はじめに

劉昆財政部長は人民日報2022年2月18日に「積極的財政政策の機能を不断に高める」と題した署名論文を寄稿した。全人代を前に、財政部としての財政政策への考え方を明らかにする目的と考えられる。本稿では、本論文の概要を紹介する。なお、重要な部分は下線で示している。

2022年末に開催された中央経済工作会議は、2021年の経済政策を総括し、2022年の経済政策を手配し、「積極的財政政策は効果を高め、精確・持続可能を更に重視しなければならない」と提起した。これは、2022年の財政政策をしっかり行うために方向を明確に示し、根本的な拠り所を提供したものである。

我々は習近平総書記の重要講話と中央経済工作会議精神を真剣に学習・貫徹し、政治判断力・政治理解力・政治執行力を確実に高め、「国の大事」を胸中に抱き、新型コロナ感染症防御と経済社会の発展を統一し、積極的財政政策をしっかり実施し、周期を跨ぐ調節を強化し、「6つの安定」（雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる）、「6つの保障」（庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障）政策を引き続きしっかり実施し、卓越した成績で第20回党大会の勝利の開催を迎えなければならない。

1．「2つの擁護」¹実践の政治的高みから、マクロ経済の安定のための財政責任を担う

中央経済工作会議は、2022年の経済政策は「穏」（安定・穏健）を第一とし、安定の中で前進しなければならず、各地方・各部門はマクロ経済を安定させる責任を担わなければならないと指摘した。

財政は、国家ガバナンスの基礎・重要な支柱であり、財政部門は重要なマクロ経済管理部門であり、政治的立ち位置を確実に高め、新情勢・新任務・新要求を科学的に把握し、「周期を跨ぐ調節をしっかり行い、マクロ経済を安定させる」責任を担う姿勢を増強し、経済の持続的で健全な発展と社会の大局の安定を推進しなければならない。

2021年は、党・国家の歴史上、一里塚の意義を有する一年であった。

複雑・峻厳な内外情勢と多くのリスク・試練に直面し、習近平同志を核心とする党中央は全党・全国・各民族・人民を団結させ牽引し、鍛え上げ、奮闘・前進させ、党・国家の各事業の新しい偉大な成果獲得を推進した。

財政部門は、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹実施し、疫病防御と経済社会の発展を統一し、積極的財政政策の質・効率を高め、新たな発展の枠組構築推進の新たな歩みを踏み出し、質の高い発展で新たな成果を収めた。

2021年、全国一般公共予算収入は20.25兆元、前年比10.7％増、全国一般公共予算支出は24.63兆元、前年比0.3％増であり、末端の基本民生・賃金・運営保障等の重点分野の支出は有力な保障を得た。

周期を跨ぐ調節を強化し、経済の持続的な安定・回復を促進した。

減税・費用引下げの効果は顕著であり、年間の新規減税・費用引下げは1兆元を超えた。

政府は倹約を堅持し、民生の保障は有力・有効であった。

財政資金の直接交付メカニズムの常態化を実施し、範囲を拡大して、中央財政2.8兆元の直接交付資金の効果は引き続き高まった。

債務リスクを徐々に解消し、財政の持続可能性は顕著に増強された。

現在、世紀の疫病と百年の変局が交錯・相乗しており、外部環境は更に複雑・峻厳・不確定化傾向にある。わが国の経済発展は、需要の収縮・供給へのダメージ・予想の弱気化の三重の圧力に直面しており、財政収支の矛盾が依然として際立っている。

財政収入方面では、経済の安定・回復の態勢が不断に強固となり、財政収入の伸びのために堅実な基礎を打ち固めているが、新たな下振れ圧力が財政収入の伸びに制約を形成しており、疫病情勢の持続的変化が財政収入の伸びの不確定性を増している。

財政支出方面では、科学技術の難関攻略、農村振興、生態環境保護、基本民生等の重点支出の保障強化が必要であり、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル政策をしっかり行い、地域の協調発展等を促進するにも新規支出が必要である。

複雑な情勢と繁雑で荷が重い任務に対し、「国の大事」を胸中に抱き、闘争の技量を鍛錬し、財政資源の統一を強化しなければならない。

「二つの確立」²の決定的意義を深く理解し、不断に「四つの意識」³を増強し、「四つの自信」⁴を確固とし、「二つの擁護」を成し遂げ、党中央の経済情勢判断と政策決定・手配に思想・行動を統一させる。

