田中 修

中国経済レポート

人民銀行行長インタビュー

新領域研究センター 田中 修

2022年1月13日


はじめに

人民銀行の易綱行長は、新華社のインタビューを受け、2022年の金融政策の方針を語った(新華社2021年12月30日)。また、人民銀行は2022年1月1日、2つの直接到達手段の接続・転換政策を発表した。本稿では、その概要を紹介する。

1.人民銀行の易綱行長新華社インタビュー(新華社2021年12月30日)
(1)マクロ・コントロールの重点

中央経済工作会議は、2022年の経済政策は「穏」(安定・穏健)を第一とし、安定の中で前進を求めなければならないと強調している。穏健な金融政策は柔軟・適度で、流動性の合理的充足を維持しなければならない。2022年に「穏」を強調しているのは、現在の内外情勢に基づくものである。

国内を見ると、わが国経済の強靭性は強く、長期に好い方へ向かうというファンダメンタルズに変わりはないが、需要の収縮・供給のダメージ・予想の弱気化という三重の影響の下、短期的に下振れ圧力に直面しており、マクロ経済の大基盤を安定させなければならない。

国際的には、世紀の疫病の衝撃の下、外部環境は更に複雑・峻厳・不確定化の傾向にあり、内部・外部のバランス擁護の難度が一層増大しており、これも安定した経済環境と政策環境によって、各種の外部の不確定性に対応することを要求している。

2021年に入り、人民銀行は我を主とし、「穏」の字を第一とすることを堅持し、金融政策の展望性・有効性・精確性を一層高め、実体経済に対する金融支援を一層強化している。

2022年、人民銀行は中央経済工作会議精神を真剣に貫徹実施し、実体経済への金融サポート能力を一層増強する。具体的に言えば、主として3つの「穏」に体現される。

①マネー・貸出総量を安定(穏定)的に伸ばす

マネーサプライと社会資金調達規模の伸びが、名目成長率と基本的に釣り合うことを維持する1

②金融構造を着実(穏歩)に最適化する

2021年に入り、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援は、既に4200万社(件)を超える小型・零細経営主体を支援している。

今後、人民銀行は精確に施策を行い、金融機関が実体経済とりわけ小型・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展への支援を増やすよう誘導し、質の高い発展を支援する。

③総合資金調達コストを安定の中で引き下げる

2021年の企業向け貸出の平均金利は既に5%以下であり、統計を始めて以降最低となっている。

今後、人民銀行は市場化された金利の形成・伝達メカニズムを整備し、貸出プライムレート改革の効果を発揮させ、企業の総合資金調達コストの安定の中での引下げを推進する。

(2)2つの直接到達手段の接続・転換

2020年、歴史上まれにみる疫病の衝撃に直面し、人民銀行は党中央・国務院の政策決定・手配を断固貫徹し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)任務をしっかり実施した。

我々は、2つの実体経済に直接到達する金融政策手段を創造的に提起した。

①困難に遭遇した小型・零細企業の借入の元本償還・利払いを猶予した。

②小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを強化した。

この2つの手段は、ミクロ主体のニーズに向き合い、政策設計も市場化されており、持続可能性を備え、市場の反応は良好であった。


2022年、人民銀行は2つの直接到達手段政策の接続・転換政策をしっかり実施する。

①小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段を実施し、2022年から23年6月末まで、人民銀行は地方法人銀行が小型・零細企業、個人工商事業者向けインクルーシブファイナンスを行った場合、残高の増加分の1%の資金を提供し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの増加を奨励する。

②小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを、「三農」、小型・零細企業支援計画の管理に組み入れ、元々小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスに用いていた4000億元の再貸出額の繰延使用を認め、必要なときは再貸出をさらに一層増額することを認める。

直接到達手段の実施は、市場化原則を引き続き堅持し、主として3方面を体現する。

①銀行・企業の自主的な政策決定は、更に市場化しなければならない。

②プラスのインセンティブの誘導を体現する。

手段の中にインセンティブメカニズムを組み込み、金融機関の積極性を動員し、中小・零細企業向け融資の量の増大・範囲の拡大・金利の引下げを促進する。

③穏健の原則を堅持する。

中小・零細企業への支援を増やすと同時に、穏健な経営、リスクの防止を奨励する。

(3)炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル支援特別手段

炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルへの金融支援は、人民銀行の重要政策である。11月、人民銀行は2つの炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル支援特別手段を打ち出した。

