田中 修

中国経済レポート

預金準備率の引下げ

新領域研究センター 田中 修

2021年12月9日


はじめに

人民銀行は12月6日、15日に金融機関預金準備率を0.5ポイント引き下げることを決定した。本稿では、決定の内容、責任者の解説、エコノミストの論評、並びに恒大集団問題に関する人民銀行の見解を紹介する。

1. 決定の概要(12月6日)

実体経済の発展を支援し、総合資金調達コストの安定の中での引下げを促進するため、中国人民銀行は2021年12月15日に、金融機関預金準備率を0.5%引き下げる(既に5%の預金準備率を執行している金融機関を含まない)ことを決定した。今回の引下げ後、金融機関の加重平均預金準備率は8.4%となる。

中国人民銀行は、引き続き穏健な金融政策を実施し、「穏」(穏健・安定)の字を筆頭に置くことを堅持し、バラマキを行わず、内外のバランスを併せ考慮し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目成長率と基本的に釣り合わせ、周期を跨ぐ調節を強化し、今年・来年2年のマクロ政策を統一的にしっかりリンクさせ、中小企業・グリーン発展・科学技術イノベーションを支援し、質の高い発展とサプライサイド構造改革のために適切なマネー・金融環境を作り上げる。

2. 人民銀行責任者の解説(12月6日)
(1)今回の準備率引下げは、穏健な金融政策の方向性に変化が発生したことを意味するか?

穏健な金融政策の方向性に変わりはない。

今回の準備率引下げは、金融政策の通常のオペレーションであり、解放された一部の資金は金融機関により期限の到来した中期貸借ファシリティー(MLF)の返還に用いられ、一部は金融機関により長期資金の補充に用いられて、市場主体のニーズを更に好く満足させることになる。

人民銀行は正常な金融政策を堅持し、政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、バラマキを行わず、質の高い発展とサプライサイド構造改革のために適切なマネー・金融環境を作り上げる。

(2)今回の準備率引下げで考慮したことは何か?

今回の準備率引下げの目的は、周期を跨ぐ調節を強化し、金融機関の資金構造を最適化し、金融サービス能力を高め、実体経済を更にしっかり支援することにある。

①流動性の合理的充足を維持すると同時に、実体経済を金融機関が支援するための長期に安定した資金源を有効に増やし、金融機関の資金配分能力を増強する。

②金融機関が準備率引下げで得た資金を積極的に運用し、実体経済とりわけ中小・零細企業への支援を強化するよう誘導する。

③今回の準備率引下げは、金融機関の資金コストを毎年約150億元引き下げ、金融機関の伝達を通じて、社会総合資金調達コストの引下げを促進することができる。

(3)今回の準備率引下げは、どれくらいの資金を解放するのか?

今回の準備率引下げは、全面的な準備率引下げであり、既に5%の預金準備率を執行している県域法人金融機関を除き、その他金融機関に対して遍く預金準備率を0.5ポイント引き下げる。

同時に、インクルーシブファイナンスのための方向を定めた預金準備率引下げ審査に参加している大多数の金融機関が、いずれも「三農」支援、小型・零細企業支援(個人工商事業者を含む)等の審査基準に達し、政策目標を既に実現し、関係金融機関が最優遇ランクの預金準備率を統一的に執行していることを考慮すると、今回の準備率引下げは合計で長期資金約1.2兆元を解放することになる。

3. 識者のコメント(中国証券報2021年12月7日)
(1)植信投資チーフエコノミスト兼研究院院長 連平

準備率引下げは大量の長期資金を解放し、金融システムの流動性を補充できるが、更に重要な役割は、銀行の負債状態の改善を通じて、商業銀行の貸出を支援することにある。

(2)交通銀行金融研究センター首席研究員 唐建偉

今回の準備率引下げは、両方面の役割を発揮することができる。

①経済の下振れ圧力を緩和し、年を跨ぐ経済の変動をなだらかにし、周期を跨ぐ調整を強化する効果を生み出すことができる。

②市場の予想の安定に資する。

今回の準備率引下げは、金融政策の穏健な方向性を変えるものでないのみならず、金融政策の構造的特徴を変えるものでもない。

今回の準備率引下げによる資金は、実体経済への利潤移譲に着眼したものであり、とりわけ中小・零細企業、グリーン、科学技術イノベーション、製造業等の重点分野・脆弱部分への支援を強化するものである。