困難を正視するだけでなく、自信を確固としなければならず、わが国経済が長期に好い方へ向かうというファンダメンタルズに変わりはなく、マクロ政策には手段と余地があり、マクロ経済の大基盤をしっかり安定させる基礎・条件があることを十分認識しなければならない。

同時に、転ばぬ先の杖で、歴史的に長い周期の比較分析の中から戦略的思考を進め、微細なところから事物の限界的変化を洞察し、新たな発展の枠組構築の大局の中に財政政策を置いて計画・手配・推進し、財政の改革・発展の実際行動を奮闘推進することにより新たな征途を奮闘前進しなければならない。

2．積極的財政政策が内包する要求を正確に把握する

2022年、積極的財政政策をしっかり実施するに際しては、中央の要求を深刻に理解して貫徹実施し、「効果を高め、精確・持続可能を更に重視」しなければならない。

「効果を高める」とは、財政資源を統一し、予算編成・査定・支出・業績効果の管理を強化し、業績効果の結果と予算計上の有機的なリンクを推進し、金融政策等との協調を強化し、マクロ政策の穏健・有効を確保しなければならないということである。

「精確を重視する」とは、①製造業の質の高い発展、中小・零細企業の困難緩和、科学技術イノベーションに焦点を絞り、新しい更に強力な減税・費用引下げを実施し、②財政支出構造を一層最適化し、倹約の要求を実施すると同時に、基本民生・重点分野・地方とりわけ末端への財政力保障を強化しなければならないということである。

「持続可能税を重視する」とは、①必要性と可能性を統一して財政支出を計上し、発展の中で民生を保障・改善することを堅持し、高望みをし、欲張ってはならない、②財政赤字の対GDP比率を適切に確定し、債務規模を科学的に計上し、リスクを有効に防止・解消しなければならないということである。

具体的には、以下の方面をしっかり把握しなければならない。

（1）更に強力な減税・費用引下げを実施し、市場主体の活力を増強する

市場主体に活力があってこそ、経済のエンジンに動力がある。組合せ式の一定規模の減税・費用引下げ政策をしっかり実施し、更に多くの市場主体に実際の恩恵を享受させなければならない。

中小・零細企業、個人工商事業者と製造業等の重点業種を軸に、段階的な政策を主とすることを堅持し、制度的措置と結びつけ、財政受容能力と企業支援の必要性を併せ考慮して、減税・費用引下げを強化する。

同時に、既に打ち出した各減税・費用引下げ政策をしっかりきめ細かく実施し、政策効果をしっかり評価した基礎の上に、一部の企業優遇政策が期限到来した後に接続する政策を検討して打ち出す。

（2）適切な支出の強度を維持し、支出の精確度を高める

中央経済工作会議は、「財政支出の強度を保証し、支出の進度を加速しなければならない」と指摘した。このため、財政赤字は合理的水準を維持し、財政支出の規模を拡大しなければならない。

支出構造の最適化に力を入れ、科学技術の難関攻略、生態環境保護、基本民生、地域重大戦略、現代農業、第14次5カ年計画の重大プロジェクトを重点的に支援する。

財政資金直接交付メカニズムを整備し、分配プランの届出・査定を強化し、直接交付資金の健全な監視・コントロールシステムを整備し、財政資金の規範的で効率の高い安全な使用を促進する。

（3）地方政府特別債を合理的に計上し、重点プロジェクトの建設を保障する

中央経済工作会議の「クロスシクリカル（周期を跨ぐ）とカウンターシクリカル（逆周期）のマクロ・コントロール政策を有機的に結びつけなければならない」という要求を実施し、「政府の総体としてのレバレッジ率の基本的安定を維持する」という原則に基づき、地方政府特別債の規模を確定する。

債券使用の方向を最適化し、建設中のプロジェクトの後続資金調達を重点支援する。

「資金がプロジェクトをフォローする」という原則に基づき、プロジェクトの準備を深くきめ細かく行い、使用の進度を合理的に加速し、債券資金ができるだけ速やかに実物成果量を形成することを確保し、投資に対する牽引作用を更にしっかり発揮させる。