①炭素排出削減支援手段

クリーンエネルギー、省エネ・環境保護、炭素排出削減技術の3つの重点分野を支援する。

②石炭クリーン・高効率利用支援特別再貸出

石炭のクリーン生産・クリーン燃焼技術の運用等7つの分野を支援することは、エネルギー供給の安全を保障するのみならず、科学的に秩序立った炭素排出削減に有益でもある。

2つの手段は、金融機関が自主的に政策決定し、自らリスクを担い、人民銀行は条件の合致する貸出について、一定の割合で低コスト資金を与える。

人民銀行は、金融機関が炭素排出削減貸出の実施情況、及び貸出が牽引する炭素排出削減量等の情報を公開披露するよう要求し、第三者専門機関により調査・検証を進め、社会大衆の監督管理を受けさせる。

2021年の年末前に、金融機関に向けて第1弾の資金を提供する。2つの手段・政策の推進は、市場の役割発揮を更に重視し、社会(民間)資金が更に多くグリーン・低炭素分野へ向かうよう奨励し、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルの目標の科学的で秩序立った実現に助力する。

(4)中国の金融リスク

2018年以降、党中央の総体手配に基づき、人民銀行は国務院金融安定発展委員会の指揮の下、関係部門・地方政府と共に、重大リスクを防止・解消し、段階的成果を収めた。

現在、わが国の金融システムの運営は総体として平穏であり、金融リスクは全体として収斂し、総体としてコントロール可能である。

①マクロレバレッジ率の持続的上昇の勢いに有効な歯止めがかかった。

2020年の疫病の衝撃下、段階的な上昇が出現したが、21年に入り既に反落し、基本的に安定の軌道に達した。

②いくらかの際立ったリスクポイントについて、秩序立てて処理した。

シャドーバンキング、乱脈金融、違法な資金収集等のリスクに有効な歯止めをかけた。金融監督管理を強化し、反独占強化で実効を上げた。

③金融リスク防止・解消の制度建設を強化した。

マクロプルーデンス政策の枠組、金融インフラの監督管理、金融業総合統計等の各制度を一層整備し、金融市場の効率とリスク抵抗能力が顕著に増強された。

これまで、個別ディベロッパーが、自身の経営の不良、盲目的な多元化・拡張等の要因により、リスクの顕在化をもたらした。個別ディベロッパーにリスクが発生して以後、関係部門と地方政府は既に積極的に措置を採用し、リスクを穏当に秩序立てて解消し、庶民とディベロッパーの正常な融資ニーズを満足させ、市場の予想は徐々に改善しているところである。不動産市場の構造調整は、不動産の新たな発展モデルの形成に有益であり、不動産業の良性循環・健全な発展を実現する。

総体として見れば、市場経済の中で発生したリスク事件については、市場化・法治化の原則により処理することを堅持し、株主・管轄地の責任を徹底させ、各種リスクを穏当に解消し、最も広範な人民大衆の根本利益を保護しなければならない。

2.2つの直接到達手段の接続・転換(2022年1月1日)
(1)公表内容

小型・零細企業支援に関する党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹実施するため、国務院常務会議の決定に基づき、人民銀行は通知を下達し、2022年1月1日から小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス期限延長支援手段と小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援計画の2つの直接到達手段の接続・転換を実施する。

①小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス期限延長支援手段を、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段に転換する。

金融機関と企業は、市場化原則に基づき、元本償還・利払いを自主的に協議する。2022年から23年6月末まで、人民銀行は地方法人銀行の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの残高増加分の1%の資金を提供し、四半期ごとにオペレーションを行い、引き続き小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスを増やすよう奨励する。

②2022年から、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援計画を、「三農」、小型・零細企業支援再貸出管理に組み入れる。

元々小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援に用いていた4000億元の再貸出額の繰延使用を認め、必要なときは、再貸出の一層の増額を認める。

条件に合致する地方法人銀行が行う小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスについては、「三農」、小型・零細企業支援再貸出優遇資金支援を人民銀行に申請することを認める。

人民銀行は、引き続き接続・転換の市場化手段の牽引・帯同作用を十分しっかり発揮させ、プラスのインセンティブメカニズムを確立し、地方法人銀行が自主的に政策を決定し、自らリスクを担って無担保貸出を含む小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスを拡大するよう誘導し、新たな融資ニーズを積極的に発掘し、小型・零細企業、小型・零細企業の責任者、個人工商事業者への支援を強化し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの量の増大・金利の引下げ・範囲の拡大を引き続き推進し、企業の安定・雇用の保障に助力し、マクロ経済の大基盤の安定を促進する。

(2)何故、2つの直接到達手段を接続・転換するのか?

