田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(79)

新領域研究センター 田中 修

2021年12月28日


はじめに

本稿では、12月1日・15日・23日の国務院常務会議、20日の貸出プライムレート引下げ、24日の国務院参事・中央文史研究館館員座談会の概要を紹介する。

12月1日 国務院常務会議
(1)中小企業への代金未払い対策

中小企業への代金未払いと出稼ぎ農民への賃金未払いは、市場化・法治化・国際化されたビジネス環境建設推進に直接関わるものである。

今年に入り、内外の複雑・峻厳な環境と疫病の多くのスポットでの散発等の影響を受けて、中小企業の売掛金の伸びがかなり速く、代金未払い情況も増大している。

党中央・国務院の手配を貫徹し、市場主体の要求に基づき、法・規定に基づいて中小企業への代金未払い対策を強化しなければならない。

①「中小企業への代金支払い保障条例」を厳格に執行する

市場の優位な地位を濫用した悪意による代金未払いを取り締まらなければならない。

政府機関・公益事業体が中小企業から貨物・工事・サービスを調達した場合は、貨物・工事・サービス提供の日から30日以内に代金を支払わなければならず、最長でも60日を超えてはならない。

政府機関・公益事業体と大企業は、中小企業に対し商業手形等の非現金方式で受け取るよう強制してはならず、商業手形を濫用して形を変えた中小企業資金の占用を行ってはならない。

大企業は、年度報告において、社会に向けて期限を超えた中小企業への未払代金を公開しなければならない。

②地方の管轄地責任と部門の監督管理責任を徹底させる

会計検査による監督を強化し、政府機関・公益事業体・国有大企業が中小企業に代金を支払わなかった場合は、法に基づき厳しく調査・処分と厳格な問責を行い、ひどく信用を失墜した場合には公開して白日の下に晒さなければならない。

③長期有効なメカニズム建設を強化する

建設工事の代金清算に関連する健全な制度を整備し、工事の進度に応じて支払い割合を高めなければならない。保険による保証金代替を全面的に推進する。

「ビジネス環境最適化条例」等の法規の関連・付帯政策を早急に制定し、根本から代金未払い問題を減少・防止しなければならない。

(2)出稼ぎ農民への賃金未払い対策

出稼ぎ農民への賃金支払い即時全額保障は、出稼ぎ農民の家庭の基本民生に関わる大事である。

年末・年初は正に各種プロジェクト・工事の清算期に当たり、冬季特別行動を展開して出稼ぎ農民への賃金未払い対策を強化し、工事建設とりわけ政府投資と国有企業プロジェクトを重点として、出稼ぎ農民の専用口座への支払い、施工請負単位の代理支払い等の保障制度の実施情況を全面調査し、市場監督管理と会計検査による監督を強化しなければならない。

法・規定に基づき賃金未払い行為を厳しく懲罰し、職責を履行しなかった公職者に対しては通報・問責を行う。出稼ぎ農民の合法権益を確実に擁護する。

12月15日 国務院常務会議
(1)中小・零細企業への金融支援強化

中央経済工作会議精神を貫徹実施するには、経済建設を中心とすることを堅持し、「穏」(安定・穏健)の字を第一とし、安定の中で前進を求めることを堅持し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策をしっかり実施しなければならない。

現在、中小・零細企業と個人工商事業者が直面する困難は大きく、市場主体の保障・新たな経済下振れ圧力への対応を軸に、市場化の方法を運用して中小・零細企業と個人工商事業者への金融支援を増やさなければならない。

①小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払猶予支援手段を小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段に転換する

2022年から2023年6月末まで、人民銀行は地方法人銀行が行う小型・零細企業、個人工商事業者向けインクルーシブファイナンスについて、残高増加分の1%の資金を提供し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの増加を奨励する。

②2022年から、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを「三農」、小型・零細企業向け再貸出支援計画の管理に組み入れる

元々小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援に用いる4000億元再貸出を回転させて使用することを認め、必要があれば再貸出を更に増額することを認める。

条件に合致した地方法人銀行が小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを行った場合、人民銀行に対し再貸出優遇資金支援を申請することを認める。

③全国一体化した融資信用サービスプラットフォームネットワークを構築する

中小・零細企業向け融資へのサービスを基本方向とし、法・規定に基づき、情報の安全を確保する前提の下、市場主体の登録登記・行政処罰・司法判決及び執行・納税・社会保険料納付等の情報共有を早急に推進し、銀行が中小・零細企業へのサービス能力を高めるよう助力する。