（4）地方への中央の移転支出を増やし、末端の「基本民生・賃金・運営保障」の最低ラインをしっかり保障する

中央の地方への移転支出とりわけ一般性移転支出の規模をかなり大幅に増やし、困難地域と未発地域に傾斜させる。

財政力の下方移転を強化し、省レベル財政は主体責任を確実に担い、末端に向けて財政力を傾斜させなければならない。末端政財政は国家の重大財政・租税政策を厳格に実施し、財政管理を強化し、各種の支出計上をしっかり統一しなければならない。

財政資金直接交付メカニズムを引き続きうまく用いて、実際と結びつけて範囲を拡大し、直接交付資金の分配・交付・使用の効率を高める。

地域間の1人当たり支出の格差縮小を加速し、地域の協調発展と基本公共サービスの均等化を推進する。

（5）党・政府機関の倹約を堅持する

刻苦奮闘・勤倹節約は、わが党の優良な伝統である。引き続き重点・義務的でない支出を圧縮し、一般性支出を厳しく抑制し、「公費接待、公費海外出張、公用車購入・整備」経費の予算管理を強化し、行政運営コストの引下げに努力しなければならない。

倹約の実施情況に対する評価を強化し、支出のバルブを厳しく握り、更に多くの財政資源を捻出して、基本民生の改善と市場主体の発展支援に用いる。

（6）財政経済紀律を厳格化し、財政経済秩序を整頓する

習近平総書記は、「権力の監督制度と紀律・法執行のシステムを整備しなければならない」と指摘した。財政経済紀律を一層厳格化し、各財政経済法規と管理制度を厳格に執行し、財政経済紀律を抵触できない「高圧線」としなければならない。

財政管理を確実に強化し、収支行為を規範化し、規定に違反して事務棟・公会堂・記念館・招待所を建設し、補助金を交付し、政治業績プロジェクト・イメージ作りプロジェクトを実施してはならず、各種の脱税・課税漏れ行為を断固取り締まる。

3．財政政策の力発揮を適切に前倒しする

2022年は、社会主義現代化国家を全面建設し、第2の百年奮闘目標に向けて新たな征途を進軍する重要な一年である。我々は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、「穏」の字を第一とし、安定の中で前進を求め、財政政策の力発揮を適切に前倒して、マクロ経済の大基盤の安定に力を入れ、平穏・健全な経済環境を維持し、第20回党大会の勝利の開催を迎えなければならない。

（1）市場主体への支援を強化する

国家が打ち出した各減税・費用引下げ政策を厳格に実施し、市場主体が不満をもつ際立った問題を速やかに検討し解決する。

国有企業改革3年行動の各任務を着実に達成する。

中小・零細企業の困難緩和支援を強化し、インクルーシブファイナンスモデル区への奨励補助政策を実施し、小型・零細企業への債務保証料引下げ・奨励補助を引き続き実行し、いくらかの国家レベルの「専門的、精密で、特色ある、革新的な」「小さな巨人」企業への支援を新たに増やし、地方が中小企業の困難緩和資金を計上することを奨励する。

雇用を支援し、安定・拡大させ、失業保険料の事業安定返還政策を引き続き実施し、一部の負担軽減・事業安定・雇用拡大政策を調整・整備し、起業への債務保証・利息補填・奨励補助を最適化する。

（2）財政の投資安定・消費促進作用を発揮する

関係部門との協同・協調を強化し、特別債資金をしっかり管理し、うまく用いて、有効な投資を牽引する。政府投資の牽引・帯同作用を発揮し、中央基本建設投資を適切に増やし、都市インフラ・交通・生態環境・社会事業等の不足を補うプロジェクト建設への民間資本の参加を奨励・誘導する。