新型コロナ感染症の小型・零細企業へのダメージを緩和するため、2020年、人民銀行は党中央・国務院の手配を貫徹し、2つの実体経済に直接到達する金融政策手段を創設し、暫時困難に遭遇した小型・零細企業の借入について、金融機関が元本償還・利払いを猶予することを支援し、金融機関が小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを強化することを奨励した。

2つの直接到達手段は、小型・零細企業の段階的元本償還・利払い圧力を有効に軽減し、小型・零細企業の担保不足・資金調達難の問題を緩和した。国務院常務会議の決定に基づき、直接到達手段は2021年末まで実施を延長した。

小型・零細企業は、国民経済で重要な地位を占めており、小型・零細市場主体は数が多く、範囲が広く、経済活力を示すものであり、雇用を牽引する主力軍でもある。

現在のわが国経済の下振れ圧力と小型・零細企業が直面する実際の問題を考慮し、小型・零細企業への金融支援を引き続き強化することは、企業を安定させ雇用を保障することに有益であり、マクロ経済の大基盤の安定に有益である。

これまで2つの直接到達手段は既に2回期間を延長したが、今回人民銀行が市場化方式を採用して、2つの直接到達手段について接続・転換を進めることは、市場主体への支援の程度を維持し強固にすると同時に、更に持続可能な方式を用いて市場主体保障への金融支援を引き続きしっかり行うことに有益である。

(3)小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段はどのように操作するのか?

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段の中にはインセンティブメカニズムが組み込まれており、金融機関の積極性を十分動員し、小型・零細企業向け融資の量増加・金利引下げ・範囲拡大を促進する。

①手段が支援する機関の範囲は、要求に合致する地方法人銀行である。

これには、都市商業銀行・農村商業銀行・農村合作銀行・農村信用社・村鎮銀行・民営銀行(インターネット銀行を含まない)等の6種類が含まれる。

②小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高の増加分に基づき、地方法人銀行に向けて資金を提供する。

人民銀行は金融政策の操作を通じて、地方法人銀行に資金を提供し、資金額は、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高の前四半期比の伸びの1%で確定する。

資金は四半期ごとに審査して提供し、当季の残高の伸びがマイナスであれば、次の四半期で補充してから増加分を再計算し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの持続的な伸びを推進する。

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高の増加分に応じて奨励を進めることは、地方法人銀行がこれまでの顧客の借入ニーズを市場化により引き続き支援することに有益であり、地方法人銀行が新たな顧客を発掘して小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスを行うことの促進にも有益である。

③穏健の原則を堅持する。

関係貸出の信用リスクをなお金融機関が引き受けることにより、モラルハザードを防止する。

経営が穏健で、潜在力のある地方法人銀行が、リスクの防止・コントロールをしっかり行う前提の下、小型・零細企業への支援を強化することを奨励する。

(4)小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援計画を、いかに「三農」、小型・零細企業支援再貸出管理に組み入れるのか?

「三農」、小型・零細企業支援再貸出は、人民銀行の構造的金融政策手段であり、地方法人銀行が「三農」関連と小型・零細企業向け無担保貸出を拡大することを有効に支援してきた。

人民銀行は、2021年12月7日、1年物「三農」、小型・零細企業支援貸出金利を0.25ポイント引き下げて2%とし、「三農」、小型・零細企業支援再貸出金利を更に優遇した。

2022年から、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援計画はもう実施せず、支持計画の4000億元は、「三農」、小型・零細企業支援再貸出額管理に組み入れ、「三農」、小型・零細企業支援再貸出を現行の基礎の上で増額する。

条件に合致する地方法人銀行が引き続き行った小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスについては、「三農」、小型・零細企業支援再貸出優遇資金支援を人民銀行に申請することを認める。

  1. 中央経済工作会議では削除されたが、ここでは再度強調している。