間に国間の分業構造が大きく変化したことを示している。各国はかつて最終製品に特化する傾向があった。しかし、今ではむしろ仕事(あるいは生産工程)に特化するようになった。すなわち、生産工程が一国内で完結せずに、中間財(部品など最終製品を構成する財)と最終製品が異なる国で生産され、国境を越えてそれらが取引されるようになったのである。生産工程間における国際的な供給(または仕事)の連鎖は国際価値連鎖(GVCs)と呼ばれている。

現代の国際貿易はこのような国際的な生産ネットワークの上に成り立っているが、この本の中でも示されているように、それは決して「ゼロサムゲーム」ではない。近年を振り返ると、日本、米国、そしてヨーロッパの先進諸国は、熟練を必要としない仕事を外注し、研究開発やマーケティング活動に集中するようになった。一方、途上国は熟練を必要としない仕事を受け入れることで、生産能力の拡大という利益を享受した。その結果、アジアの途上国は日本に急速にキャッチアップし、また米国にとっても主要な取引相手となった。これは、日本経済の重要性が低下したことを意味しているのではなく、仕事の再分配がアジア地域の中で生じたことを示している。こうした仕事の貿易(Trade in tasks)はゼロサムゲームとはほど遠く、その地域において互いに「win-win」の関係になれることを示唆している。各国の政策当局者やアナリストはこの点を十分に理解する必要がある。

最後に、アジア諸国が「世界の工場」として急成長した要因を強調することによってこの講演を締めくくりたい。第1に、アジア諸国が貿易や外国投資に対して開放政策を採ったことが挙げられる。「脱グローバル化」を唱える人々が言うような自給自足経済や孤立主義は持続可能な選択肢ではない。第2は、国家の役割である。この本でも紹介されているように、アジア諸国の政府は、関税の低減、税関手続きの簡素化、そして輸送インフラの整備などを行うことによって、貿易の促進を図った。グローバル化の利益を得るために、政府と産業界が互いに協力することが重要である。また、製品製造、ビジネスサービス、そして国際的なロジスティクスは互いに密接な関係があり、国際的な生産ネットワークは製造業だけでなくサービス業にも存在することを指摘しておく。

報告1「国際産業連関分析から見た東アジアのサプライチェーン:その歴史的展開と展望」
猪俣哲史(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター 国際産業連関分析研究グループ長)

猪俣 哲史(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター国際産業連関分析研究グループ長)

猪俣哲史(ジェトロ・アジア経済研究所 開発研究センター 国際産業連関分析研究グループ長)

配布資料(1.18MB)

WTOとIDE-JETROは数年間にわたりこのトピックについて共同研究を続けてきた。IDE-JETROは、自ら作成した国際産業連関表を利用して、東アジアにおける生産工程の地理的細分化が国際貿易に与える影響について分析を行った。ここではその要旨を報告する。分析の詳細については報告者を参照されたい。

過去20年間(1985~2005年)を振り返ると、東アジア諸国と米国は時代の流れとともに経済的相互依存を深めてきた。1985年時点では、各国間の相互依存度は弱かったものの、1995年になると日本を中心にその度合いが強まり、2005年には、今度は中国を中心にリンケージがさらに強まっている。

次に、東アジアにおける中間財の供給ネットワークの発展プロセスを俯瞰する。1985年では、主として日本が資源国であるマレーシアやインドネシアからの原材料輸入に依存している構造が見られたが、域内の中間財貿易はそれほど活発ではなかった。1990年になると、日本企業の海外進出が進んだことによって、日本から韓国、台湾、タイへの中間財輸出が増加した。域内貿易は活発化し、そのネットワークは大きく広がった。さらに、1995年には米国がこのネットワークに参入し、日本の中間財はマレーシアとシンガポールでの生産工程を経由して米国へ輸出されるようになった。2000年には、中国とフィリピンが参入し、2005年になると、東アジア諸国で生産された高度な中間財の多くが中国へ輸出され、さらに最終製品へと加工されて欧米市場に輸出されるという、いわゆる「三極貿易」構造が出来上がった。

米中2国間の貿易に注目したとき、米国の多額の対中貿易赤字がしばしば問題視される。確かに、従来の貿易統計によれば、そうした傾向が表れる。しかし、前述したように、中国は他国から技術的に洗練された中間財を大量に輸入し、それを最終製品に加工して輸出している。すなわち、輸出される製品に含まれる中国の貢献部分(付加価値)は比較的小さく、付加価値ベースで貿易額を計算すれば、中国の輸出額は大きく縮小する可能性がある。この付加価値貿易を計算するための強力なツールとして、我々アジア経済研究所が作成してきた国際産業連関表がある。これを使って米国の対中貿易赤字を計算すると、赤字額が従来のものに比べておよそ30%以上も減少することになる。