④金融機関の中小・零細企業向け貸出の業績効果審査・職務を尽くした場合の免責等の規定を整備する

金融機関が小型・零細企業特別金融債券を発行することを支援する。小型・零細企業向け政府信用保証業務の規模を拡大し、保証料のコストを引き下げる。

(2)製造業支援強化

製造業は、経済発展の重要な基礎・支えである。わが国は製造業大国であるが、先進製造水準に比べるとなお小さくない格差がある。

製造業の困難緩和と発展に対する支援を強化し、製造業のロー・ミドルエンドからミドル・ハイエンドへの邁進を着実に推進しなければならない。

①減税・費用引下げ政策実施を製造業に傾斜させる

R&D費用の割増控除・増値税の留保分還付等の政策を強化し、企業の科学技術イノベーションと伝統産業の改造・グレードアップを支援しなければならない。

製造業向け中長期貸出・無担保貸出の規模を拡大する。

②製造業分野の「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させる

企業の経営許可に係る事項のリスト管理を実施し、製造業企業の活力を更に大きく奮い立たせる。

③先進製造業を発展させ、製造業のデジタル化転換を加速する

企業が率先してイノベーション連合体を組成することを奨励し、カギ・コアとなる技術の堅塁攻略を早急に推進する。先進製造業と現代サービス業の深い融合を促進する。

④大企業が牽引して更に多くの中小企業をサプライチェーン・イノベーションチェーンに参入させるよう奨励する

更に多くの「専門的・精密・特色ある・革新的な」「小さな巨人」企業の成長を支援する。

⑤国際協力を深化・拡大する

外資企業がミドル・ハイエンド、研究開発センター等への投資を増やすことを支援する。産業チェーン・サプライチェーンの安定を擁護する。

3.貸出プライムレート引下げ(新華社2021年12月20日)

人民銀行は12月20日、貸出プライムレート(LPR)を、1年物を3.8%、5年以上を4.65%とすると、公表した。金利の市場化改革深化の重要な一歩として、2019年8月17日、人民銀行はLPRを各銀行の新規貸出の主要な参考とし、毎月定期的に公表すると宣言した。2020年4月20日、改革を行って以来単月で最大の利下げを行って以降、1年物と5年以上のLPRは連続19期不動のままであったが、今年12月20日に至り、1年物 LPRは5ベーシスポイント引き下げられ、5年以上LPRは調整が行われなかった。

業界関係者は、「わが国経済発展が、需要の収縮・供給のダメージ・予想の弱気化の三重の圧力に直面している背景の下、金融政策は最近成長安定への支援を強化している。今回のLPR引下げは、実体経済の資金調達コスト引下げを直接推進し、消費・投資の成長回復を牽引する重要なシグナルを発している」とみている。

東方金誠の王青首席マクロアナリストは、「今回の1年物LPRの引下げは、企業の実質貸出金利の一層の低下を更に誘導することが期待され、原材料価格の上昇が企業にもたらす圧力を緩和し、企業の借入需要を奮い立たせるものである。最も小幅の調整は、一面において貸出金利を引き下げ、市場の自信を安定させ、予想を誘導することに有益であり。他方で、金融政策の方向性は変わらず、まだ緩和に向けて滑り出しているわけではないことを表明している。人民銀行は、なお正常な金融政策を堅持しており、政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、『バラマキ』を行っていない」とする。

少し前に閉幕した中央経済工作会議も、わが国の金融政策の基調「穏健な金融政策は柔軟・適度で、流動性の合理的充足を維持する」を繰り返している。

指摘に値するのは、今回の調整において、個人住宅ローンと連動する5年以上LPRが不変を維持しているのは、「住宅は投機の対象ではない」という位置づけを体現しているということである。

中国民生銀行の温彬首席研究員は、「5年以上のLPRを変えず、不動産を短期的経済刺激の手段としないことは、不動産市場の平穏で健全な発展擁護に有益である。同時に、引き続きLPR改革の潜在力を発揮させることは、資金調達コストの安定の中での低下を促進し、経済運営を合理的区間におく助けとなる」と述べている。

12月23日 国務院常務会議

(対外貿易の安定・発展)

