田中 修

中国経済レポート

ダボス会議における習近平国家主席の演説

新領域研究センター 田中 修

2022年1月28日


はじめに

習近平総書記は1月17日、世界経済フォーラム(ダボス会議)ビデオ会議に出席し、演説を行った。本稿では、このうち経済関係部分の概要を紹介する。なお、重要な部分は下線で示している。

1.各種リスクを解消し、世界経済の安定・回復を促進する

世界経済は上向き始めたところであるが、多くの制約要因に直面してもいる。

グローバル産業チェーン・サプライチェーンが乱れ、大口取引商品価格が引き続き上昇し、エネルギー供給が逼迫する等のリスクが相互に交錯し、経済の回復プロセスの不確定性が激化している。

世界の低インフレ環境は顕著な変化が発生し、複合型インフレリスクが顕在化している。

もし、主要経済体が金融政策を「急ブレーキ」あるいは「急転換」すると、深刻なマイナスのスピルオーバー効果が生まれ、世界経済・金融の安定に試練をもたらし、広範な発展途上国が真っ先に被害を受けることになる。

我々は、常態化した疫病防御条件下の経済成長の新たな動力エネルギー・社会生活の新たなモデル・人員往来の新たなルートを模索し、クロスボーダー貿易の円滑化を推進し、産業チェーン・サプライチェーンの安全・円滑を保障し、世界経済の着実な回復プロセスを推進しなければならない。

経済のグローバル化は時代の潮流である。大河は海に向け奔騰し、いつも逆流に遭遇するが、いかなる逆流も大河の流れを阻むことはできない。動力はその前進を助け、阻む力はその強大化を促す。多くの逆流・危険な早瀬が出現しようとも、経済のグローバル化の方向は未だ変わらず、これからも変わらない。

世界各国は真の多国間主義を堅持し、壁を壊し壁を築かず、開放し隔絶せず、融合し離脱しないことを堅持し、開放型世界経済の構築を推進しなければならない。

公平・正義を理念としてグローバルガバナンスシステムの変革をリードし、WTOを核心とする多国間貿易体制を擁護し、十分協議する基礎の上に、AI・デジタル経済等のために各方面が普遍的に受け容れ実効性のあるルールを作り上げ、科学技術イノベーションのために開放・公正・非差別の有利な環境を作り上げ、経済のグローバル化の更なるオープン・包摂・インクルーシブ・ウインウインの方向への発展を推進し、世界経済の活力を十分奮い立たせなければならない。

現在、皆さんには一種のコンセンサスがあり、それは世界経済の危機脱却・回復実現を推進するには、マクロ政策の協調を強化しなければならないということである。

主要経済体は共同体意識を樹立し、システムの概念を強化し、政策情報の透明性・共有を強化し、財政・金融政策の目標・程度・テンポをしっかり協調し、世界経済が再び底に落ちることを防がなければならない。

主要先進国は責任ある経済政策を採用し、政策のスピルオーバー効果をしっかりコントロールし、発展途上国が深刻なダメージを受けることを回避しなければならない。

国際経済・金融機関は、建設的役割を発揮し、国際コンセンサスを凝集し、政策の協同を増強し、システミックリスクを防止しなければならない。

2.中国の経済政策

2021年は中国共産党創立100周年であった。中国共産党は、中国人民を団結・牽引して長期に艱難辛苦・奮闘し、国家の建設・発展と人民生活の改善において世界が目を見張る成果を収め、小康社会の全面実現の目標を期限どおり実現し、脱貧困堅塁攻略戦に期限どおり打ち勝ち、絶対貧困問題を歴史的に解決し、現在、社会主義現代化国家を全面建設する新たな征途を歩んでいる。

(1)中国は、質の高い発展を断固推進する

中国の総体としての発展の勢いは良好であり、21年のGDP成長率は8%前後であり、かなり高い成長とかなり低いインフレという二重の目標を実現した。

内外経済環境の変化がもたらした巨大な圧力を受けているものの、中国経済の強靭性は強く、潜在力は十分で、長期に好い方へ向かうというファンダメンタルズに変わりはなく、我々は中国の経済発展の前途について自信に溢れている。