(3)民生銀行首席研究員 温彬

今回の準備率引下げは、金融政策の「我を主とする」特徴を体現したものである。最近、FRBの金融政策引締めの予想が比較的明確になり、債券購入規模の削減が既に実施され、来年利上げが開始されることが相当な割合で定まっている。

わが国がこの時期に準備率を引き下げたことは、わが国の金融政策が十分な独立性を有していることを説明するものである。

今回の準備率引下げは、金融システムの資金構造の最適化に資するものであるが、穏健な金融政策の基調に決して変わりはない。

わが国は、昨年疫病のピークが過ぎて後、金融政策は徐々に常態に回帰している。中央銀行は、主として売り買いオペとMLF操作で市場の流動性を調節し、市場金利が政策金利を軸に運営されるよう誘導しており、このような流動性調節の通常モデルが基本的に形成されている。

(4)中南財経政法大学デジタル経済研究院執行院長 盤和林

今回の準備率引下げは、わが国経済・金融市場の運営にポジティブな影響をもたらす。預金準備率の引下げは、低コスト資金を解放し、投資家に自信をもたらしもする。

準備率の引下げあるいは実質金利の引下げの推進は、企業債・地方債等の債券の資金調達コストを引き下げることができ、企業・地方政府などの発行主体の資金調達に有利であり、来年の新たなインフラ建設推進等のために資金を累積するものである。

(5)東方金誠チーフアナリスト 王青

今回の準備率引下げは、金融政策の自主性が際立っており、人民元レートに顕著な切下げ圧力をもたらすものではない。

現在と将来一時期、わが国の輸出がかなり高い伸びを続けることを考慮すると、人民元レートは強い勢いの運営を維持することが見込まれる。

事実上、今回の準備率引下げは、輸出企業のために、更に安定・有利な為替レート環境を提供することができる。

4. 恒大問題に関する人民銀行責任者のコメント(12月3日)
(1)恒大は、担保責任を履行できなくなる可能性がある旨の公告を開示したばかりであるが、これをどう評価するのか?

恒大集団にリスクが出現したのは、主として自身の経営がまずく、盲目的に拡張したことに由来するものである。

海外ドル債市場は高度に市場化され、投資家はかなり成熟しており、弁別能力がかなり強く、関係問題の処理にも明確な法律・規定・手続がある。短期的には個別ディベロッパーにリスクが出現するが、中長期市場の正常な資金調達機能に影響を及ぼすことはない。

最近、国内不動産販売・土地購入・資金調達の行為は、既に常態に回帰しており、いくらかの中国資本ディベロッパーは海外債券を買い戻しており、一部の投資家は中国資本ディベロッパーのドル債券を買い始めてもいる。

中国は常に公平な市場環境を作り上げ、中国の金融市場の双方向の開放を穏当に秩序立てて推進する。

関係部門は、海外市場の関係監督管理部門との意思疎通を引き続き維持し、海外で債券を発行する企業及びその株主が、市場紀律・ルールを厳格に遵守し、市場化・法治化の原則に基づき、自身の債務問題を適切にしっかり処理し、法定債務償還義務を積極的に履行するよう懇切に促し、企業が資金を投じて海外債券の資金償還を行い、あるいは海外債券を買い戻す場合には、関係部門は現行政策の枠組の下で支援・便宜を提供する。

(2)広東省人民政府は、恒大集団に対策グループを派遣することに同意したが、これをどう評価するか?

恒大不動産集団有限公司の要求に応じ、広東省人民政府は恒大不動産集団有限公司に対策グループを派遣することに同意した。これは、企業のリスク処理活動を推進し、内部コントロール・管理を確実に強化するよう督促し、正常な経営を擁護する有力な措置であり、人民銀行はこれに支援を表明した。

我々は、広東省政府・関係部門・地方政府と引き続き協調し、リスク解消活動をしっかり行い、不動産市場の平穏で健全な発展を擁護し、住宅消費者の合法権益を擁護する。