今年、わが国の輸出入は急速に伸び、経済成長の安定に貢献した。しかし、現在対外貿易が直面する不確定・不安定・アンバランス要因は増大している。

党中央・国務院の手配を実施し、中央経済工作会議の要求に基づき、開放を一層拡大し、困難・試練への対応措置を推進し、周期を跨ぐ調節をしっかり行い、企業の困難緩和支援とりわけ中小零細企業を支援し、受注の維持・予想の安定に努力し、対外貿易の平穏な発展を促進しなければならない。

①輸出入への政策支援を強化する

減税・費用引下げ措置を実施する。輸出に係る税還付の進度を加速し、税還付の平均時間を6営業日以内に圧縮する。

銀行が対外貿易企業のニーズと結びつけて、保証付き融資等の商品を刷新するよう誘導する。

人民元レ-トの基本的安定を維持し、銀行が先物為替予約業務を的確に展開するよう奨励し、対外貿易企業の為替レートリスク対応能力を高める。輸出信用保険の引受け・保険金支払い条件を最適化し、中小・零細対外貿易企業や商品発送前の発注取消しリスク等に対する保障を強化する。

東部と中西部・東北地方との協力・共同建設を深化させ、加工貿易の段階的な移転・受入を支援する。大口取引商品の輸入をしっかり行う。

②越境Eコマース等の対外貿易新業態の発展を一層奨励する

越境Eコマース総合テスト地区を増設する。いくらかのオフショア貿易センター都市(地域)を育成する。市場化方式に基づき、海外倉庫の建設・使用に対する支援を増やす。越境Eコマース小売商品輸入リストを最適化し、輸入の類別を拡大する。

③企業に対する付帯サービスを強化する

企業が内外貿易において、同一生産ライン・同一レベル・同一品質の商品を発展させ、貿易ルートを拡大し、サプライチェーンを整備する等の方面で遭遇した問題の解決を推進する。2022年、加工貿易企業の国内販売について、租税延納に係る利息を暫時免除する。

④国際物流の圧力を緩和する

対外貿易企業と海運企業が長期協定を締結することを奨励する。法・規定に基づき、規定に反した手数料徴収・輸送価格吊上げ等の行為を取り締まる。

金融機関が条件の合致した小型・零細貿易企業に向けて物流方面のインクルーシブファイナンス支援を提供することを支援する。

⑤地方が実際と結びつけて健全な制度を確立することを支援する

貿易調整援助政策を積極的に展開し、産業チェーン・サプライチェーンの安定に助力する。

12月24日 国務院参事・中央文史研究館館員座談会

李克強総理の発言の中で、経済に関係する部分は、以下のとおりである。

経済政策は党の治国・執政の中心活動であり、発展はわが国の一切の問題を解決する基礎・カギである。現代化を実現するには、経済建設を中心とすることを堅持し1 、長期の艱難辛苦・卓絶した努力を払わなければならない。

ここ数年、複雑峻厳な内外環境とりわけ疫病等の巨大な衝撃に直面し、我々はマクロ・コントロールを刷新・実施し、「バラマキ」式の強い刺激を行わず、むしろ市場主体という「青山」をしっかり軸としてマクロ政策を実施し、改革開放を推進して、引き続き市場の活力と社会の創造力を奮い立たせた。

わが国の1億社(件)余りの市場主体は、社会の富の創造者であり、絶大部分の雇用を支えてきた。積極的財政政策は市場主体のための減税・費用引下げを際立たせ、穏健な金融政策は市場主体のための融資の増加・円滑化、コストの引下げを際立たせ、とりわけ雇用優先をマクロ政策に格上げし、市場主体の保障を通じて雇用・民生を保障し、比較的小さな代価で衝撃を耐え抜き、経済運営を合理的区間に維持し、周期を跨ぐ調節の目標を実現した。

現在、世界の疫病と経済情勢は錯綜し複雑であり、わが国経済には新たな下振れ圧力が出現しており、皆さんがマクロ・コントロールの刷新、市場主体の壮大化、基本民生の保障等をめぐり深く調査研究し、正確で透徹した見解で貢献することを希望する。

発展の目的は民生福祉の増進であり、皆さんが義務教育、高齢者介護、医療、住宅等の分野の基本民生問題をめぐり深く調査研究し、大衆が関心をもつ差し迫った難儀・憂いを多く反映させ、的確な建議を多く提起することにより、政府の施政の重点が民の望む所に更にしっかり絞り込まれるようになることを希望する。

  1. ここでも、中央経済工作会議と同様に、「経済建設を中心とすることの堅持」が強調されている。