国が富むとは、民を豊かにすることにある。

中国経済は長足の発展を収め、人民の生活水準は大幅に向上したが、人民の素晴らしい生活への願望を満足させるには、なお長期の非常に困難な努力を払わなければならないことを、我々は深く知っている。

中国は、「人の全面発展を推進し、人民全体の共同富裕が更に顕著な実質的進展を得なければならない」と明確に提起し、このために各方面で努力を進める。

中国は共同富裕を実現しなければならないが、平均主義は行わず、まずパイを大きくし、その後合理的な制度手配を通じてパイをうまく切り分け、低所得者を向上させることでその上も向上させ1、それぞれが所を得るようにして、発展の成果の恩恵が更に多く更に公平に人民全体に及ぶようにしなければならない2

(2)中国は、改革開放を断固推進する

中国の改革開放は永遠に途上にある。国際情勢がどのように変化しようとも、中国は改革開放の旗印を高く掲げる3

中国は引き続き資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更にしっかり発揮させ、いささかも揺るぐことなく公有制経済を強固にして発展させ、いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する4

中国は、統一し開放され、競争が秩序立った市場システムを建設し、すべての企業の法の前の地位平等、市場の前の機会平等を確保する。

中国は、各種資本が中国において合法的にルールに則って経営し、中国の発展のために積極的役割を発揮することを歓迎する5

中国は、ハイレベルの対外開放を引き続き拡大し、ルール・管理・基準等の制度型開放を着実に拡大し、外資企業の国民待遇を実施し、「一帯一路」共同建設の質の高い発展を推進する。

RCEPは既に22年1月1日に正式に発効しており、中国は義務を忠実に履行し、協定各方面との経済・貿易の連係を深化させる。

中国は引き続き、CPTPPとデジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)への加入プロセスを推進し、地域・世界経済に一層融け込み、互恵・ウインウインの実現に努力する。

(3)中国は、生態文明建設を断固推進する

私は常に「池を干して魚を取るように、経済の発展のために資源や生態環境を犠牲にすることはできないし、木に登って魚を取るように、生態環境保護のために経済発展を犠牲にすることはできない」と言っている。

中国は、「緑の水・青い山こそが金山・銀山である」という理念を堅持し、山・川・林地・田畑・湖・草地・砂漠が一体化した保護とシステムガバナンスを推進し、生態文明建設を全力で推進し、汚染対策を全力で強化し、人民の生産・生活環境を全力で改善する。

中国は、全世界最大の国家公園体系を建設しているところである。中国は21年、国連「生物多様性条約」第15回締約国大会(COP15)を成功裏に開催し、クリーンで美しい世界の建設を推進するために貢献を行った。

炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルは、中国の質の高い発展のための内在的要求であり、国際社会に対する中国の厳粛な約束でもある。

中国は言ったことを実行し、約束を守り、断固推進して、既に「2030年前炭素排出ピークアウト・アクションプラン」を公布しており、さらにエネルギー・工業・建築等の分野の具体実施プランを続々と公布していく。

中国は既に世界で規模最大の炭素市場・クリーン発電システムを建設しており、再生可能エネルギー発電設備容量は10億kwを超え、1億kwの大型風力発電・太陽光発電基地を秩序立てて建設着工している。

炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルの実現は、一気呵成に行うことは不可能である。中国は伝統モデルの打破と新モデルの構築を併せ打ち出し、時間をかけて着実に進め、信頼できる新エネルギーへの代替プロセスの中で、徐々に秩序立てて伝統エネルギーを減らし、経済社会の平穏な発展を確保する6

中国は、気候変動対応の国際協力を積極的に展開し、経済社会発展の全面グリーン転換を共同推進する。

  1. 原文は「水面が上昇すれば、船も上昇する」
  2. 毛沢東流のドラスティック・画一主義的な社会主義政策を採用せず、まずは発展を重視する旨を強調している。
  3. 改革開放政策を放棄しない旨を再確認している。
  4. 引き続き民営企業の発展を支援する旨を明らかにしている。
  5. 「民営企業叩き」を行うことはなく、法と市場ルールに従えば、外資企業・民営企業を歓迎する旨を強調している。
  6. 21年の石炭・電力不足の反省を踏まえ、現実的な炭素排出削減政策を着実に進めていく旨を明らかにしている。