報告2 「国際生産ネットワークの発展と貿易への影響:付加価値貿易の計測に向けて」
クリストフ・ ディギャン氏(WTO 経済調査統計部上級統計官)

クリストフ・ ディギャン氏(WTO 経済調査統計部上級統計官)

クリストフ・ ディギャン氏(WTO 経済調査統計部上級統計官)

配布資料(570KB)

生産工程の国際的な分業化はいくつかの要因によって生じたものである。その発端は先進国の消費パターンの変化(大量生産・大量消費)にあるが、その他の要因として、関税率の低減、インフラ開発と技術進歩、輸出加工区の増加、アウトソーシング/オフショアや海外直接投資(FDI)の拡大などがある。これらの要因が相まって国家間の分業が進み、いわゆる「仕事の貿易(Trade in tasks)」という概念が使われるようになった。「仕事の貿易」に見られる傾向として、第1に、中間財貿易が支配的であること、第2に、企業内貿易が発達していること、そして第3に、加工貿易が増加していることが挙げられる。この本で紹介される「付加価値貿易」とは、このような国際貿易のトレンドに即した貿易概念の一つである。

アジアは中間財貿易が盛んに行われている地域であり、その特徴あるいはトレンドをまとめると以下のようになる。第1に、世界の中間財貿易に占めるアジアのシェアは1990年代末から増大し、2010年には37%を占めている。第2に、アジアの中間財貿易はその大半がアジア域内で行われている。第3に、中間財貿易についてアジアは輸入超過となっている。第4に、日本がその典型例だが、アジア諸国が扱う中間財が高度化(あるいは先進化)しつつある。そして、第5に、アジアの中間財貿易はコンポーネントの数が減少し集中する傾向にある。以上を鑑みると、アジアは世界の工場であり、そのサプライチェーンはアジア域内の市場活性化につながっているといえる。

中間財はいくつかの生産工程を経て最終製品となり、ある国から輸出される。そのときに問題になるのが「原産国」の概念である。例えば、旅客機Boeing 787はMade in USAだが、その旅客機に内在するコンテンツはさまざまな国で生産されている。これを米国製として良いのだろうか。このように、生産チェーンの最後になった国の名前を原産国として表示することはミスリーディングの可能性がある。なぜなら、工業製品は一国内で生産が完結することはほとんどなく、多くの場合、Made in the Worldとなっているからである。

WTOはIDE-JETROと共同で、新しい貿易概念である「付加価値貿易」の計測を行ってきたが、これには以下に示すような特徴あるいはメリットがある。第1に、国際貿易に対するある国の貢献度をより正確に評価することができること。第2に、経済の相互依存関係や保護主義がもたらす負の副産物に光があたること。例えば、Aという国がBoeingに対してアンチダンピング税を導入した場合、Boeingのサプライチェーンに参加しているA国の企業にもダメージが及ぶかもしれない。GVCsは、保護政策が裏目にでる可能性があることを示唆している。第3に、付加価値貿易の計測によって、貿易におけるサービス部門の貢献度を評価することができる点である。従来の貿易統計ではこれが評価できない。そして最後に、猪俣氏の報告でも示されたが、2国間または2地域間のより現実的な貿易収支、すなわち、付加価値ベースの貿易収支を計算することができる点である。

付加価値貿易は従来の貿易統計を代替するものではなく、補完するものである。これらを活用することで、現代の国際貿易をより良く理解することができると信じている。

パネルディスカッション

白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)

白石 隆
(ジェトロ・アジア経済研究所 所長)
モデレーター
白石 隆(ジェトロ・アジア経済研究所所長)


パネリスト
ユベール・エスカット氏(WTO主席統計官)
中富道隆氏(経済産業省通商政策局特別通商交渉官 / 経済産業研究所(RIETI)上席研究員)
小島明氏(日本経済研究センター研究顧問)
ガネーシャン・ヴィグナラージャ氏(アジア開発銀行(ADB)主任調査研究員)
アンドリュー・ ワイコフ氏(経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長)

ユベール・エスカット氏(WTO 主席統計官)

ユベール・エスカット氏(WTO 主席統計官)