税制・社会保障・移転支出等の調節を強化し、新エネルギー自動車購入補助政策を整備し、県域商業システムの建設キャンペーンを始動させ、県域の消費環境を改善する。

（3）科学技術イノベーションを大いに推進する

基礎研究への支援を引き続き強化し、カギ・コアとなる技術の難関攻略資金ニーズを満額保障する。

地方の科学技術発展資金を誘導する中央の役割を発揮させ、それぞれに特色ある地域イノベーションの新たな高地建設を推進する。

科学研究経費の請負制の実施範囲を拡大し、関係部門・地方・単位が速やかに管理制度を制定・改訂するよう督促・指導する。

重点産業チェーンに焦点を絞り、財政に関連する特別プロジェクト・政府投資基金の役割を発揮させ、「弱点補強」「長所鍛錬」を統一し、産業チェーンの自主コントロール能力を増強する。

国際ルールに合致した政府調達・イノベーション支援の政策体系を整備する。

（4）民生福祉を引き続き増進する

教育支出の構造を最適化し、質の高い教育体系の建設を支援する。

疫病防御の科学研究の難関攻略、ワクチン・医薬の研究開発、無料接種等の政策支援に引き続き力を入れる。

都市・農村住民の医療保険財政補助基準を適切に高め、健全な重大疾病医療保険と救済制度を整備する。

退職者への基本年金を適度に引き上げ、企業従業者基本年金の全国統一を始動し、レベルを分け分類された健全な社会救済制度を整備し、傷痍軍人・軍人家族等優遇対象者への補償と生活補助の基準を引き続き高める。

公共文化サービスシステムの整備を支援し、公共文化サービス水準の向上に力を入れる。

（5）農業・農村の優先発展を保障する

重要農産品の生産安定・供給保障を全力で支援し、農業補助政策を整備し、ハイレベルの農地整備・黒土地保護利用の支援に力を入れ、農機購入補助政策を整備する。米・小麦の最低購入価格を適切に引き上げ、備蓄コントロール能力を高める。

脱貧困堅塁攻略の成果を全面的に強固にして拡大し、主要な支援政策の安定を維持し、投入保障を積極的にしっかり行い、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にする任務が重く、農村振興を推進する底辺が脆弱な地域に傾斜させる。

（6）生態文明への財政・税制支援政策を整備する

汚染対策堅塁攻略戦を深くしっかり闘うことを支援し、北方地域の冬季クリーン暖房接取政策への支援を強化し、長江・黄河等の流域を重点に「碧い水防衛戦」をしっかり闘い、都市の黒く臭う水の対策を系統的に推進し、土壌汚染対策の展開を支援する。

山地・河川・林地・平野・湖・草地・砂漠・氷雪地の一体化した保護・修復プロジェクトを引き続き支援し、国土緑化キャンペーンの大規模な展開を深く推進する。

政府調達のグリーン建材・グリーン建築への普及・応用を強化する。

クリーンエネルギー支援政策を整備し、石炭を主とする基本国情に立脚して、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルを着実に秩序立てて推進する。

（7）会計の質の監督強化と登録会計士業界の建設を強化する

財務・会計の監督推進を重要な政治任務とすることを堅持し、重点分野に焦点を絞り監督管理を強化し、国家の民生の重点に関わる業種に焦点を絞り、会計情報の質と会計士事務所の業務執行の質の検査を強化する。

業界の統一した監督管理プラットフォームを構築し、業界への監督管理水準を高める。業界監督管理の法規・制度を整備し、会計法・登録会計士法の改正を早急に推進する。

（8）長期にわたりリスクの防止・コントロールを強化する

国家の総体としての安全と財政の持続可能な発展の保障から出発することを堅持し、重点分野のリスク解消にしっかり取り組む。

地方政府の潜在債務リスクを引き続き防止・解消し、潜在債務リスクを防止・解消する長期有効なメカニズムを整備し、ローリスク地域の全域で隠れ債務をゼロにするテストにしっかり取り組む。金融リスクの防止・解消と組合せる。

（9）現代財政体制・税制を早急に確立する

財政体制・税制改革を深化させ、消費税の課税段階を後ろに移す改革を引き続き推進し、省以下の財政体制改革の実施を推進する。

予算管理制度改革を引き続き深化させ、予算管理の一体化建設を早急に推進し、全方位・全プロセス・全カバーの予算業績効果管理システムの整備を加速し、財政資金の使用業績効果を高める。

財政分野の「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深く推進し、財政部の権限・責任リストの編成作業を着実に推進し、財政部の権限・責任事項を速やかに公開して、社会の監督を受ける。