配布資料(1.49MB)

付加価値貿易の計測を通じてさまざまな事実が明らかとなったが、それを大雑把にまとめると、以下のようになる。まず第1に、猪俣氏とディギャン氏の報告にもあったように、 2国間の貿易収支の赤字額または黒字額は、付加価値ベースで計ると減少する。第2に、従来の貿易統計は中間財やサービスの取引を複数カウントしているため、付加価値ベースで計ると域内の貿易額は減少する。第3に、ある国の産業競争力について新しい見方ができる。例えば、ある国の製造業に対する競争力を考えた場合、産業連関表を使うことによって、製造業だけでなく、関連する他産業(サービス業など)の役割にも光があたる。それよって産業競争力を支えるその国の産業構造が見えてくるのである。第4に、ある産業の輸出拡大がその産業だけでなく、他産業の雇用をどの程度増加させるのかという点についても分析することができる。

政策担当者やアナリストにとって、第3と4の事実はきわめて重要な意味を持つ。つまり、国内の産業競争力は他国からの輸入に依存している場合、国内保護主義的な貿易政策は逆にその国の産業競争力を弱める可能性がある。政策担当者は国内産業だけでなく、国家間の経済的な相互依存関係を考慮した上で、政策決定をする必要がある。


中富道隆氏(経済産業省通商政策局特別通商交渉官 / 経済産業研究所(RIETI)上席研究員)

中富道隆氏(経済産業省通商政策局特別通商交渉官 / 経済産業研究所(RIETI)上席研究員)

配布資料(628KB)

今回のWTOとIDE-JETROの連携研究のレポートは非常に正確な分析であり、アジアの経済・貿易発展の歴史や日本が果たした役割を理解するために極めて貴重な読み物である。また、相当の読者からMade in the Worldの主張への賛同が得られており、今後はTrade in Value-addedの分析手法が定着しつつあると考えている。

このレポートのKey-Findingsと言えば、まず、保護主義は意味なし、自由貿易のシステムが必要だというメッセージが示されている。次に、サプライチェーンの重要性を示唆するものである。また、南南貿易の実態や中間財貿易の増大を明確に示した貴重なレポートである。最後にアジアの経済発展の経緯が示され、この経験は他の地域の経済発展を考える際の参考資料になり得る。

このレポートの通商政策へのインプリケーションとして、ASEANが提案したコネクティビティの発想と同様である。つまり、今後では制度作り、インフラ整備、人的交流・人材育成と言ったコネクティビティを強化する必要がある。現在、日本は13のFTAを持ち、オーストラリア及び韓国と交渉中で、広域なFTAとしてASEAN+3、+6が重要である。またEUとのFTAが検討中、コロンビアとのFTAは研究中である。ASEAN+3、+6は今後どう展開するかは、日本にとって、重要なインプリケーションを持つ。TPPについて日本政府はどのようなポジションをとるかも極めて重要な課題として残っている。日本は今後FTA及びWTOの双方を進め、日本の国益を守る必要がある。

次に、国際金融システムと国際貿易システムとの関係を考える際に、このWTOとIDE-JETROのレポートは重要な意味を持つ。特に金融危機が起き、市場が縮小し、サプライチェーンが分断され、経済が打撃を受けることについて、このレポートははっきり示している。また、金融危機の貿易への影響が長引いた場合、果たして、WTOあるいは世界貿易システムにこのような実態に耐えるだけ力はあるかどうかが問題である。

最後に政策面で何かができるかについて考える必要がある。まず、このレポートは保護主義の危険性やWTO・FTAの重要性を理解してもらう材料として期待できる。次に政策を考える際に、グローバルなサプライチェーンの維持・強化・発展の必要性を充分に理解するのに役立つ。また、歴史的に見れば、一国の競争力の源泉がシフトし、それをつくるシステムが必要である。これは日本のみではなく、ほかのアジアの国も同様な問題に直面している。最後に金融危機の際に金融システムはどのように変質したかを学ぶことにより、貿易システムについても変なことが起こらないように研究する必要がある。93年にウルグアイ・ラウンドが終わったときから18年間WTOでは大きな成果が見られず、今後はビジネスのニーズや産業界の声を聞きながらどうやって国際貿易システムを作っていくべきかを一緒に考える必要がある。


小島明氏(日本経済研究センター研究顧問)

小島明氏(日本経済研究センター研究顧問)

配布資料(1.45MB)

本日は日本の立場、日本の政策のあり方及び企業経営の問題に軸をおいて話す。今、日本の問題は企業の関心と政策のスタンスは非常にずれているところにある。GVCsの大きな流れにおいて、日本企業は外のチェーンに乗りだす傾向が強い。逆にチェーンが国内で伸びてこない状況である。立地競争力の観点から、現在は法人税、雇用制度、為替など企業の経営判断の諸要素はどんどん不利な格好で動いているため、バリューチェーンにおいて価値の高いプロセスを外に移すという空洞化が懸念されている。企業にとっては合理的経営判断だが、国民経済の運営とのギャップが広がりつつある。これは日本経済の問題である。

リカードによる競争優位の理論は冷戦終了前の時代の国際貿易を説明する際にずっと正しかった。しかし、その後のFDIに代表される生産要素の自由移動により、競争優位は与えられるものではなくなり、政策によって生み出しうるものとなる。結果的に世界中に競争優位を生み出す制度の競争が冷戦後から展開してきた。その後は世界貿易の仕組みはGVCsの展開と重なって劇的に変化した。現在の米中貿易摩擦と比べると、80年代の日米貿易摩擦のほうが遙かに厳しかった。当時はMade in Japan by Japaneseと Made in USA by Americanという二つの概念でぶつかったのである。

WTOはポスト冷戦時代で生まれた国際貿易機関の第一号である。急激に変化してきた国際貿易における役割が当然ながら、以前のGATTと異なるはずである。例えば、今は中国が受け入れたFDIは1兆8千6百億ドルに達し、これはMade in China by foreign companiesという直接投資によってもたらした国際貿易の現状を表している。従って、従来の貿易統計に加えて、付加価値貿易という議論をするべきで、寧ろ遅すぎたという感じがする。

90年代から世界は立地競争力を求めるための制度大競争の時代に突入し、外からの刺激、生産要素を受け入れて、次々と新興経済が台頭してきた。こうした流れの中で、日本の政策のスタンスが問われる。例えば日本のFTAやEPAの問題についても貿易機会の確保に議論が集中して、海外から有用な資源と生産要素を取り入れ、日本の経済・社会のダイナミクスをもう一回盛り返すという発想はなかなかない。OECD諸国中で海外からの進出企業の受け入れ比率を見ると日本は非常に低い。GVCsにおける日本の動きは外向きである。現在は震災の影響、電力供給の問題及び為替などいろんな要因があり、日本企業の海外移転は加速している。日本の問題は政策と企業経営、つまり企業のバランスシートと国民経済のバランスシートに調和せず、グローバル化の時代ではばらけ始めたのである。結果的に元気ある企業は外に出て、収益をあげ、うまれた付加価値と雇用は海外に落ちる。これは中国にとって日本からの大変な貢献であるが、日本にとって今後どう対応するかは真剣に考える必要がある。

現在は貿易が貿易を呼ぶ時代ではなく、投資が貿易を呼ぶのである。投資が貿易構造、分業システムを変える。別の見方でいうとGVCsの展開である。時代の大きなうねりの変化に対し、日本政府はもう一回見つめ直す必要ある。

最後に、世界投資報告により、新しい貿易の展開の仕方として、非出資型国際生産ネットワークが期待される。資本の所有権は移動せずにグローバルな経済活動が展開される。このような新たな動きに対し、WTOなどはどうやって統計に反映させるかは課題である。


ガネーシャン・ヴィグナラージャ氏(アジア開発銀行(ADB) 主任調査研究員)

ガネーシャン・ヴィグナラージャ氏(アジア開発銀行(ADB) 主任調査研究員)

配布資料(146KB)

今回のWTOとIDE-JETROのレポートの貢献をまとめると以下の三点となる。まず、国際貿易システムを見る新しい側面を切り開いたと思う。また、貿易収支における二重計算の問題を付加価値貿易という概念でクリアした点である。更に、政策面から、国際競争力に対する新たな見方を提示してくれた点にある。今後の展開も非常に期待されるが、たくさんの作業が残っていると思う。

コメントとして以下の通りである。

  1. 今の世界は新しい時代を迎えようとしている。アジアはサプライショックに無関係で居られない時代でもある。これから、サプライショックがアジアに届くのではないかと言われる。ショックは貿易のチャンネルを通して波及するため、政策策定者や企業経営者にとって、これから来る危機に備えるため、GVCsに対する理解を深める必要がある。
  2. 貿易不均衡の取り直しについて、南南貿易が重要であり、次の経済成長の道の一つになる。これから、アジア域内の需要は注目されるであろう。インド・中国、中国・アジアの貿易もますます重要である。これに対し、実際にインフラ整備のギャップはまだ大きいため、3兆ドルのニーズがあると言われる。FTAなどアジアでの広がりは深い統合を意味し、今後も包括的なものになりつつある。
  3. FTAはアジアの生産ネットワークに貢献してきた。しかし、実際のFTAの利用に関する調査によると、企業の30%しかFTAを利用していないという。ただし、昔より利用率が高くなったのも事実である。また、利用者は大企業や多国籍企業が主流であり、中小企業はまだまだ利用しにくい状況である。原産地証明、非関税障壁など特に情報不足の問題があり、FTAの利用は不足している。障壁について企業レベルでの研究が必要である。
  4. 地域全体のFTAについて、ASEAN+3、ASEAN+6などがあり、また、TPPも平行的に進行している。ASEANの合意内容はモノ、サービス及び投資が核となるが、TPPでは競争力に関する政策や政府調達などを含み、より包括的なものになるであろう。今後10年先の貿易について、例えば、中国は果たしてTPPに入るかどうか、アジア工場はどうなるかなど、GVCsの問題と深く関わってくる。ただし、政治・経済の問題はいろいろ噛み合っているため、予測は難しい。
  5. TPPについて、我々の分析シミュレーション結果によると、日本は一番恩恵を受けることがわかる。中期的に日本のGDPの1%に相当する利益が得られる。ルールベースの貿易と投資の自由化により、日本企業は得するが、日本国内において農業みたいに損する分野が出るかもしれないが、これらの分野では徐々に自由化を進めることも考えられる。逆に日本はTPPに加入しない場合、経済は長期低迷の時代に入る可能性が示されている。

アンドリュー・ワイコフ氏(経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長)

アンドリュー・ワイコフ氏(経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長)

配布資料(501KB)

このWTOとIDE-JETROのレポートは非常にすばらしく、貿易政策及び政治的に大きな意味を持つ報告である。

レポートにより分かったのは、バリューチェーンはアジアでは高い水準で統合が進んでいる。また中国の加工貿易の重要性が明確に示された。更に、低賃金労働者による優位のみで中国経済が潤っているわけではなく、規模の経済や中間財貿易を通した国際市場へのアクセス能力の向上も大きな要因である。

この報告により、二国間の貿易収支はTrade in Value-addedで計る際に、従来の貿易収支とかなり異なることが示された。貿易に関する今後の見通しとして、各国は国間でのフラグメンテーションにより相互依存が深まるであろう。ネットワークはより地域レベルで密接になっていく。また、保護主義は隣国に不利益を与えるのみではなく、自国も損することが最近の研究で分かっている。

今回のレポートは非常によい出発点となり、これからやるべきことはたくさんある。追加的な作業として、例えば、国数を増やすこと、企業の資本構成を考えること等が挙げられる。また、資本のフローを見る際に、有形と無形の両方を見る必要がある。OECDでは50各国の産業連関表の標準化作業を進めている。是非、今後の作業に加えてもらいたい。

また、国際的な企業内貿易について、本社と子会社の間で財のみではなく、サービスについて頻繁にやり取りが起きている。更に、知的財産のやり取りというフローもある。子会社の利益は投資先に留まるか、本国に還流するかと言った統計も重要である。特にサービス貿易の把握は重要であるが、統計的に不足しているのが現状である。

更に、資本財サービスについて、有形財産への投資のほか、無形財産への投資もある。これらは如何に付加価値貿易に反映させるかは今後の課題である。つまり、付加価値を生み出すかなりの部分は無形財産を含む資本の貢献である。例えば、商標やライセンスとGDPの関係をみると、先進国と途上国のグループははっきり分けられる。また、Apple社のipodの例で言えば、収益のかなりの部分はitunesから来るのである。itunesがあるからipodを買う人もいるので、付加価値における無形財産の貢献は無視できない。特に今後の貿易において、どれほど無形財産が取引されるかを注目する必要がある。

結論として、今後はGVCsの展開がますます複雑になるであろう。また中国は更に高度な垂直統合を進め、EUやアメリカに近づくであろう。付加価値貿易の計測について、無形財産の貢献は明確でないため、これもGVCsとRTAの関係が見えない一因であるかもしれない。最後に強調すべきは、無形財産は成長戦略を進める上で今後は極めて重要だと考える。